ある研究者の手記
子供の頃から続けてきたこの日記も今日で最後になるのだろうと思う。
いつか来るいつか来ると思いながらも本心ではもしかしたら来ないんじゃないかと目を逸らしていた現実だがとうとうその日が来てしまったようだ。数年前から始まっていた視力の低下がもはやどうにもならない段階にまで到達してしまったようだ。
今書いている文字は当然読めないし日記帳そのものの輪郭を確認することすら出来ない。
この数か月で視力が急速に低下していてほんと見えない状態になっていたが、今日起床した時点で前日までとは明確に違い失明を確信せざるを得ない。失明してしまえばもう研究を進めることは出来ない。正確に言えば不可能ではないのだろうが、私一人で行うことは不可能になる。
魔法万能の世の中と言われながらも、この眼の異常を治すことの出来る人物はいなかった。
傷を治すという力を持つ者もいたが個人の自然治癒を促進する程度であり、欠損した部位や再生しない部位を修復する能力ではない。魔法と言ってはいるものの所詮は自然現象の延長上でしかなかったのだ。
現代で最も偉大な魔法使いとされる四杖という四人の天才も、実態は秘匿されていてわからないものの恐らくは出力規模が大きいという程度でやっていることは同じだろう。
この国は他国よりも魔力を持つ者が多い、それをして選ばれ者の国やら世界を導く国を自称するようになっている。確かに私は発火能力を有してはいないが、別に魔法がなくても火を起こすことは出来る。過程が異なるだけで起きる結果は同様のものだ。
大昔に起きた姉弟戦争でも魔法と機械は対等であった。最終的には魔法を世の中に残ったものの戦争の結末という意味では引き分けと言っていい。そのはずなのに、世界は急速に魔法への傾倒してしまった。ここで道を踏みはずしたのだろう。
今のこの国は、過去進んだ道をそのまま進んでいる。神の御子の再来と呼ばれる四杖筆頭の主導によって再び反機械活動が活発化し、反対運動だけに留まらず弾圧に向かうのは時間の問題だろう。近いうちに、四杖の一人が件の機械国家へと訪問するらしい。訪問と言ってはいるが事実上の降伏勧告と認識して問題あるまい。
魔法使いどもは歴史を繰り返す、世界は再び戦火に包まれるだろう。