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31 襲撃

来た時と同様、東宮の馬車で二人を送る事にした。


二人は、家のを呼び寄せると言ったけれど、三人で話すには都合がいいからと、押した。


エミリオ公爵の一人語りを聞いた後では、フランカと過ごして居たかったし、ロゼッタを一人で帰すのは、何だか……不安だった。


大体なんだよ。

何でそんなに頭が回るんだ。

作法室の顛末(てんまつ)を聞いた私は、リルの自尊心がロゼッタに、ズタズタにされたと肝が冷えた。


「ロゼッタ。君、政治家に向いているよ。大した演説だ」

と、先ずは嫌味から。


それから懇々(こんこん)とお説教。


「近頃のリルは、連日、学院のどこかで演説の中にいる。

もう、王子の恋人から、平等主義の女闘士に切り替えだ。

前から男子には人気があったが、近頃は女子の親派も作り、男子は益々。主義に同調するだけじゃなくて、彼女に恋情をもつから、ほぼ親衛隊の狂信者まで現れているんだよ?

フランカみたいに、いわれなく対立させられているのと違って、君の場合は、反リルの先鋒に照準固定だぞ」


私の説教にロゼッタはだんだん首をすくめて上目遣い。フランカは、

「殿下。ロゼッタも私も、蟄居を考えています。殿下が心安らかならば、その方が」

と、私の熱を下げようと、とりなす。


「可能かい?」

「単位は大丈夫です。

私は領地で卒論の取材をしようかと思います」


うっ。

リルに惚けて、今学期授業が必須なのは私だけかい。


「ジェイ。お義父様に言うんでしょ?……あの父が、登校を許して下さると思う?」

ロゼッタが今だに上目遣いで唇を尖らしている。


……はいはい。

「二人がそうしてくれると有難い。これから」


その時。

馬の(いなな)きと、怒声が上がったかと思った途端、

馬車が大きく揺れて、車輪が軋み、止まった。そのため私は大きく倒れるフランカを抱きとめ、ロゼッタの身体に手の平を出して押さえようとした。

幸いロゼッタは、ころんと私へ転がってきたので、私は二人を怪我なく函の床に下ろすことができた。


「ご無事で?!」「殿下っ!」

函の外の護衛が、扉を開ける。

外の喧騒が大きく聞こえる。


「状況!」

「襲撃ですっ!

護衛は、半数が負傷!応戦中!

馬車の馬が負傷!」

声の主は、グレン太尉か。

私も函の外に出る。

剣を剥き身にした。


「ロゼッタ!短剣!

グレン、お二人を護れ!」

「殿下、中に!」


私は構わず外に飛び出した。

途端に、刃が落ちてくる。

切っ先をかわして、剣を突く。

手応え。

直ぐに抜いて、次の攻撃に備えながら、私は周囲を見回した。


郊外の人気の途切れた路。

やわい街灯の下、襲撃犯は、

6、7……か。

既に地に伏せった敵が3。

護衛の馬が四頭。こちらは無傷か。

怒声、呻き声、刃の音

覆面の男達

鍛え上げた護衛だけなら、時間が解決する。


「殿下!お逃げください!」

そう。

私と二人が居なければ。


地面で組み合っている護衛が叫ぶ。そこに襲う男の剣を薙ぎ払って、みぞおちに柄を押し込んだ。


淑女二人で、状況は、五分五分か、分が悪い。くそっ。



「お覚悟!」

黒い覆面の男が二人、同時に飛び込んでくる。

私は、片手で一方に剣を突きつけ、もう片手に短剣を抜いて、剣を受け止めた。


力で負けるか。

幼い頃から、暗殺を想定した訓練を受けている王族は、実戦に強いぞ。


剣の相手には、喉に柄をねじ込んだ。一方には掌に短剣を突き刺した。


「殺すな!後で吐かせろ!

グレン、開けろ!」

すぐさま地面を蹴って、函へ叫ぶ。


「二人を!

フランカ、私に掴まれ!

ロゼッタ、馬を使えるな?

出ろ!

乗れ!」


グレンのガードで、私は護衛の馬にロゼッタを乗せる。

「君は、早駆け名人だ。

バルトーク邸に!」


「ジェイっ!」

ロゼッタの悲鳴に、構わず馬の尻を叩く。


『ひとりに絞れ!』


エラントの言葉でない叫びが轟いた。

(何だ?)

「殿下お速くっ!」

グレンが私を馬へと押す。慌てて跨り、鐙に足を乗せたフランカを引っ張りあげて、横座りにさせる。


「グレン!任せる!」

「御意!」


馬の嘶きとともに、手網を引いて、横腹を蹴った。

「しがみつけフランカ!」

私は思いっきり馬を走らせる。

横目に馬車の函が、ぼう、と燃え上がるのが見えた。


小路を抜けると、後は一本道。バルトーク邸まで姿を晒したまま、逃げることになる。

しがみつくフランカを片手で抱いて、片手は、手網を操る。一人と違って、勝手が悪いが、馬には頑張って貰った。

「大丈夫?」「はいっ」

顔を埋めながらも、フランカは返事をする。気丈な子だ。

前を行ったロゼッタの馬に追いついた。

流石ロゼッタ。跨ったせいで脚がむき出しだが、構うことなく、

「先に開門させるわ!」

と、手網を引いて加速した。


中等部まで、私と早駆けを競っただけのことはある。


(……誰だ)

民衆党。であるのは、確実だけれど。

今までの世で、こんな事態はなかった。また、未来が変わった。

『ひとりに絞れ』

あれは、わざとだ。

わざと外つ国を装った。

でなきゃ、母の国がなんで私を消す?ありえない。


目的は私?

フランカ?

ロゼッタ?


どうして襲撃できた?

どうして私達のルートが読めた?

どうして







ロゼッタがバルトーク邸の門を開けさせ、すぐさま閉めさせた。


「殿下!」「お嬢様!」

門番が非常事態と、家人を呼び、すぐさま、わらわらと人が動く。


汗をかいて大きく息をする馬に、ねぎらいの言葉をかけて私は、

「馬からロゼッタ嬢を下ろして差し上げろ。……フランカ、そっと。手を私に、そう。大丈夫」

と、フランカを下ろした。


地に降りたフランカは、私にもたれかかって、

「……とうございま……」

まで口にしてから、失神した。


グニャリとする身体を支え、シーツを抱えた下女と侍女に預ける。


「ロゼッタ、大丈夫か」

下男に下ろして貰ったロゼッタは、蒼白な顔で、肩で息をしていた。


「大丈夫じゃない」

「頑張った、凄かった」

「大丈夫じゃない!」

「偉かった、よくやった」

「……大丈夫じゃ、ないっ!」


思わず抱きしめた。

すっぽりと私の胸に収まった彼女は、わんわん泣いた。

家人も執事も仰天したが、構うもんか。

私はロゼッタの背中に回した掌をトントンと叩きながら、


「頑張った。偉かった。

君は素晴らしい。ロゼッタ」


と、繰り返した。






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