第7話 レベルという概念の違い
新しい教官の指導の元、訓練を始めて5日が過ぎた頃、俺は選ばれし戦士...ではなく勇士として、厳し過ぎる試練を課せられていた。
「757......758......」
ただただ腕足せ伏せをさせられる俺。目標は1000回なんだけど、休み休みで良いらしい。スクワットと腹筋も1000回こなす必要があるから、トータル3000回を時間内にやり切らねばならない。
「くっそっ!759!!760!!!」
フリーゲームプログラマーだった俺の筋力なんて、たかが知れてるけれど、腕立て700回以上やってるって事実だけで、かなりやばいんじゃないか?
これがアルティマギアの恩恵なのかは、未だに理解出来ないが、そんな俺をやたらと気遣う男が来た。
「よう、元気そうだな」
「どう見れば元気そうなんだよ!」
こいつは例の金髪男だ。名前はリックで歳は18らしい。アルティマギア顕現の一件で、俺に興味を持ったらしく、やたらと絡んでくる。
「ソウイチは成人してんだよな?」
「あ...ああ...そう...だよ」
腕立ての回数が900を超えるとかなりキツくなる。「ノルマやり切るからちょっと待て」と、リックを制してから根性で1000回を達成する。
「はは、俺も筋トレは毎日欠かしてねえが、2000回は楽勝だぜ?」
馬鹿にしたいだけなら向こう行け!俺は1000回出来るだけでも十分凄いんだよ!
「まあ、アルティマギアってのに適合してなけりゃこんなにパワーなかったけどな」
何かに吹っ切れた様子で空を見上げている。確かにリックの言葉通りで、きついトレーニングを行っても、普通じゃないメニューをこなせるし、しっかり食べて寝れば、身体は想定以上に回復する。
「で?お前のメニューは?」
「おう!斧を振る練習はちゃんとやってるぜ」
リックは、得意げに斧を顕現させて見せる。なかなかに厳つい重量級の両刃斧だ。
俺以外は、ちゃんと武器が顕現して、それぞれが扱い方を学んでいるようで、羨ましいやら疎ましいやらだが、ない物なだりに意味などこれっぽっちもない。
「似合ってるじゃないか」
「だろ?こいつでいつかガインズの野郎を真っ二つにしてやるぜ」
おいおい、師匠にあたる相手を真っ二つにするって、マジでこいつはいかれてる。
けれど、負けん気だけは評価してやろう。
「逆に真っ二つにされない事を祈るよ」
「ああん?!そんな結果にはならねぇよ!」
うんうん、木っ端微塵にされるだろねって言うのは黙っていよう。それから、だらだらと喋っていたら、優しい声で殺意に満ちた鋭い目をした教官殿が現れて、「まだ訓練中ですよ」と、一言掛けられると背筋が凍りつく。
「腹筋開始します!いーち!にぃー!さぁぁーーん!......」
しばらく俺は、ガインズに監視されていた。なんとか腹筋も終えると、「しっかりこなせてきているな」と声が掛かる。
「まあ、なんとか頑張ってますよ」
「君には、これが最善のレベルアップ方法だからね」
「最善...ねぇ」
どうやら、レベルアップの概念がゲームとは大きく異なるらしい。通常なら、モンスターと戦闘して経験値を得る事でレベルが上がり、同時にステータスも補正される。
だが、誰しもに当てはまらないのがここでの違いだ。
適合率(80%未満)の低かったプレイヤー達は、アルフューレとの戦闘訓練をひたすらに繰り返す事で強くなっているみたいだ。
ボコボコにされてる風景しか見た事がないのだけれど、そこはご愛嬌ってやつだ。
アルティマギアを顕現させたプレイヤー達は、各自の武器を使いこなす事で強くなる。いわゆるスキルアップに近い。実の所、それぞれが、ステータス補正に繋がっているらしく、特に最初の岩引きは、アルティマギアの種を芽吹かせる訓練だったそうだ。
「あの〜、疑問しかないんだけど」
「どうしたんだい?何でも聞いてくれ」
ガインズは、まさに理想の教官たる態度で俺に言う。それに釣られて俺も素直に聞いてみる。
「成長ってのは人によって大小があるって事でいんだよな?」
「ああ、そう解釈してもらって構わない。君の場合は、能力が上昇しにくい傾向にあるが、根本的な部分、つまりアルティマギアの持つ力そのものを強化するには、とにかく運動して食べる事にある」
ええ〜...と、不満をもらしそうになったが、今はこの状況や状態を受け入れる他はない。
「とにかくトレーニングして食ってよく寝ろって事ね」
「そうだ!寝る子は育つって言うからな」
もう俺は成人してるんですが。とは言え、ここに来てからはそれの繰り返しなわけだし、むしろ健康的と言えなくもない。トレーニングの度合いはさておきだけど。
「自分を信じて励んでいれば、必ず成果が現れるさ!」
「やれるだけの事はやってみるよ」
なんだか、どことなく嬉しそうなガインズ。俺の頑張りを評価してくれてるからだろうか?それからは、ノンストップでノルマをこなした。完全に力尽きた俺は、訓練時間が終わり、リックに引きづられながら村へ戻り、身体が少し動くようになってからは、最高のバスタイムを楽しんで、それを終えると、至福の食事が待っていた。
「よし!今日もたらふく食うぞ!」
取り皿はもちろん大皿だ。盛れるだけ盛って、里美が確保してくれているテーブルへ向かうと、ドカッと皿を置き、もう2枚追加すると、挨拶もなしにすぐにがっついていた。おかわり自由の食事が、空腹感を幸福感へと変換していく。
「ホントによく食べるよねー。最初の頃より食べてるんじゃない?」
「ほぉー!ふぁふぁばふぁふぃふふぃふぇふぉーふぁふぇーー」
「何言ってるかまったくわかんないよ!」
里美は、ツッコミながら苦笑いで応じる。俺は、とにかく食う事でしか語れない。それ程に身体がエネルギーを欲しているのだ。
「おい、ここ座っていいか?」
「あ、リック君!いいよ〜、一緒に食べよ」
「じゃあ、失礼するぜ」
リックは、「どっこらせ」と言いながら、大皿に山盛りの食事をテーブルに置き、俺の向かいに腰掛けた。
ゆっくりと食べ始めるが、少し食べた後呆れ顔で言う。
「おい、ソウイチ...いくら何でも食い過ぎじゃねぇか?」
「ふぉっふぉふぇ!」
口の中には、大量の食い物があるからまともに喋れないが、会話より食う事が大事だ。
まあ、2人とも呆れるのは無理もない。リックもかなりの量なのだが、俺は大皿3枚分でしかも限界まで盛っている。
「どこに入るんだろうねー」
「食事だけは勝てる気しねぇわ」
好きに言うが良い!俺は食わなきゃ身体がダメになるんだ。過酷な筋トレの初日は、大皿に多めに盛った程度だったが、翌朝の体調が良くなかった。朝食でカバーはしたのだが、コンディションがいまいちで、かなりキツかった。
2日目からは、食事量を増やしてよく眠る事で回復が促されたので、積もり積もって今に至る。
里美とリックは、何やら楽しげに会話をしながら食べていた。それを横目に、大皿3枚分、超山盛りの食事を完食する。
「ふぃーーーー、よし!おかわり!」
「食べ過ぎよ!」
「食い過ぎだ!」
2人とも息ぴったりに突っ込んでくる。
むすっと嫌な顔をして見せた後、そそくさと大皿を持って新たな食い物を求めに行った。
食事が終わり、エネルギーをたっぷり詰め込んだ重い身体でドシドシと部屋へ向かう。
部屋は全員に個室が与えられているので、どれだけ醜態を晒そうと、プライバシーは守られる。
「いやー、マジで食ったな」
部屋に入ると、ボスンッとベッドにダイブして横たわる。もはや漫画でしか見た事なかったような出っ腹になり、もう動きたくなかった。その後は、徐々に睡魔に襲われて深く眠りについていた。