何一つ反論の余地もない真っ当な理由で『追放』されましたが望み通りです!
「追放だ、ヒューゴ! もう我慢ならねぇ!!」
いつも通り依頼を終わらせて宿に帰ると、パーティリーダーのダリルが声を荒げてそう言った。
「どうしたんだ? ダリル。急に……」
「急なもんか! お前はいつだってそうだ!」
俺は余裕ぶって返すが、どうやらダリルの怒りは並大抵ではない。
「今日の依頼、お前は何をしてた!? 後ろの方で余裕ぶっこきやがって!! 俺達が必死こいてるってのによ!!」
「ダリル〜、それは勘違いってヤツだ。俺はモンスターの攻撃を誘導していたんだよ」
俺は訳を説明するが、どうやらダリルの怒りは収まりそうもない。
「お前はいつもそう言うが、俺がそれを実感した事はないぞ! 適当言ってんじゃないのか!!」
「まさか! そんなはずはないだろう。現にお前らは誰も死んでない」
「いいや、今日という今日はその達者な口先も役には立たねぇ! お前の『闘牛士』とかいう職業は! 実際には存在しないんじゃないのか!? モンスターの注意を引く職業なんて聞いた事もない!!」
「な、なんて事を!」
職業。
冒険者は皆、職業と呼ばれるカテゴリーを与えられる。剣士の職業を得た人間は剣術が強く、魔術師の職業を得た人間は魔法が使える。
そして、職業は一度決まると変えられない。天から与えられた、自らの宿命なのだ。
その職業を疑うというのは、本来なら酷い非礼である。
俺が声を荒げるのも無理からぬ事だろう。
「ダリル! 言っていい事と悪い事があるだろう!」
「いいやヒューゴ! こればっかりは譲れねぇぞ!」
本来、職業を偽る事に意味はない。
いくら偽っても、実際にその職業になれるわけではないからだ。たった一度、『ちょっとやってみろよ』と言うだけで簡単にバレてしまう。
「何のために偽装なんてする必要があるんだ!」
「俺が知るか! モンスターを引きつけられると言ったお前の言葉を信じた俺が馬鹿だったんだ!」
ダリルが壁を蹴る。
俺自身を蹴り飛ばさないのは、せめてもの優しさだろうか。
「他の二人はなんて言ってるんだ?」
「全部言ったよ! テメェの無能さを二人も納得してくれたぜ!!」
「二人も……だと……っ」
反論の余地はない。四人しかいないパーティで、そのうちの三人が賛同しているのだ。
俺の追放を覆す手段は、もうないだろう。
「出てけ! 役立たずの寄生虫野郎!! 二度と俺の前に姿を見せるな!!」
◆
「さぁてと……ひい、ふう、みい、よぉ……」
俺は、手持ちの金を数える。いつもより時間がかかってしまった。
冒険者失業保険。
追放保険などと通称されるそれは、つまりパーティを追い出された冒険者に対する補助制度の事である。
酷く手続きが面倒な事で有名だが、もう五回目となれば慣れたものだ。この金でしばらくは暮らせるだろう。
ダリルは、実の所結構利口なヤツだ。俺に言った言葉は全て事実だし、俺の職業が『闘牛士』とかいう聞いた事もないヘンテコなものじゃない事も見抜いていた。
俺は、いわゆる詐欺師だ。
追放保険目当てに適当なパーティで適当な事をやって追放される。その保険金で生計を立てる保険金詐欺を生業にしている。
役に立たない事をして、何なら邪魔をして、相手に追放を宣言させる。自分都合のパーティ脱退だと、補助金が下がってしまうからだ。
「にしても、流石に五回目となると申請も厳しくなってくるな。顔も覚えられちまったし……」
金を懐に入れ、一つため息をつく。
「そろそろ潮時かなぁ? この街じゃあ次の申請は通りそうもない」
面倒だが、仕方なし。
隣町に拠点を移し、新人として冒険者登録をし直そう。
名前を変えれば、冒険者証の複数取得は不可能じゃあない。当然それまでの経歴なんかも綿密に偽装する必要はあるが、俺には慣れたものだ。
「はぁ、せっかく金が入ったってのに、隣町まで行かなきゃならないなんて億劫だ、面倒だ」
楽をするってのも楽じゃない。
楽をするために楽をする方法はないだろうか?
「まあ、仕方ないから行くけどな」
さて今日も、楽をして稼いだ金で食う飯が美味い。
一々命を危機に晒して苦労をする連中の気が知れないね。




