ポルカーン転生後
今から16年前。まだ寒さの残る3月のこと。肉体を失い監獄に幽閉されたポルカーンは、ついに脱獄する術を見つけた。それは、転生する事だ。魔の果実なんかに、なってたまるか!と言わんばかりに。
その木は、主に真下にある囚人の魂が栄養となっている。下の監獄は極悪人で、一生釈放されることはない。そうやって死んでいった者たちの魂は、魔の果実となり、再びこの世に現れる。果実に転生というのも、極悪人の定めなのだ。
だが、大魔導士のポルカーンは一味違う。即席で転生魔法を試してみた。結果、心臓と身体が別々となったが、生きているならオーケー。彼女は自身の心臓を、誰も近寄らない魔の果実に紛れ込ませた。擬態もしっかりした、はずだった。
ポルカーンは早朝の朝日に目を覚ます。彼女は養子として、アリサ家にお世話になっていた。
今日から、国内1の学校に入学する彼女は、憂鬱な気分だ。なぜなら、彼女は既に大魔導士。国内1だろうが、行く価値がないと考えていたから。「それよりも早く第2の人生を謳歌したいのぅ」とつぶやく。彼女の独特な口調は、今後も治らないのかもしれない。
入学式を済ませ、一応の学級代表に選ばれる。
「号令お願いします、ナーナ・アリサさん」
13年の月日が流れても、未だに慣れない呼ばれ方。
「礼」
授業はつまらない。何が“国内最高の学校”なのか。設備が良い学校だとしか思えない。でも、才能のある若者が集まるのは、いい事だと思う。
この学校に来て3年目を迎える。ポルカーン、いや、ナーナは生徒会長になった。全てにおいてトップの成績を収めており、人望も厚い。生徒会長をやるにふさわしい人物だった。新入生に、会長として言葉を送るのだ。この日のために、発表する原稿も覚えた。
「次は、生徒会長のナーナさんのお話です。よろしくお願いします」
ナーナ「はい!」
会場に、元気いっぱいな声が響く。彼女の激励の言葉が、優秀な新入生の視線を集めていた。ルックスを見れば、誰からもモテる彼女を、新入生諸君は誰も視界に入れざるをえなかった。
ナーナが在席した当時、校内の男子は「あなたの初恋の人は誰ですか?」と聞くと、決まって「ナーナ」と答えていた。女子にも、こうやって言う者は少なくなかった。それ程、彼女は人気者だった。スタイルでは少し見劣りしていたかもしれないが、金髪美少女で元気な優等生。モテないはずがなかった。
卒業した彼女は、医療計画の仕事に勤める事になった。もう悪趣味な魔道士にはならないと、心に決めていたポルカーンの決意だ。
しかしやはり、いや,当然というべきか。ポルカーンには合わなかった。彼女の弱点は、貧相な体つきの他にもある。その一つが、「しごとをする」という事だった。
致命的な弱点なのだが、彼女は極度のニート体質。その結果、前世で怪しいものばかり作ってしまい、「危険物製造大魔道士」という噂で囁かれていた。結局、ポルカーンは無実の罪で捕まってしまったのだ。代表的なものをあげると、白弾や電流弾、指輪型殺人爆弾に、一瞬で広範囲有毒ガスを噴出する遠隔ミサイルなどなど。最強衝撃吸収服は、彼女の最高傑作だと言えた。
これらは、魔物退治で実践していた。ポルカーンは、これが最高に楽しかった。単独行動を好んでいたので怪しまれても当然といえば当然だ。そんなサイコパス魔道士の性格は、転生して優等生になっても治ることはなかったのだ。
しかし、彼女がまた闇落ちする前にあることが起こった。