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50 峡谷の最後

民主党(民衆党)「ジェイ!」

リルの声に、ぼんやりさんは覚醒した。

すぐさまリルの背から棒を受け取り力を込める。私とグレシャムの体に挟まれていたリルは、すっ、と垂直にしゃがみ、跪いた。


再び素早く立ち上がると、短銃をグレシャムの左胸にあてがう。


そんなもの、何処から?

身体検査されてないのか?


「……女の身体には、ポケットがいっぱいあるの」

余裕がないはずなのに、リルは私にウインクをする。

いや、君、真っ青だから。


「伯爵!」「グレシャム様!」

「この売女、離せ!」


男達も、剣やボウガン、銃、と、色とりどりの武器で威嚇。

言葉はバリエーションないけど。


「やれば?

私達が死ぬ前に、ダンドンも骸よ!

それでも、いいなら」

と、リルは銃を胸にくい込ませた。


「あんた達の理念なら、こいつが死んでも、優れたあんた達で国家転覆できるから、いいんでしょ?

世襲じゃない、身分じゃない、実力主義の国を創るんでしょ?」


……流石。

頭と口は、良く回る。


「……そうだ。

既に、この事件と同時に、『市民』と『南』を王都で蜂起させた。

もう、歯車は回り始めた……」


えっ。


反乱が?


「悪しきものの粛清は、始まった……みんな。私に構うな」

「伯爵様!」

男達は憤怒に顔を赤くし、グレシャムの言葉に涙する。


「馬鹿じゃない?」

リルが、ふん、と鼻息でこけにする。

「ダンドン、あんたが死ねば、神輿がなくなる。此奴らの指示系統はボロボロよ。こいつらにそんな選択出来るわけない。

私の本気を舐めてるのね。

まだ、こいつ、余裕があるわ。

締めて」


私は鉄棒を握る拳を自分の身体に引き寄せた。金混じりの黒髪が私の顎にかかる。


「伯爵様!グレシャム様!」


それしか言えないのか、こいつら。


「リ……ル」

絞り出す伯爵の声に、リルが僅かに動じた。

「……私の、リル」

と、喉を潰されないように、首と鉄棒の隙間に入れていた掌を

リルへと伸ばした。


「……ダンド…」

その時、グレシャムの手がリルの短銃に伸び、


あ、と、隙をつかれて、慌てて腕を掴もうとした時、


ダアーン!


と、いう音が鼓膜にぶつかった。

そして硝煙の匂い。


一瞬目を瞑ったが、開けた目に映ったのは、

リルの


横たわった姿だ。


「リル!」

私は思わず棒から掌を離した。間隙を付いて、伯爵が棒を捻り、振り上げ、

私の後頭部を打ちつける。


う、あ……


目の前に本当に星が巡った。

膝を付いて、地面のリルに被さるように、私は倒れる。


金臭い。血の匂い。

リルは動かない。


わっ、とわらわらと、男達が私達を取り巻く。

やった!流石伯爵!

殺せ!


馬鹿野郎。何にも出来ない奴らの癖に。

あっさりグレシャムを殺して、自分がすり変わる度胸も器量も、無い癖に。


頭も体も、ガシガシ蹴りやがる。

視界がゆらゆらする。

意識が遠のくのかな。

頭痛い。胸も痛い。ズキズキする。


「さあ、シナリオ通り、橋から」

と、引きずられた、その時。


「そこまで!一同動くな」

「ジェイ!」


あれ、

……兄上の、声、と。


(ロゼッタ)


私は意識を飛ばした。





あれ?


ここに、また来てる。

また、眞白の空間に、浮いている。

何で?

死んで、ないと、おもう、よ?

え?

死んだ?



(御機嫌よう)


精霊。

やっぱり、死んだのか。


(いや、まだ死んでないな。

多分、妻が我をお前の無意識に呼び寄せたんだろ)


何の為に?


(残り一つの命を取り上げるためだろ)


……。別にいいけど。

今死んじゃうのは、困るな。

リルは撃たれてるし、王都はてんやわんやらしいし、グレシャムの奴は殴りたい。


(お前、変わったな)

精霊がふわりと私の傍に舞い降りた。姿がくっきりと判別できる。


綺麗な男だ。透き通るような肌と白い長髪、赤と金のオッドアイ。


(人の命を人の幸福を

自分より先に考える男になった。

人の不幸を知って、傷つく純な心根が、元々あったんだろうよ。

ぬくぬく育って、そんな場面に会わず、兄や王家の中で卑屈さを増大してたから、お前の本質を自身も知らなかった)


相変わらずボロくそだ。


(おまけに、知識を広げた。

先程のやり取り、中々頑張ったな。

……俺としては、王家も同じ穴のムジナだとは思ったがな)


くっくと嗤うけれど、こいつはグレシャムと違って、癇に障らない。


(なあ、ジェイ。

今の世界で、頑張って生きて死ねよ。

今のお前なら、妻は、妹姫や甥姪を任せられると踏んだらしい。

我としても、今のお前に、導火線に火がついたエラントをどうするのか、見たくなった。

妻の国を危うくするなら、我は容赦なくこの国を捨てる。

けれど)


そこで、精霊は、ちょっと間をあけて、


(お前はそんな事態にしないと思える。

なあ、王子として、王として、生きて死んでみろよ)


言われなくとも、私は生きる。

生きて生きて、それから死ぬさ。

何もなくなる死に向かうまで、精一杯、私の人生を作ってやるさ。


(幸せに、なれ)


ポツリと精霊は、そう言って、消えた。


ふん。王子の幸せって、

なんだろうな……




「……イ!ジェイ!ジェイ!」


最後にそんな思考を呟いて目をあけると、

涙でぐしゃぐしゃになったロゼッタが目の前にいた。



私は無意識に腕を伸ばして彼女を抱いた。


王子としては知らないけど、

ジェイの幸せは、こんな小さいけど深い絆にあるよ、精霊。




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― 新着の感想 ―
[良い点]  とっても面白いです!  どのキャラも丁寧に扱われているのと、物語の背景が単純では無いこと、主人公のジェイが成長していく展開が良いですね。 [一言]  自分は、ジェイとロゼッタ推しです。2…
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