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53 王子、腹の底から怒る


「テムノ領民の皆さん!

私の救出作戦への協力感謝する。

それから、市民の皆、昨日からこちらで運動していたようだが、破壊や暴動を起こさず冷静に活動した事、その統制、感服する」


そこでようやく、私がジェイだと認識したらしく、双方武器(棒とか鍬とか)を置いた。


「半日前に、私はグレシャム伯爵に殺されかけた」

『市民』が、騒、とする。


「私と共に捕縛された、リル・アボットは」

そこで、一息。


「伯爵に撃たれて、重症だ」


今度は、(どう)!!

という声が、沸いた。


「騒ぐな。

彼女は今、王宮の侍従団が看護している。

近衛兵団とテムノの医師が搬送、手当をしてくれたおかげで息はある」


私の話を半信半疑で言葉を待つ。


では。


「市民の皆。

重税に関しては、皆の声を尊重する。

制度に則さず、過分に圧がかかっていないか、宮廷は各領主の調査にあたるであろう」


「……それが全てではない!

平民に負担をかけて、王族や貴族は」

私は声を張った若者を睨めつけた。


「君は学生ですね。

君は、税をはらってる?

まだ、未成年だよね」

「……う」


私は理屈だけ捏ねる奴が大嫌いだよ。


「テムノ領の人々が言った通り、逼迫(ひっぱく)されている方々は、それぞれの役所にお話なさい。

今回皆さんが声を上げたことを無碍にはしない。しかし、エミリオ家を非難するのは筋が違う。

本来なら、投獄されても、文句は言えない。だが、今回は見逃す。

解散なさい。

王家は、適正な税制を処しない領主諸侯を許しはしないから」


そこまで述べると、

跪いて頭を下げる者が出て、

「御心のままに」

と、ぱらばらと同じように腰を下ろす者が増えた。



「さあ、みんな、帰りなさい。

今回は、近衛も居るが、不問とする」

「殿下がここまでおっしゃるんだ、皆、解散を」


グレン達が、市民を帰す。民衆党に釣られて参加した者は、素直に散った。


青二才の奴らは、残って

「偽りを言うな!」「のうのうと生活する奴に何ができる!」

「リルは、女神は、死にはしない!」「伯爵は陰謀に……」


わいのわいの。


あー五月蝿い。

全員、不敬罪なんだが。

別にお前らに、敬わられたくもないけど。


「……王家の歴史も碌に学ばずに、語るな」


私は、怒っていた。

……なんか、今までの怒りが膨張し始めた。止められない。


「国の長が、どれ程国のために、犠牲を払ってきたか、お前たちは学んでいないのか?

家族すら他国に売る。買う。

親を見捨てる。

自分の首で国が助かるなら、黙って討たれる。

王家とは、そういう所だ」


「だから、何だ!

我々は」


「我々は?

この国を護れるとでも?

お前たちの理屈は、まず国を潰すこと前提だ。

基盤からひっくり返して、エリートに国を任せるって?

その前に、帝国や隣国に蹂躙(じゅうりん)されるだろう。

税どころか、資産の全て、家族も家も、根こそぎだ。

……古くは、民族そのものが消滅したことも、あるんだぞ!

お前たちが望むのは、そんなエラントだ!」


この時の私は、髪が逆立ち炎のように夕焼けに照らされていたそうだ。


私は怒っていた。

三度の前世の分も、怒っていた。


一度目の死の後、国を割っておこした内戦

二度目も、結局、王都を壊滅した。

三度目には、ロゼッタの非業の死をもたらした。


結局、こいつらは、奪うばかりで、何も護ってない!


「まずは、自分や家族を守れ!

攻撃や非難しか出来ない奴になるな!

グレシャムの奴隷になるな!」


「愚弄するな!伯爵は」

「ほら、語るに落ちる」


私は、ふん、と、嗤ってやった。


「身分制度を無くせ?

貴族を倒せ?

……なら、どうして、ダンドン・グレシャムは、

伯爵と呼ばせるんだ?」


あ、

う、


と、硬い頭を巡らせている様子に、畳み掛けた。


「お前たちも、伯爵、伯爵と、呼んでいた。何ら疑問も持たず

……洗脳とは、恐ろしいな。

グレシャムを平たく呼んでいたのは、リルだけだ」


リルは、ダンドン、と呼んでいた。

リルは、私もジェイと、呼んでいた。

比べるまでもなく、こいつらより理念に従順だ。


「グレシャムは結局、自分が王に成り代わりたかっただけの男だ。

民衆党の頭となって、自分の国を拡げたかった。

でなきゃ、お前らに、伯爵なんて呼ばせるもんか。

真の統率者、真の貴族は、己のみだと、刷り込ませたんだ」


「……っ」


「峡谷の男たちは言ったよ。

真のエリートが国を治める。愚民はそれに従えばいいと。

お前たちは、あの頭でっかちの手足でしかない。

頑張れば頑張るほど、アイツらだけが、生き延びる。

グレシャムは、国を荒らして更地になるまで、領国でのうのうと自衛して、機が熟せば、帝国辺りの助力で打って出る、

そんな計画だったんだよ。

お前たちは、無駄な捨て石だ」


「……」


「それって、エラント家が頭でいるか、グレシャムが頭を取るか、の違いで済むのか?

国は荒れ、国民は蹂躙される。

王家と貴族が絶える、それだけで済むと思うなよ!」


「く、も……もういい!

お前なんかに!

お前なんか」


そう言って飛び込んできた男を影がさっと倒した。呆気なく。


「……議論で頑張れるのなら、見逃してやろうと思ったが……。

何故お前たちを警察や近衛が即お縄にしなかったか、考えてみるがいい。

エラントだからだ。

グレシャムなら、声を出す前に銃殺だ!

リルのように!

専横政治とは、そういうものだ!


民衆党?聞いて呆れる!

グレシャム党じゃないか!

党が叛乱をおこしたら、その時、お前らは、護れるのか?

家族を

自分を

恋人を!!


お前らの女神すら、

自分が拾って育てて、弄んだ少女を撃ち殺す奴に、

大切な人の命を捧げる気か!


大事な人を失うつらさは、自分の身を切るより辛い……辛いんだ。

自然や災害ですら、辛いのに、破壊と崇拝を押し付ける奴らに、

潰されていいのか?

愛する人との人生を!」


「殿下」

鈴のような声が私を呼んだ。


「もうその辺で。

この者達は、理解しましたわ……」


気がつくと、男たちは、項垂れていた。

私を呼んだのは、フランカだった。


フランカは、私の正面に回り、淑女の礼をとった。

美しく、深深と。


「ジェイ・マール・エラント王子殿下。

テムノの領主として、エミリオの子として、

貴方に、臣として忠誠を誓います。

貴方のお言葉、

国を人を……想う御心、

感じ入りました。

テムノは、エラントを支持します」


フランカ……。


「お、おうっ!

姫様が頭下げるんなら、

ワシらは、王子をワシらの王様にしてもいいぞ!」

「ボロボロの王子様だけどな」

「ば、馬鹿っ!

どこに目があるんだいっ

いい男じゃないかい!」


……麦わらの皆さん……

最強です。






次回、プレラストラン!

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