自立を目指す
あれから数日が経過し、現在も俺は生き延びている。現在、俺はそこらにあった木を伐採して素材にする作業を終えて、建設作業をしている。俺は今、森の中だ。
平原を東へ進むと、深い森があるのだ。そこには、多くの魔物が住み着いており、バスターがよく魔物狩りを行う場所だと聞いている。薄暗い、しんみりとした森だ。なぜか、安心感がある。
そうか。俺は、“木”に似ているんだ。何に関してもやる気が出ず、茫々とする日々を過ごす。まるで、元から木そのものだったかのようだ。そんな日常を、今更になって不思議に感じる。
今までも、おそらくこれからも、人と関わる事は、俺にとって苦痛だと考えている。俺は、自立をする事こそ、至高にして人間の本来の目的だと心に決めているんだ。だから、昨日恐る恐る街まで戻り、農家の人と、建築士の人をスキルでコピーしてきたのだ。
次の目標は、木を伐採する。それを素材として、大きな城を作る。ちなみに、城にしたいと言い出したのはポルカーン。木製の城とか大丈夫か?
そして、その開けた土地では農業を行う。これによって、街まで通わずに済むし、自立もできる。効率的な計画を立てた自分に酔いしれているせいか、俺一人“だけ”が労働していても、苦にならない。
ポルカーンは、木陰に座ってずぅっとこちらを向いている。ニコニコーっとしており、好物のりんごを頬張る姿は、城のできあがりを楽しみにしている少女そのものだ。今、おじさんの姿で頑張って労働している俺の事なんて、初めからいなかったかのように…。
お昼に差し掛かったので、今日の作業はここまでとした。近くの川で、清らかな清水を飲む。ぷはぁー!生き返るー!
と言ったのはポルカーンだった。君、何か仕事しましたか?その疑問は、言葉となっていた。
ミズモ 「君、何か仕事しましたか?」
ポルカーン 「うむ。お主を応援するという仕事を」
にぱっと笑うポルカーンに、冷ややかな眼差しを送る。
ポルカーン 「え?何か、他にして欲しかった事でもあるか?」
ミズモ 「まずはそういう質問をしないことだね、これからは。俺じゃなければ、ブチ切れられていたかもしれないよ?」
ポルカーン 「怒らないという事は、お主は寛大な人物だという事じゃな?」
ミズモ 「あーうん。そういう事でいいや」
とりあえず肯定する。俺は、人に対して怒ったことは無いのだ。なんせ、いつも叱られる側だったのだから。怒り方を知らない、が適切か。ポルカーンの亜空間から食料を取り出して、簡易的だが調理を行う。昨日の街への出張で入手した、刃こぼれのひどいボロボロナイフ。フルーツを斬るために使うが、マジで使い物にならない。まったく、どこかの誰かさんにそっくりだ。
ポルカーンの方向へ目をやると、炎魔法で肉を焼いていた。どこから出してきたのか、胡椒を振りかけている。
ポルカーン 「どうじゃ?お主も食べるか?」
どうやら、出来上がっていたらしい。前言撤回だ。彼女は“自立する事”に関しては、俺の大先輩なのだと考えて、俺は敬意を込めた返事をする。
ミズモ 「わかりました!あと、ごめんなさい!」
ポルカーン 「…なんで謝った?」
城は、すでに完成に近い状態だ。あとは壁を敷き詰めれば、オールクリア。骨組みと屋根だけの貧相な建築物が、森のど真ん中辺りに建っているとなんて知ったら、バスター達はどんな反応をするのだろう。そして、この数十メートルの支柱を数日で完成させたと知れば、驚くだろうなぁ。
そんな事を、こんがりと焼けた肉を頬張りながら考えた。隣のポルカーンは、ほっぺたに左手を当てて、幸せそうな表情をしていた。