47 蜂起
その時です。
「陛下!
王宮前広場に暴徒!
街にも!3箇所!」
という大ザッカードが突入して参りました。
濤!と怒声が、扉の向こうから。
「詳細!」
義父が叫びます。
轟轟と、謁見室は人が交錯し、
「東宮執務室を緊急対応室とする!
全員、持ち場!」
エラント公爵も指を立てます。
王太子殿下は、見たことの無い厳しい顔で、
「これは戦争と思え!
想定ではない!
只今より、王都に、緊急事態宣言を発せ。
閣僚を招集!
来ないものは、斬れ
それぞれの働きなき者も同様!」
各々、銃と剣を確認しながら、動いています。
王太子殿下は、去り際に、
「デュラン!
誘拐対応は、お前に一任する!
ジェイ奪還は、東近衛騎馬隊を使え!
多分、向こうも、戦争だぞ。
心しろっ」
と、
御意!
と叫ぶデュランの顔も見ずに仰って、伸びた背中をお見せになりました。
いつもの春のようなお姿とは正反対でした。
「陛下、妃殿下方々、お子様方と共に、北宮に一度」
侍従は女性陣の避難を促します。
「いざその時は、隠し通路を」
直系王家のみが知る通路。
(ジェイが、前の人生で私を隠した所だわ……)
ジェイ。信じてなかった訳ではないけれど、矢張り貴方、私を庇ってくれていたのね。
「ロゼッタ嬢!お早く!」
でも。
庇われるだけの私は、嫌。
「ロゼッタ、私が行く。
私がジェイを取り戻すから」
私の様子を察したのでしょう。デュランがそう仰いました。
「私も」
「駄目だ。君は避難しなさい」
「嫌です……予感がするの、だから」
「連れておいき」
低い声が背後から致しました。
「お祖母様……」
王妃は、じっと私を見据えておいでました。
「ロゼッタ、先程の語りよう……
姉が動いていますね?」
お隣からデボラ妃殿下が、仰いました。
「私の里では、その者の守護精霊が、危機の時には動きます……
私の精霊が、胸の中で騒ぐの。
ジェイは祝福を受けている。
守護精霊がロゼッタ、貴女を呼ぶなら、貴女に役割があると言うこと」
妃殿下の瞳は、燃え盛るような光を宿しております。
私は外つ国の神秘を感じました。
精霊と結婚した外つ国の女王陛下。
その御妹君なのですから、精霊の守護が何かはご存知なくとも、何らかの形で不可思議がおきていると、確信なさっている様子です。
私は、こくりと頷きました。
「……安全な所で、知恵を授けるだけよ?戦いからは、遠い所にね。いいね?
お前に何かあったら、ジェイの命じゃ済まない。
バルトーク公爵に、王家は潰されるよ」
そんな風に、お祖母様はおどけて、
一息吐いた後、
「……デュラン、いいか?
ロゼッタは、私達の後を追って避難する途中、ちょっと、『迷子になる』から」
承知、と、デュランは王妃とデボラ妃殿下に笑って、騎士団の溜まりに叫びました。
「王子の救出は、デュラン・デル・エラントが受け持つ!
騎馬隊の指揮は、グレン大尉!」
「は!」
「峡谷は、攻めにくい。
殿下を斬り捨てる目的なら、峡谷の入口を守り固めて、万全を配するだろう。
お前は、急ぎそこへ
公爵の家令には、依頼する
武器はエミリオで補充!
エラントとエミリオの馬、乗り潰して急げ!」
その勇ましい指示に
「御意!」「お任せ!」
の咆哮が上がります。
「軍とは別に、奪還作戦遂行する!
命惜しまず付いてくる者いるか!」
と、周りに叫びました。
(御意)(殿下)(私も)
デュランの影と侍従、そして、あれはジェイの、影たち。
デュランは満足気に頷き、振り向いて、
(廻廊で、迷子になりなさい)
私の耳に囁いて、デュランは靴音高く急ぎました。
私は、侍従を伴って、控えの間で、乗馬服と簡易な鎧に着替えました。
生憎やっつけで調達した男物なので、ベルトで締め上げて、紐で足元を縛り……何の虫の知らせか学生服だったので、編み上げブーツを履いていたのが幸いしました。
(お早く、廻廊に参ります!)
侍従の目の前で着替える乙女も大概ですが、着替えた淑女に短銃をホルダーごと渡してくる侍従も、大概です。
それだけ、非常時ということよ、ロゼッタ、気を確かに!
行くわよ、ジェイ!
坂がふえて、確実に山地に入ったのが分かる。
郊外で一度。
森で一度。
外に出してもらえた。
生理現象を訴えたので。
解いた縄を見て、覆面の男は、くく、と笑った。
「リルに助けられたか色男」
どうも、こいつらは、私がボンクラの馬鹿王子だと刷り込まれているらしい。
ふん。
目隠しされて、用足しして、水とカチカチの黒パンを『頂いた』。
怯えもせず文句もいわず、大人しーくしているので、ビビっているとも、思われているようでもある。
「リルも、可哀想だよなあ。
こんなボンクラが、婚約者振ったからって、運命変わらされたんだから」
「やー、本望でしょ。
一度は惚れた男だし。
何せあの女が、殉教すれば、数えきれない男達が、泣いて仇討ちに向かうしね」
「お古になっても、叛逆の女神は女神か。そりゃいい」
いやー、中のリルには丸聞こえだろうな。気の毒。
「貴方の方が、ボロくそじゃない。ホント、人がいいんだから」
動き始めた荷馬車の中で、リルは笑った。
ボンクラ認定で、私はリル同様、足枷だけになった。仲良く片足ずつ。
「グレシャムが待ち受けているようだね」
リルは少しピク、と、反応したが、聞かなかった振りをされた。
しばし、沈黙。
(……兄は上手く接触したんだな)
本来忠実な彼の事だから、やってくれるとは思ったが、伝達が速い速い。
あれよあれよ、と、私達は
『復縁して婚約者を捨てたバカップル』
で、
『恨み骨髄のフランカが自領で二人の暗殺を指示』
てな、話が出来上がり、実行しやがった。
「ね」
リルが口を開く。
「貴方、本当に、私を好きだった?」
あれ、ま。この後に及んで、甘酸っぱい事、言うなあ〜
そんな気持ちで彼女を見たら、真剣な顔が、そこにあった。
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