第3話 戦う覚悟
ステージの背面に映し出されたのは、とある世界の映像らしい。
どこか、ファンタジー漫画を思わせる雰囲気の城で、王族を始め、貴族達が和気あいあいとパーティを楽しんでいる様子だった。
そこへ、ガタン!と、勢いよく扉を開け放つ音が響く。
「何事だ!今はパーティの最中だぞ!慎め!」
扉付近に配置されていた兵士が、その主を一喝する。
「緊急事態なんだ!国王様は何処に?!」
扉を開け放った人物も、どうやら兵士の様だ。
息を切らし、青ざめた表情でキョロキョロとパーティ会場に居るはずの国王を探す。
「国王様!早くこの場からお逃げ下さい!正体不明の生物が、城下で暴れています!」
この会場には、100人以上の来賓者で溢れかえっていた為、兵士は会場内を走り回りながら国王へ注意喚起を促す。
そこへ、会場の奥の方から国王が姿を現し、その兵士を呼び止める。
「何があったと言うのだ。詳しく話せ」
「こ…国王様!そこに居られたのですか!状況が思わしくありません!早くこの場から…」
ズガガァァーーーーーーーーン!!!
会場の扉を、建物ごと破壊する轟音が鳴り響いた。
兵士の会話は途中で断たれてしまう。だが、今はそれどころでは無くなっていた。
巨大な猿の様な生物が、そこで雄叫びを上げる。
「ボウワァララララララ!!!」
「なななな、なんだ?!あの化け物は!?」
国王は慌てふためき、その場で腰を抜かしてしまう。
会場中はパニックだ。慌てふためく貴族達は喚きながら逃げ惑う。
兵士は、すかさずフォローして肩を貸して立たせようとするが、化け物は容赦なく、国王目掛けて飛び掛かってきた。
「ボラララァァァ!!!」
「うわぁぁぁ!こっちへ来るなっ…」
ドゴォォォーーーーーーーン!!!
無情にも、叩き付けられた化け物の拳は、国王と兵士だけでなく、近くに居た貴族達をも巻き添えにしてしまう。
四肢はあらぬ方向を向き、頭が潰れ、吹き飛ばされた者は、壁にぶつかった衝撃で、内臓が飛散し見るに耐えない景観が生み出された。
その後は、酷いものだった。
まさに、惨劇と呼ぶに相応しい結果となり、パーティ会場は完全に血の海と化してしまった。
会場以外にも、国のあちらこちらで化け物が暴れ回り、数十分程で一国は壊滅してしまった。
映像は、まだ続きがあったが、ただひたすらに惨劇の果てを延々と流しているに過ぎなかった。
よく出来た映画だと思えば、それまでだろうが、キツネ顔の獣人は、これを真実だと語るのだ。
「この映像は、記憶を映す魔術により再生されている物です。つまりは、実際の出来事だと言う事なのです。」
フライアンが、両手を大きく横に広げながら、演説をするかのように振る舞いながら話していた。
100歩以上、譲りに譲ってノンフィクションだったとして、一体、彼は、俺達に何をさせようとしているのか、検討がつかないし、この状況を飲み込めてさえ居ない。
その場の空気が、最初よりは張り詰めていて、少なくとも尋常でない何かを俺達は感じていた。
「んで?俺らが集められたのは何でだ?こんなもん見せて脅すつもりか?ああん?!」
金髪男は、胡座を掻き映像を見ていた様だった。
空気を読む事なく、相変わらずの調子でフライアンに問い掛けた。
だが、フライアンはその言葉には応じずに、続きを語り始める。
「皆様が、どう解釈しようとも、揺るがない真実がここにあります。さあ!これより第2の試験を始めましょう!」
さすがに、しかとを決められてしまったとあって、金髪男の憤りは、限界を超えていた。
「おい…キツネ野郎がぁ…ふざけた事ばっか抜かしてねぇで、俺の話聞けやぁ!」
金髪男は、言葉を発すると同時に、わなわなと身体を震わせながら立ち上がり、ぎゅっと拳を握り締めて、フライアンに向かって走り出した。
「うらぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
ドゴォッ!!
鈍くも重い音がした。
金髪男の拳は空を切り、フライアンの一撃が、彼の腹部に当たっていた。
「がはぁっ!うっぅっ…………」
勝負は一瞬だった。
金髪男は、口から血を吐き散らし、完全に気を失うと、その場に倒れた。
フライアンはと言うと、お決まりとも言えるため息を吐くと、手を払い、ステージ前面へと歩を進めると、真剣な声色で言う。
「冗談ではありません。この場に居る皆様には、到底、理解し難い事であるのは百も承知でございます。ですが、我々にも…貴方にも時間はあまり残されていません。」
俺達は、気付けばフライアンの言葉を疑う事を忘れて、真剣に聞き耳を立てていた。
どうして、この場所に集められたかなんて、今となってはどうでも良い。
逃げるか戦うかの2択を迫られている事など、問うまでもなかった。
「少なくとも、貴方はアルティマギアの種に適合した、選ばれしプレイヤーなのです。しかし、我々とて無理強いは致しません。生きるか死ぬか、その選択はプレイヤーの意志に委ねます。」
フライアンが、ステージに居た2人に合図を送ると、また呪文を唱え始めた。
すると、ステージ上と俺達の背後に、それぞれ、禍々しい渦巻き状の空間が現れる。
「臆さぬ者は前へ!去る者は後方のゲートを潜ってください!」
さあ、試験の始まりだ。
どちらをとっても、恐らく間違いじゃない。
きっと、全員が前に進む必要があるだろうが、どう考えたって理不尽だ。
あの映像で見た化け物共と戦う未来は、安易に想像できる訳だし、そんな力も才能も、ゲームでなければ、プレイヤーである俺達に発揮できるとは思えない。
「う〜ん…俺パス」
「私も辞めとこー。なんかクソイベな雰囲気するしー」
残念ながら、あれだけの空気感でも、ここが仮想空間だと思える強靭なゲーマーが居るらしい。
「なあ、どう思う?これってマジ系?」
「まあ、さすがにゲーム内だと割りきるのは難しいかも」
大半のプレイヤーは、この状況を仮想ではなく、現実なのでは無いかと考えている様だ。
俺も、その一人であるし、ぶっちゃけ逃げたい!帰りたい!っつか、業務外だから耽って寝たい。
こんな、一銭にもならないであろう大イベントを前に、俺の隣に居たプレイヤーが、話しかけてくる。
「ねぇ?あたしは前に行くつもりなんだけど、一緒に行かない?」
はぁ?何言ってんだ?って言いたかったが、呆気に取られた挙句に、返す言葉も無く続けられる。
「これってさ、誰にでもできる事じゃないんだよ。あたしもゲームとか漫画が大好きだから、ある意味では空想の範疇を抜けないけどさ、あたし達は選ばれたの。ある意味、主人公じゃん?だったら、この物語をどう進めるかなんて、行ってから考えればいんじゃないかな??」
俺は、返す言葉に詰まったまま、そのプレイヤーを見下ろしていた。
背は、俺で182cmだから、だいたい160弱だろうか。かなり小さい気はしたがそんな所だ。か弱そうに見えて、芯が通った声を発するミドルよりは短めの髪の女の子。
くりくり眼に萌え〜って言いたくなる挙動をそっちのけで、彼女のペースに引きづられていく。
「ほら、行こ?」
「あ……いや、お…俺は………」
彼女は、思った以上に強い力で俺の腕を掴み、ぐいぐいとステージへ引っ張っていこうとする。
かくゆう俺は、抵抗する間も無く、ただ流されるままにずるずると引っ張られていく。
多分、拒絶していたはずなのだが、いかんせん力が強い!
「あのさ、俺…帰りた……」
「聞こえなーーーーい!」
何でだよ!って、突っ込む頃には、ステージの上に連れて行かれていた。
「おやおや、一番乗りですね」
フライアンと目があった。
ほんの一瞬だけ、沈黙があったが、まさかまさか…
「ええいっ!」
「なななな、何をぉぉぉっ??!!」
彼女がいきなり、俺を、力任せに空間へと引っ張って行き、投げるようにして放り込んだ。
「ちょ?まままっまままってぇぇ!!」
シュウォン…っと、SF映画にありそうな効果音と共に、俺は空間へ吸い込まれて行った。
どうして、この時に彼女は俺を無理やり連れて行ったのか?
それは、今でも分からないけれど、彼女の勇気と乱暴さが無ければ、後に訪れる沢山の事と、向き合い、繋げて行く事さえできなかったんだ。