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第9話 仮想の敵と模擬戦②

 化け猿の容赦ない拳が炸裂し、地面が抉られていく。右に左に、かなりパターン化されているような動きだ。しかし、それは仮想の敵だからと言うわけではない。


「こっちだ、化け猿!」


 今、戦っているプレイヤーは、モノクロモザイクという名前で、ランキングTOP10に入っていた強者だ。顕現した武器は、両刃剣で、長めの柄に直剣と槍で構成されている。それを器用に扱いながら、避けては斬るを繰り返して、ダメージを蓄積していく。


「そろそろだな...」


 化け猿の息が上がり、身体中に刻まれた傷からは、血が流れ出している。ほんの少しよろめいた所に、すかさず彼は駆け寄り、化け猿の上空へとジャンプする。そこから急降下して、スパンッ!と、とどめの一撃を入れた。


「スパイラルエンド!」


 モノクロモザイクが、ゲーム時の両刃剣スキルの技名を言うと、錐揉み状に斬撃が広がり、化け猿の首と腕は落ち、大量の血が噴き出した。その瞬間、プレイヤー達の歓声が上がる。


「やるじゃねぇの!さすがはランカーだな」


 リックは、まるで先輩面で彼を祝福していた。確か、聞いた話じゃリックって8000位台じゃなかったかな...。身の程をわきまえろよ。


「ふふふ、やっぱりモノクロさんはここでも強いねー」

「ああ、そうだな」


 実際には、ランカーがこの世界において、相応の実力を示しているわけではない。アルフューレ側の中にもTOP100のプレイヤーは複数人居たそうだが、全員がこの場を去っていった。あの、カイルという美男子のランキングは分からないが、概ね、強さとランキングは比例しないと考えて良い。


「あ、そういや里美って何位だったんだ?」

「え、ランキング?2位だよ」

「へぇー、2位かー...って2位?!」


 こっちに来て、1番度肝を抜かれてしまう。まさか、里美がランキング2位だったなんて。つか、それならプレイヤーネームも分かってしまう。


「ももも、もしかして、HISAMIって里美なのか?!」

「うん、そうだよ!総一くんこそ、sairiosでしょ?」


 落ち着け俺っ!HISAMIとは、よく高難度クエストを手伝ってもらってた仲だ。それに、ボイスチャットもしてた。たまたま、ゲーム内のバーで知り合ってから、至れり尽くせりのプレイであらゆる恩恵をもたらしてくれた女神的プレイヤーだ。


「そうか、マジか、俺...全く気付いてなかったよ」

「あはは!いいよー別に。部屋に戻ったら号泣するから」

「いや、マジで悪かった。なんで話しかけてきたのか今ようやく分かった」


 俺は、深く謝罪の意を示し、改めて彼女に「けど、無理矢理投げ込んだ事は許さない」と、念を押しておいた。この事に関しては、里美も若干の後悔はしているようだ。


「おいおい!なんか楽しそうだな、混ぜてくれよ」

「お前は得に関係ないから」

「良いじゃねぇか!硬いこと言ってんじゃねぇよ」


 リックは無理矢理にでも、会話に潜り込みたそうにしている。しばらく、はぐらかしながら会話をしていたが、ついに順番が回ってきたらしい。


「次は、君だね」

「そうか、俺の番か...」


 無理に自分を奮い立たせる必要はなかった。他愛もない会話のおかげか、気持ちは落ち着いていたし、実力以上の結果はついてこない。この模擬戦の本質はそこにあると言っても過言ではないはずだ。


「さあ、剣を」


 ガインズが、実剣を差し出す。俺には、武器を顕現させられないからだ。けれど、俺は掌を向けて、受け取る事を拒否した。どうやら、察してくれたようで剣を下げる。


「やれるかい?」

「あんたに言われたメニューを...あれだけのトレーニングをこなしたんだ、後はぶつかってぶちのめす!」


 自分の右拳を左に手のひらで、しっかりと受け止めて気合いを入れる。緑色の霧に目の前が覆われていくと、瞬きをした瞬間に視界は空間内部へと切り替わっていた。


「なんだか不思議な気分だけど、まあ慣れた風景だな」


 地面を染める血の海が、あちらこちらに点在しているが、臭いは感じない。仮想空間だからこそ、ここはゲーム世界と同意義とも取れる。


「死ねば終わりのこの勝負、勝ちに行くぜ!」


 俺の勝手な推測だけど、ここで負けても死にはしない。多分、ゲームオーバーになって、この亜空間から追い出される仕組みだろう。戦士候補がこれだけ死にまくってるのに、教官の2人は割り切り過ぎているように感じたからだ。


 そうこう考えていると、対面に化け猿が姿を表した。相変わらずの唸り声を上げている。


「うっし、やってやるさ!......ってあれ?」


 何やら、化け猿の様子というか見た目がおかしい。さっきまでのと顔が若干違う。強面の形相は変わらないが、どう見てもあれは...。


「えっと、角生えてない?」

「ボバババァァァ!!」


 体格も少しばかりでかいし!咄嗟に俺は、ガインズの方を見る。すると、彼はにっこりと笑っていた。


「すまない、ちょっと手違いがあったようだ」

「いやいや!わざとだろうよ?」


 しかしながら、化け猿は待ってくれない。ってか、もはや鬼猿なんですけども。


「ボーーーバァァア!!」


 さっきとは、明らかにスピードが違う。恐らくは5割増し!と、思った矢先に拳が振り下ろされる。


「おわぁぁあ!」


 けれど、俺は見事に回避する。んん?早いとは感じたけれど、あの鬼猿の動きが見えてるみたいだ。


「ははは、いけんじゃねぇ?」


 調子に乗って、人差し指でクイクイッと挑発すると、それを感じ取ったように怒り狂い、再度、飛びかかってきた。


「あらよっとー、ほらほらこっちだ」


 次々に繰り出される拳を、俺は難なく躱していく。更に怒りが増した鬼猿は、両手を振り上げて拳を硬く握りしめた。そして、雄叫びと共に振り下ろしてくる。


「うらぁぁああ!」


 舌を巻きながら、こちらも叫びつつ鬼猿の一撃を、両腕をクロスさせてしっかりと受け止める。ドゴォッと、鈍くも弾けるような音が響き渡るが、俺は完全に攻撃を受けきった。


「これまでのトレーニングに無駄なんて一切ないんだよ!」


 鬼猿の拳を、両腕で思い切り弾く。奴が少し退けぞっている所を見逃さずに、右腕を振りかぶり、懐へ入り込む。


「喰らいやがれ、これが俺の一撃だぁ!」


 俺は、持てる力の全てを右拳に込めて、鬼猿の腹へと打ち込んだ。ドパンッと、衝撃波を生みながら打ち込まれた一撃は、ものの見事に大きな風穴を開けた。


「ボ...ボゥ......」


 鬼猿は、力無い声と共に後方へと倒れた。その巨体が地面を揺らし、砂埃を巻き上げる。


「おぉ、マジかよ...ワンパンで終わっちまった」


 まさか、劣等生とも言えた俺が、何人ものプレイヤーを殴り殺していた化け猿を一撃で、しかも、ガインズがわざと仕向けた鬼猿を一撃で倒してしまった。


「これは想定外だったよ」


 ガインズから感嘆の声が漏れる。続けて、里美とリックが賞賛の声をかけてくる。


「すごいよ〜、総一くん!!」

「ははは、さすが俺の見込んだ男だぜ」


 里美は、喜びを表現するべくぴょんぴょんと跳ねていた。リックの言葉は、ちょっと何言ってるか分からなかったが、何にせよ、俺は、あの鬼猿を倒したんだ。


 その後、空間から出ると、里美が駆け寄ってきて、おもむろに抱きついてきた。


「やったね〜!頑張って食べた甲斐があったよ〜!」

「ちょ?!何抱きついて...って、食べて強くなったみたいに言うな!」


 里美は、しばらくの間、俺の胸に顔を擦り付けていた。さすがに小っ恥ずかしかったが、こんな風にもてはやされるのも悪くなかった。リックにも、「信じてたぜ相棒」等と、引き続き意味不明な言葉をかけられていると、ガインズが拍手をしながら近付いてくる。


「実に素晴らしい戦いだった。勝てるとは思っていたけれど、まさか一撃とはね」


 なんだか褒められ過ぎて、照れ隠しも出来ない程に顔が熱くなっていた。ガインズは、そんな俺を見て微笑ましい様子で頭をわしゃわしゃと撫でてきた。それが、とても心地よくて達成感が湧き上がる。


 そして、ひとしきり俺を褒めた後、気を引き締め直して言う。


「さて、残すは14人か...次は...」

「俺だ」


 リックは、親指で自分を指すと、自信満々に胸を張って、空間へと向かった。


「リック!勝てよな」

「かっ、誰に言ってんだぁ?ソウイチ」


 お前だよ、このぶっきらぼうが!なんて突っ込みたかったけれど、心の声で言っておいた。ガインズに、軽く挨拶をしてから、リックは空間へと移動し、俺と同じく鬼猿と対峙するのだった。


「それじゃあ、一発かましてやるぜ。顕現せよ!アルティマギアァ!」

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