プロローグ
少年は、生きる意味を、産まれた理由を求めていた…。
ここは、黄金の国リーベルタッド。魔法が常識の世界。その街の1つ、ハイベルンジャー通りに、1人の少年がいた。
俺はミズモ・コズミック。努力なんて、一度もしたことが無い。したい事も欲しい物もなんにも無い。取り柄なんて何も無い。すでに人生負け組だよ。
15歳になると、固有スキルが覚醒する。今日、俺にも、スキルが与えられた。この世界は、こういうところだけ平等なのだ。スキルよりも、明日を生きる活力の方が欲しい。
スキル ドッペルゲンガー
なんだ!?この意味不明なスキルは。すると、天から声が聞こえてきた。
神 「私は神だ。君には、ドッペルゲンガーというスキルを与えたよ。能力はシンプルに、変身したい人を見ると、姿や、スキルをコピーできるんだ。君は全然人生楽しんでいなさそうだから、そのスキルでいろんな人とあってね!じゃ、私はこれで!」
ミズモ 「えッ?神様!俺スキルなんていらないです!」
神様 「えぇーっと次の子は……ジョージ君か。ふぅ〜ッ。今日は誕生日の子が多いなー」
神様との通信は、これで終わった。毎日大変そうな神様だったな。
その日の夜。家族で食卓を囲んでいると、父さんから話を切り出された。
父さん 「スキルはいただけたか?」
ミズモ 「うん、一応…ドッペルゲンガーって言うんだ。相手のス…」
父さん 「だったら!明日、この家から出ていけ!」
まじか。話が途中なんだけど。いや、今更驚く事でも無いか。俺には3人の兄と、2人の姉がいる。我がコズミック家は、上位貴族で、全員エリートなのだ。落ちこぼれは俺だけ。みーんな俺の存在なんてどうでも良い、むしろいらないと思っているんだろ…。
こうなる未来は分かっていた。たとえ俺がどんなスキルを得たとしても、今のコズミック家には必要ないんだ。ララ姉さんは王妃にまで上り詰めている。ベンジャミン兄さんは、国内最強剣士。この場にいるガンマ兄さん、ミスト姉さん、スターク兄さんは、学校でも成績トップクラス。
一方俺は、成績最下位。顔も平凡。取り柄すら何も無い。取り柄が無いのが取り柄、と兄さん達にバカにされるぐらいだ。こんな家、出て行ってもいいだろう!
だけど、やっぱり悲しい。腐っても家族なんだ。1番近くにいた存在。そんな彼らに捨てられるのは、俺にとって当然厳しかった。
「さようならッ!今までありがとうございました!」とだけ言ってドアに手を掛ける。当然、誰も止めない。暗闇に向かって俺は走り出した。
金色の瞳に、真っ黒な髪。袖に金色の刺繍が施されたリボンの無いタキシード。それを着こなすには少し乏しい推定身長170センチの少年は、目に涙を浮かべ、ひたすらに走った。
夜の町は、光が一層輝いて見える。夜でも人通りが多いな。俺のような地味な男には、目もくれないが。
逃げるようにそっと路地裏に入る。壁に持たれかけながら、俺はしゃがみ込んだ。夜空を見上げてみる。美しいなぁ。この先、どう生きていけば良いのだろう?今ここで、死ぬ方がマシなのかも?
「おいガキ!ここで何してんだぁ?」
目の前に、いかつい男の人が立っていた。まずい!気づかなかった!
男 「お前、金持ってそうな顔してんなぁ」
まずい!この街では、弱肉強食が掟だ。より強いものが生き残る。警備をする剣士よりも、強いゴロツキは、そこらじゅうにいる。
ザギン 「俺は、最強の男ギザンだ!スキルは、相手の存在を消す。死にたくなければ、持ち物全てをよこせ」
は!?強すぎだろ!存在を消されるって、死じゃん。恐怖の震えで、ガクガクと歯が鳴る。
……。でも、俺はどの道死ぬ。最後ぐらい、立ち向かってやる!!俺のスキルを発動させた。
ギザン 「な、何だこりゃ。俺が、…いるッ!」
あれ?視線が高くなった!?ギザンという男が、縮んだのか?彼と同じ目線になる。彼の目は、奇妙な物を発見した目だ。いや、俺が変わったのだろう。俺は今、ギザンになっているんだ!
同時に、何か、力に目覚めた気がする。身体が、その力の使い方を知っていた。使ってみよう!
パッ!
突然、目の前にいたギザンが消える。えぇ!?何だ?攻撃が来るのか!?
……。しかし、いつまでたっても何も起きない。どうなっているんだよぉ。すると、どこからか声がした。
「1つ前の姿に戻りますか?」
分からないから、とりあえず「はい」と答える。直後に、視線が下がった。俺はその後、しばらく思考していた。もう一度、あの時の状況を思い出す。
やっと整理がついた。俺は、このドッペルゲンガーというスキルで、ギザンに変身した。そして、その能力で、彼を殺してしまった、という事だ。
自然と口角が上がる。俺は、とんでもない事を思いついてしまった。