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52 麦わら団vs市民集団 フランカ立つ

それから。


駅に着くや否や、救護隊と一個師団が待ち受けていた。

私が無事に奪還され、グレシャム伯爵一味を捕らえたことは、真っ先に王宮に伝達された。


その朗報が、まずは、兵団同士の睨み合いを大ザッカードが制圧したそうだ。

中には、やけになって向かってくる者もいたが、大概は、グレシャム捕縛に、白旗を上げたのだ。

戦意を欠いた向こうと、私の無事を知った将軍とでは、勢いが違った。


そして。


兄がロゼッタに言った、

『面白いこと』が、移動時よりパワーアップして、目前で繰り広げられている。


なんと、エミリオ邸前の市民集団に、〈麦わら団〉が、相対しているのだ。


説明は長くなるが、


私の誘拐と略殺を自分たちの土地で企てられ、領主様に罪を擦り付ける、という暴挙に、領民は大いに憤った。

情報通達の速さに、その団結力と怒りの程は汲み取れるが、

領民は、私達の斜め上を突っ切った。


王都のエミリオ邸に市民集団が群がって非難している、

と、聞いた老若男女は、

燃えた。


"エミリオ様フランカ様の一大事!

我らが行きますぞ!”

"フランカ様に指一本触れさせてなるものか”

"丸腰のお相手なら、私らで、追っ払ってやるわ!”


などなど。

エミリオ領国、特に白百合峡谷のテムノ領民の憤りは、物凄かった。


町長、村長、テムノ城の婦人会長、峡谷開発団青年部………

様々な人々が、麦わら帽子を被り、(くわ)(すき)を手に、私達や兵団の馬車にくっついてきた!


荷車どころか、屋根のない箱だけの車を耕作用の馬に引かせた集団まで居て、

その群団たるや、

幌馬車から見ても、壮観だった。


そして今。


エミリオ邸前の高い塀に、ずららっと、麦わら帽子がうち揃った。


私はけが人だけど、デュランやグレン達と共に、見守る事にした。

名もなき領民に、何かあったら、誘拐された私の責任だ。それこそテムノで独立騒ぎが蜂起しかねない。


それに……



私は、馬車から正門を見る。


「あんたらかい!訳の分からない屁理屈捏ねて、私らの公爵様を傷つけてんのは!」


かぼちゃのようなご婦人の轟く一声に、『市民』は、怯んだ。


「税が重いって?

なんでかなあ。

ワシらの所は、貧しいもんは税が下がっとるし、本当に困っとるモンは、役所に相談しとるがな」


「あんたら、安全がタダだとでも、思ってんのか?

姫様は、街道も用水も橋も、ワシらの税で作っとると、ちゃあんと説明されとるわい」


「あんたら、こんな所で文句言ってないで、自分とこのお役人にその棒っキレ、ツッコミな!」


などなど、いやあ凄い。


合間に、『市民』からの、

(税制のせいで、子供が)

とか

(エミリオが私服を肥やして)

とか、が、入るが、


「婿が死んだワシの孫は、学校でタダ飯食らわせて貰ったわい!」


「んだあ?

山で死んだあたしのダンナ達のために、姫様は宝石売って、一時金下さったんだよ!」


と、

『要は、あんたらの領主がちゃんとしてない』

の論戦で、ひねり潰した。


焦る『市民』は、物理的な力で、ねじ伏せようといきり立ったその時、


「お待ちください」

という、鈴のような声が通った。


「「「姫様!! 」」」


そう。

フランカである。


フランカが、

(私が参ります)

なんて言い出すものだから。


(大元のエミリオの者が、動かずして収まるとは、思えません。

お父様は、最後の最後。

テムノの方々が大事を起こさないよう収めるのが領主の役目です)


と、言って譲らない。


筋は通ってる。

問題は、前代未聞、女のフランカが、ということにある。しかも公爵令嬢。


(ロゼッタの方が、余程、ですわ。勿論、王家もご支援下さいますわよね?)

と、ニッコリしたので、


(……ジェイ、お前も行け)

と、父に言われた。


(お前は、婚約者だ。

怪我なんぞ我慢しろ。

元々、お前が誘拐されたからだ。

フランカに指一本ふれさせるな)


と、静かに怒られた。


と、言うわけで、辻に馬車を置いて、様子を見ていたのだ。

勿論、戦力外だから、馬車。

近衛は、万が一、と、待機。


『市民』は、どうやら、王都の民衆党と、学生(学院とグレシャムの学校の奴らだな)、そして、貧民街の住人のようだ。女性も子供もいる。


そのせいで、力で制圧出来なかったんだな。


いやいや今は。フランカに意識を向けよう。


フランカが館の正門から現れたため、麦わら団はフランカを取り巻いて、跪いた。


「皆さん、この度は、私のせいで、ご迷惑かけました。そして、ありがとうございます。

皆さんのお気持ち、このフランカ、感動致しました」


姫様!と、揃った声が麦わらから上がる。


「貴様がエミリオの娘かい!」

「お綺麗な格好しやがって」


いや、国のてっぺんの令嬢が、ボロを着ている国の方が、怖くない?国民、逃げちゃうよ?


「はい。テムノの領主として、エミリオの娘として、外国や王家、諸侯に渡り合うための〈戦闘服〉でございます」


フランカが続ける。

こんなに声が出るんだなあ。


「領主は、領民の命と財産を守る義務がございます。

私が一時の感情で、私の全財産を投げ打って、国中にパンを配ったとしても、それは一時しのぎでしかありません。

そんなものは、自己満足であり、

金が尽きた時、皆さんを裏切ることとなるのです」


国一番、と褒めそやされる淑女フランカは、今、そのエメラルドの瞳に強い光を宿している。


怒っている。

あのフランカが。


「私は領民が、安定した収入を得るために、お金を使います。

貴族は、領民の乞食ではございません。

勝手に搾取して懐を肥やしても、そんなものは一時。

民が痩せれば、領主は倒れる。

領主と領民が、飢える時も富む時も、共にあるために、私は長い時間と資金が必要な施策を行います」


「そうだよ!

姫様は、何時でもこうやって、お話下さる!

あんたら、自分らばっかりで文句言い合って、領主様や家令様のお話聞いた事あるのか?」


かぼちゃ夫人の隣の、ひょろっとした男が叫んだ。


「人じゃない!

制度が悪い!

身分制度に対抗して」

「話、なんか、出来ない位酷い奴らだから、こうして……」


そんな抵抗の声が上がったが、目の前の領主と領民の信頼関係を見せつけられて、『市民』は、怯んだ。


私は、今だ、と察した。


「ジェイ・マール・エラントである!」


馬車から降りて、グレンの肩をかり、私は声を張った……う、胸が痛い。骨折だもんな。


ざっ、と正門前の人垣が、こちらを向いた。


あれ、おかしいな。誰も、跪付かない。


「ジェイ殿下」

フランカの声に、


「え?本当に王子?」

なんて声がする。

あー、服がボロボロだもんな。












ラストラン!

後3回程となりました

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