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54 王子のしあわせ 大団円その1

ごめんなさい、明日が本当のラストランです。

後に。

私の『演説』とやらは、二日間の〈乱〉が鎮静した後、王都で有名になったそうだ。お恥ずかしい。

フランカが、

家臣の傅をするから……


けれど、この日、

東宮に帰った私に、周りは、怪我人なのに容赦なかった。


王宮の残党狩り

関係者と団体に感謝と謝罪

(好き好んで、誘拐されたんじゃないんだが)

祖父母・父母・兄・公爵への挨拶

警察による事情聴取

影とリルの見舞い


……寝る暇なんかないよね。



まず急ぐのは、『外つ国』の言葉を使う残党掃除。

敗北したお仲間と、直ぐ行動を同じに出来ず、こちらに未だ潜り込んでいる〈ネズミ〉とか、〈キツネ〉とか、

まあ、害獣退治だね。


襲撃の時、影が忍んだリル達の集まりの時、漏れ聞いた、母の国の言葉。

あの言語は、実はエラントの発音にない子音があって、聞き取るのも発話するのも、かじった位じゃ難しい。外務担当の役人ならまだしも、騎士や兵が駆使できるはずがない。


そこで、一計を図った。


任務遂行に、気炎をあげる近衛兵団、近衛騎士団、王宮警察を労うことにした。


南宮の大広間に一堂に集まった強者達が、大ザッカードの掛け声と共に無礼講。呑むは呑むは。



そこへ、私の影たちが入室。

すぐさま

部屋のあちこちで騒ぐ。外つ国の言葉で。


”大変です、毒が酒に!

急ぎ卓上の青い水を!

中和されるはずです、さあ!"


なあんて嘘を大きな声で。

勿論、外つ国の言葉で。


ははっ。

殆どの者は、「???」な顔だが、

慌てて、反射的にグラスを持った奴が、

一人二人、三人、四人……


「全員動くな、手はそのままに!」

ばっ、と入ってきた南宮警備隊が、グラスを持った男たちを連行して、扉を閉めた。


あれよあれよ、の、早業に、

大広間の皆は、ポッカーン。


カラカラ、と大笑いする大ザッカードの

「流石殿下!子供だましですわい!」

と、褒め言葉にならないお褒めをもらった。


言語を使えて当然、な者以外は、はい、取り調べ、と相成った。


何でも、外つ国の関与を匂わせて、いざ、の時の支援を断つことが一番の目的。

それから、母の失脚

それと、発音が難しい故の暗号、だったそうだ。




南宮から出た私は、医務局に急いだ。

私の痛みより、負傷した影と、リルが案じられる。

幸い影は峠を越して話が出来た。

良かった。

私の影たちは、一人たりとも欠けてはならない。私が即位した暁には、私の側近として……


あれ。


私は、王になるつもりなんだ、と、自覚した。

そうか。

滅私の道を私は選ぶんだな。


リルは、まだ、面会が叶わない。警察も騎士団も、聴取したいことは山程だが、白髪頭の医師が、固く扉を閉めている。


頑張れリル。

君だって、やり直しの人生がある筈だから。


そんな願いを思っていたら、他の医師に掴まった。早口で私に懇願する。

私邸で寝ろ、お願いだから、もう動かないでくれ!

直訳すると、そう言いたいらしい。


陛下にお詫びしなきゃならないので、痛み止めを処方してもらい、正装で祖父の下へ急いだ。




南宮の謁見の間は、荘厳で、高い天井画は、龍と極楽鳥が花々に取り巻かれている。

金と漆、緋色のベルベットに統一された内装と、天井画に対応する獅子と孔雀の絨毯。

中央の天蓋の下、玉座に祖父はいらっしゃった。

この部屋に、内廷王族が入るのは、年に一度あるかないか、だ。


「よくやった」


……初夏に雪が降る。

この祖父が、労い?


「以前からのお前の働きで、蜂起した騒動に、初期対応できた。

拐かされたのは、汚点だが、報告によると、中々冷静な対応をしておる。

王家の矜恃も保ったまま、敵にも市民にも相対して、気持ちを質した。それで運を引き寄せた。

ジェイ。

運は、才能だ。

よく、帰った」


私は、涙が溢れそうになった。

名前を祖父から呼ばれるなんて、随分久しぶりだった。

そう言えば、祖父は、老いた。


「民と、対話、か……。

私の時代は過ぎたのやも、しれんな」


そう仰って、祖父は謁見を閉じた。


父の即位は、近いな。

覚悟だ、ジェイ。





そして、今。

違う覚悟に傷が痛む。


怖い。

とても、怖い。


いや、部屋の主の父、王太子でも、

その隣で、ふん、と、座っている母でもなく、


バルトーク公爵閣下。

貴方が怖い。


兄はセリア妃殿下を労るフリをして、視線を避けてるし、

ロゼッタに至っては、公爵の隣なのに、えらく椅子を下げて下げて、縮こまっている。


「で?」

はい?


「誰が責任をとってくれるのかな?」

……はいぃ?


伯父上、笑顔のこめかみに、青筋がひくひくしているんだけど!


父が、既に目を閉じて、離脱してるんだけど!


「……未婚の娘をよーーーくも……

マジメ男のむっつりスケベと、一昼夜半、汽車やら馬車やらに、往復同伴させて、

クマやイノシシに会うとも分からぬ山道を駆けさせ、

命を取られる寸前だった修羅場に居させ、

ポンコツ修理の怪我人と抱き合わせ、

寝顔まで、晒されて……」


ひいっ!

ポンコツは私だろうけど、

むっつりスケベって、兄か。


ダム!と、樫の木肌の天板が揺れた。割れたかと思ったよ、

伯父上の拳で。


「さあっ!

どっちが、ウチの娘を嫁にするっ!

デュラン!

ジェイ!」


(……えっ?)

えええええええええーっ!!


「エミリオは、今回の責任を取ると、降格を申し出てきた。

それと、」

父が口を開く。

はー、とため息で。


「フランカは、テムノの住人の騒動や家の不名誉から、

ジェイ、お前との婚約撤回を申し出てきた」


……え?


ええぇぇええええーっ!!


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