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第5話 技能と魂の顕現①

 本日は、晴天なりー!とか言って、現実逃避をしながら朝飯をたらふく食うべく食事場へ向かう。

鬼畜な岩引きが今日も始まると思うと、ブルーな気持ちでいっぱいになるが、優遇された環境があるからこそ、なんとか俺みたいな人間でも耐えられる。

規則正しいのだから、ホワイト企業っぽいけども、可能であれば人間辞めた位の超人になりたい。

そうすれば、訓練なんて楽勝だし、つかやらなくていい。


 もしゃもしゃと、朝食を食っていると、入口から新たな教官がやって来た。おっさん事、ボーズが連れて来たのは、これはこれは、むちむちのお姉様だ。

おい、なんだ?お前のあれか?自慢か?とか、苛立ちと疑問が交差していたが、そんな俺の胸中など知るはずもなく、きつめの口調でそのお姉様は言う。


「本日よりお前達の新たな訓練の為、教官を務める事になったアルヒューレだ。ボーズとは同じ世界の出身だが、私の方が遥かに強く厳しいから覚悟しておけ!」

「おい、俺はお前の先生だろが!相変わらず敬いを知らん奴だな…」


 うーむ、同系統って事かな?っつか、岩引きよりやばい事させられるって事ですかな?ってか、ボーズさんの教え子かよ!


「まあ、そういうわけだ。あくまで訓練内容が増えるだけで、岩引きは継続するからな」


 当然のようにブーイングが起こったが、アルヒューレが一喝すると、一瞬で鎮まり、背筋をピンと正すと、ただ従うのみである。


「それでは、場所を移動する。食事を終えたら訓練場に集まれ」


 この猶予を与える感じが、自主性に危機感と強制力を生み出す。時間は基本的には決まっておらず、自由に訓練を開始する。

終了時間だけは決まっており、行ったが最後、全てを出し尽くすようにしごかれる。

でも、不思議と全員が訓練をサボることもなく、それなりの速度で食事を終えると、訓練場へ向かうのだ。

俺も結局は、その内の1人なのだ。


「ふふふ、今日から新しい訓練楽しみだねー」

「楽しみかどうかはさておき、新しい訓練は気になるな」


 やたらと嬉しそうな里美だが、俺としては岩引きよりもかなり楽である事を願うばかりだ。

訓練場に着くと、腰に手を当てて風呂上がりの牛乳でも一杯やりそうな雰囲気のお姉様こと、アルフューレが待っていた。


「よし、これで全員集まったな。これより、戦う為の技能とアルティマギアの使い方を教える」


 全くもって戦う意志のない人間はどうすればいいか?と、聞きたいのは山々だが、岩引きと同じく言う事を聞くしかあるまい。


「まずは、アルティマギアからだ。お前達の適合率を測らせてもらうから、順番に前に来い!」


 そう言うと、アルフューレは掌を光らせて、水晶玉のような道具を浮き上がらせた。

うおぉ!具現化だ!と、テンション上げめだった俺よりも、横がうるさい。


「わぁ!魔法かな?手から何か出て来たよ?!アイテムボックスとかあるのかな?もしかして、そろそろステータス画面見れたりとかするのかな?ねぇねぇ、総一くんはどう思う?」


 うん、とりあえず無視だ。と言いたいが、気持ちはよく分かるから、一応、返事しておこう。


「ここに来てから転生にありがちな展開は捨てたからな。空間から物をを出し入れする技能ってとこだろ。戦う技能のひとつかどうか知らんけど」

「へぇー、意外と考えてるね」

「これでも大卒のまあまあなエリートだ。馬鹿にするのも大概にしろよ」

「……あ、結構年上なんだ……ごめんなさい。総一さん」

「いきなり謙るな!気持ち悪いわ!」

「えへへへ…」


 なんだか、調子を狂わされたが、順番が回って来た様で、アルフューレの元へ向かう。


「さあ、この水晶を持て。そうすれば、適合率が分かる」


 シンプルに水晶だったか。と、率直な感想を胸に抱きながらそれを受け取ると、中央からゆっくりと光が広がり始める。

色は紫で、かなり明るく光っている。徐々にそれは大きくなり、水晶が輝き始めた。


「うっ!眩しい」

「こ、これは…まさか、お前は選ばれし戦士…ではないのか」


 ん?すごく光ってますが、これはいい意味じゃなくて悪い意味なの?アルフューレが、静かに俺から水晶を取り上げる。


「勇士…その才があるようだな。適合率は120%だ」

「ええっ?ひゃ…120??」


 どこぞの弟さんじゃないんだから、俺の体がボーズさん以上にえげつない事になったりはしないよな?

けど、勇士って言ったよな。


「えっと、すごい数字でましたけど、勇士って一体?」

「それは追って説明する。さあ、次は誰だ?」


 いやー、俺にはすごく重要なんですけど、あしらわれてしまっては、後で聞くしかあるまい。

その後、里美も測っていて、俺と同じ位の光だったが、数値は100%だった。それはそれですごい事なんだけど、お前も勇士かー的な会話は無かった。


「さて、全員測り終えた所で、適合率に沿った訓練内容を発表するぞ」


 アルフューレは言葉の後、視線を横に逸らすと、少し離れた場所から、ボーズ教官に引けを取らない体格のいい男が、こちらへと歩いて来る。


「紹介しよう。彼はガインズ、もう1人の教官であり、私の所属する隊の副隊長を務める男だ」

「フライアン大隊の三番隊副隊長、ガインズだ。よろしくな」


 体躯は屈強な戦士だが、顔はさわやかイケメンだな。

それに、声色も優しい感じだ。俺の好感度はかなり高いぞ!

でも、フライアン大隊って言ったか?


「おい!今、キツネ野郎の名前が聞こえたぜ!あいつはどこで何してやがる!」


 例の問題児である金髪男が、ガインズに食ってかかった。

ああ、またボコられるぞ。と、懸念していたのだが、彼は丁寧に対応する。


「フライアン大隊長は、別件でここには顔を出せないんだ。その憤りを察するに、反強制的に招集された身なんだろう。もしも、その怒りをぶつけたければ、俺を殴るといい」


 か…格好いい!やばい、男の俺でも惚れそうだ。

隣では、アルフューレが口に手を当ててくすくす笑っていた。


「ほう、だったら殴らせてもらうぜ」

「ああ、本気で来い」


 金髪男は、大きく振りかぶり、威勢のいい声と共に、ガインズの腹を目掛けて拳を繰り出す。そして、かなり強烈な拳がヒットした。


「…満足したか?」


 ガインズは、その場で仁王立ちのまま男を見下す。

彼は、わななきながら、後退すると踵を滑らせて尻餅をついた。


「マジかよ…俺は走りながら岩を引けるだけのパワーがあるんだぞ?!」


 マジかよ?俺なんて、やっと3メートル引けるようになったんだぞ?

けれど、確かにそれだけのパワーがある拳を受けて、微動だにしないなんて、ガインズという男は相当の実力者だ。


「これで副隊長ですか…」

「まあ、喧嘩は売っちゃいけないね」


 俺に激しく同意したような口調で、里美も呆気に取られていた。これを察するに、岩引きが出来たら、担いで走ったりとかするんだろうな…と、嫌な想像ばかりが浮かび上がっていた。


「それでは、気を取り直して訓練を始めるとしよう」

「ああ、そうだな」


 アルフューレとガインズが、顔を見合わせ頷き合う。


「適合率が80未満の者は私の方へ」


 アルフューレが、高々と拳を振り上げて言う。


「それ以上の者は、俺の所へ集まってくれ」


 ガインズは、腕組みをしながら、堂々とした出立ちで言う。

プレイヤー達は、それぞれ測った数値に合う方へ進み、アルフューレの前には31人、ガインズの前には俺を含め25人が集まる。

「決して、これは優劣ではない」と、アルフューレは言うが、恐らくは、この適合率が大元を二分すると言っても過言ではないだろう。


「それでは、お前達にはまず、魂に刻まれしアルティマギアの顕現方法を教える」


 まだ、心の準備が出来ていなかったが、いきなりのガインズの言葉に従うしかない。

遠くから、大きな舌打ちが聞こえたが、振り向くと、金髪男がアルフューレに小突かれていた。

あいつ、自慢気に岩引きの事を口走っていたけど、適合率低かったんだな…。


「先に言っておくが、適合率の高さは決して強さには直結しない。ただし、アルティマギアを顕現させられるのは、お前達だけと言うことになる」


 ガインズの言葉を察するに、身体能力や戦闘技能は各々の才であり、特殊能力を使えるのはごく一部といった感じだろう。

別に、これで優越感に浸る事はないんだが、何やら期待せずにはいられない意味合いを感じていた。


「ふふふ…わくわくだね!」

「ああ、きっとここからが俺の時間だ!」


 里美が好奇心を隠せないほどの表情を浮かべている横で、俺もいつも以上ににやけてしまっていた。

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