邂逅
「国境に帝国使者団到着しました」
連絡係の兵士が足早に現れてそう告げると、報告を受けた宰相は不審そうな顔をしていた。
事前に届いた書簡では、使者団が到着するとされていた日付は今日であった。
国境からこの城まではとても一日で進める距離ではない。それにも拘わらず、国境に到着したのは今しがたであるとはどういうことなのか。
宰相は不審そうな顔を崩さずに、兵士に向かって確認した。
「本当に今、国境に到着したのか?」
「はい、間違いありません。四杖筆頭の魔法使いが率いる帝国使者団は先ほど国境に到着しております」
連絡係の兵士も再度答えた。
「これは一体どういうことだ」
過度に豪奢ではないが作りの良い玉座に座る国王も戸惑いの声を発した。
事前に予定された日に備えて、王以下国政を担う者達は万全の段取りを行ってきた。
帝国は強大な国である。過去の大戦争終結後、世界を先導してきた国と言って良かった。この国もそれなりの国力を有してはいるが、帝国とは比ぶべくもない。さらに魔法を至上とし反機械を掲げる帝国にとって、機械技術を推進するこの国は好ましい存在ではない。そんな相手が、更に世界最高の魔法使いとされる四杖筆頭が態々使者団を率いて来るのだというから国王達はあらゆる事態を想定して使者団に備えていた。
その使者団が連絡も無く予定日に遅れるというのだろうか。
「我々を小国であると侮っているのだろうか」
国王の言葉には静かな怒気が含まれていた。その怒気に呼応するように、その場にいた者達は口々に非難の言葉を上げ始めた。が、その瞬間。
「侮っているなど、滅相もないことでございます」
聞き覚えの無い声が城内に響いた。静かだが良く通る声だった。
国王達は声の聞こえた方向を見て、皆一様に声を失ってしまっていた。
そこには見知らぬ女が佇んでいた。今日、一度も開けられていないはずの扉の前に、黒一色で染められた正装を身に纏った女だった。
居るはずの無い場所に見知らぬ女がいる、この事態にいち早く反応したのは門を警備している兵士だった。
「貴様、どこから入った。今すぐ立ち去れ、さもなければ」
そう言って女に向かう兵士であったが、数歩進んだ時点で思わず立ち止まった。
女の周囲の空間が歪み、更に霧がかかっているように先を見通すことが出来なかった。今までに経験のない現象、目の前で展開される異常事態に対して警備の兵士はおろか、国王を含め誰もが動けずにいた。
やがて女の周囲の霧が晴れると、そこには貢物を抱えた従者、帝国の鎧を身に着けた兵士、十人を超える一団が現れた。
黒衣の女は、言葉を失い動けずにいる国王に対して、深々と礼をしながら言った。
「お約束通り、弊国より参りました。わたくしはこの使者団代表、四杖の一でございます。以後お見知りおきください」