魔城
「いざ、勝負!」
決闘が始まる。相手の男は、石細工の人のようで、賞品には他にも多くの骨董品らしき物が並んでいた。名を、ケルドンという。身長は俺と同じ程だが、筋肉が美しい青年。あと、ルールとして素手での勝負のため、純粋な力勝負だ。
ケルドン 「そろそろ暑くなって来たのに、なんでフードかぶっとるのか?」
ミズモ 「こっちの事情だ、気にすることは無い」
ケルドン 「武器でも持っとったら訴えるぞ」
彼は陽気な性格で、闘争心に燃える男。クラスに一人はいる、部活に全力で取り組んでいて、友達が多いタイプの人物だと感じる。元いた学校では、剣術部が人気だったような…。
彼に変身し、対抗しなければ。
パッ!
スキルは、石化。文字通り、生物を石に変えるスキルだ。また、自身を石に変えて、攻撃力や防御力を高めたりできる。とても強いスキルだ。
…というか、こんなの初見だったら負けるじゃん…。武器は石化できないから、彼が素手での勝負を望んでいたことにも納得がいく。
ケルドン 「オラァ、行くでー!」
彼はダッシュで距離を詰めてきた。あれ?俺を石化させてから攻撃すればいいのに…。
とか考えていたら、パンチを横腹にくらった。
ゴスッ。
いたっ!鈍い音がする。…だが、拳は石では無く、元のままだ。もしかして俺、なめられている?あぁ、お腹に激痛が遅れてやって来る。
ケルドン 「君は、そんなものかい?」
彼は小さくため息をつく。そして、またすぐに攻撃を…
する前に石化させてやった。カチッ
ケルドン 「………」
疾走する彼の体は鉛色になった。彼の美しい筋肉が、まるで石彫刻のように勇ましくなっている。美術館に置いてあっても、違和感がない。
ミズモ 「………」
…俺の勝ちでいいよな?とりあえず、彼の石化を解除してあげようか。
ケルドン 「…おどろいた。君も、同じスキルだったとはね!」
いいえ、これはドッペルゲンガーというコピー系のスキルなので…。
ケルドン 「しまったな、相手のスキルについて考えないと、あっという間に負けてしまうのだな…。いい事を学んだよ」
え!?彼、決闘初心者?あ、そういえば、お互い名前を名乗っていなかったかも…。それはそれでありがたいな。
ケルドン 「俺の負けだ。この中から、好きなものを持っていってくれ!」
彼は負けたというのに、清々しく笑った。俺は、彼のこれからの人生の明るさに、嫉妬しそうになった。
そんな彼から、物を貰うなんて、できない!
ミズモ 「いや、この決闘は無かったことでいいよ。これから頑張ってね」
ケルドン 「い、いいの?でも…」
男 「おーい。次は俺だぞー!」
次なる決闘を申し込む人で、ケルドンは埋め尽くされた。俺は隠れるようにして、その場を去った。
街を出た俺は、隣を歩くポルカーンから嫌味を言われた。
ポルカーン 「お主、これまで盗賊みたいな生活しておいて、ああいう所では見栄を張るのか?」
ミズモ 「うるさい」
ポルカーン 「はーぁぁ。建設材料、どうするのじゃ?」
ミズモ 「ふふん、ま、これを見ろよ」
近くの木を石化させる。カチッ
ポルカーンは「何してんの?」の顔であるが、皆にはわかったかな?
正解は、こうだ。木材を石化させ、屋根部分を結合していく。そして最後に…カチッ
城全体を石化させる!強度も上がり、よりお城っぽくなったでしょ!
ポルカーン 「ほぇ〜」
間抜けな声を聞いて、彼女に思わず自慢げな顔を向ける。彼女はほっぺたを膨らませて、少し反抗してきた。
ポルカーン 「ま、まだ希望した丸い形になっていないもん!」
ミズモ 「ふ、大丈夫だ。なんせ、今の俺は、石細工のケルドンだよ?すぐ丸くしてやるから、そこで見てな!」
ポルカーン 「道具は?」
あ、忘れとったわ。
何も言えないでいると、彼女はニヤニヤと笑って、亜空間から何かを取り出した。
ポルカーン 「あやつから、スッておいた工具じゃ。ありがた〜く使うのじゃぞ」
俺は黙ったまま彼女から工具をもらった。
屋根を丸く削って、ようやく完成した。もう、夕方の時間帯。あ〜!達成感と筋肉痛が襲ってくる。
ポルカーン 「お〜〜!ナイスデザインじゃ!」
出来上がったその城は、遠くから見たら鉄砲の鉛玉のような形をしている。彼女がどこを気に入ったのかはわからないが、満足してもらって嬉しいな。
ポルカーン 「この城の名前は、アップルにする!魔城アップルの、誕生ー!」
なんとなく微妙だが、“俺達”を表すのならば、最適なネーミングだろう。正反対なお互いが珍しく接点を感じた物だから。