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17 王子の裁定2

「や、っぱり、謀ってたのね!酷い!公爵家への不敬をどうするおつもり?」

「自作自演?は!恐ろしい女ね」


おいおい肉食獣な君たちも、充分恐ろしいぞ。貴族の淑女じゃなかったっけ?

「……」

こんな時にフランカはおし黙る。流れは完全にフランカなんだが、そこに追い討ちをかけないところがフランカだね。

リルは……おお、まだ挑んでくるか。その哀しそうで可愛らしいしおらしさは、やっぱりクルなあ。


「……やっぱりリル嬢は優しいね」

私の一言に空気が凍った。


(あそこまで男爵令嬢の一人芝居だとほのめかしておいて?……まだ未練がおアリなの?)的な視線と囁き。


私はしれっと続ける。

「私が駆けつける前から、君の()()たちは、エミリオ公爵を非難していたんだろう?君はしばし痛みでそれどころじゃなかったからね」


そうですわ、この人たち声高に!

おお、肉食獣、この私の話に割り込むんだね。

まあ、話の裏付けになったからいいけど。


「リル。君は公爵令嬢が君を突き落とした、という状況を期せずして作ってしまった。

今や自分が、よく覚えていない分からない、と告げたところで収まらないと感じた。そうだね?」

私は段上からにっこり笑う。

口出しするなよ、リル。


「だから自らが被害を訴える事で的を自分に向けた。

もし、もしも冤罪と分かれば、謝罪だけではすまない。学院は糾弾した者に重い罰を与えるだろう。

卒業前に経歴が付けば、卒業後の身の振り方が変わるかもしれないしね」

オトモダチが驚愕して青ざめた。

あー、王宮とかに勤めるつもりだったかな。


「本当に公爵令嬢が押したのならそれでよし。そうでなければ……ならばと、自分一人で罰を受けるつもりなんだね」


リルは黙っていた。そうだ、今は何も言うな。


「殿下」

貴族令嬢……肉食獣の一人が勢いづいて口を出す。

「事故か故意か。それとも自作自演か。明らかにはなりませんの?」


「そんな!私は、私達にはそう見えた、見えたのです」

形勢不利なオトモダチはか細く私に懇願する。

「さっきと違うじゃない。白日のもとに真実を暴いた方が、お互い宜しいのではなくて?」

「……殿下の仰る通りなら、もし、リル嬢が被害者なら、貴女方だって、加害者ですわ。私達への」


うーん。当事者が黙っているのにやはり〈お友達〉は頑張るなあ。まだそのやり取りを繰り返すのかい?


「フランカ」

私はわざと冷たい声で呼びかけた。

フランカが、はい、と応える。


「君の立場なら、常に随行の学生を警護として連れている筈。何故狭い踊り場とはいえ独りになった?」

その手厳しい言い方に、リルがぱあっと明るい表情に変化する。

(何だ。やっぱり王子は私のこと……)

って顔。


「申し訳ありません。気になる事がありまして、別行動を指示しました」

フランカは頭を下げて応える。

私はわざと厳しめに、

「甘いな。その者がいたら最も近くで状況を把握できた。君が嫌疑をかけられる事は起きなかった。

そもそも随行者がこんな事故、未然に防いだろう」

と、戒めた。

「申し訳ありません」

フランカは変わらず俯いたまま返答する。


傍から見れば、王子が公爵令嬢を責めているように映るだろう。でもね、フランカはちゃんと理解してる。私が『嫌疑』『事故』という単語を使っていることを。


「ジェイ……事故だと、いうの?」

おっ、リル。君も(さと)い。


「事故だよ」

私は快活に告げた。


「フランカは、私の婚約者。将来の国母につく人だ。王室が公爵家の警備だけに預けない。王家の影が常に彼女を見ている。私も同様」

「えっ」「……」

声を出したのはフランカ。

「あー、フランカ、君も知らなかったね。負担にならないようにしてたんだ。……ここに着く前に顛末は聞いたよ」


私は階段を数段下りた。

勿体ぶって。

「報告は、事故」

そう言って肩をすくめてやった。


ほう、という安堵か落胆か分からないため息が満ちて、野次馬は興味を失ったか少しずつ散っていく。


「淑女諸君。互いの非礼を詫びた方がいい。ご友人を庇う誠意は美しいが、君たちの言葉は、とてもじゃないが美しいとは言えなかった」

私が、ははっ、とおどけると、双方我にかえったのか、赤い顔を覆ったり涙ぐんだり、忙しい。

やがて、強ばった謝罪のやり取りがあって、彼女らも落ち着いた。


リルが、

リルだけが、納得の行かない顔で私を見ている。


貴方、知っているのでしょ?

どうしてどっちつかずにするの?

本当は私が悪いと思ってるんでしょ?

それなのに、痛み分けにしたのは何故?……貴方まだ……


そんな顔。


そうだよリル。

君の自作自演をここで暴けば、君は私かフランカをもっと恨むだろう。どちらもターゲットにする気はない。私はお花畑の馬鹿王子だから、君というステキな女の子もクールな婚約者も好きなのさ。

そう思っていてくれ、今は。


「淑女諸君、互いの遺恨は持たないように。リル立てる?」

私は階段を下りてリルの手をとり、立ち上がらせた。その時に耳元で


(真実を語れば、君の公開処刑になるからね。もうフランカにおいたをするんじゃないよ)

と、呟いた。

リルは、さっと青ざめて、

「あ、りがとう、ございます……一人で行けますわ」

と、手を離して歩いて行った。

(歩けるねえ)



私は頷いて、

「諸君。授業にいこう」

と、宣言して、フランカに向き直った。


若干拍子抜けのようだが、断罪なんてゴメンだね。リルの恨みは怖いんだぞ。

「ジェイ、あの、ありがとう」

「痛み分けで申し訳なかったね……次からは気をつけるように」


フランカに厳しく言ったおかげか、リルのオトモダチは、黙って去った。フランカのお友達も、私のフランカへの態度に思うところがあるようで、こちらも黙った。


騒動を自分が起こして自分にかえるのは、貴族のご令嬢も同じだからね。


え?真実はどっちなのかって?


(リルが嵌めたに決まってる。ヒールが滑って転げたんだ)

後ろにもたれかかろうと、つまりフランカに接触しようとするからバランスを崩したんだな。押されてなんかいるはずがない。


さあ、これで分かったろ?ジェイ。

やり直し4度目は、しばらくどちらにも(くみ)せず、情報収集を急ぐ。

そして、民主党の蜂起を未然に抑えなくちゃ。


あの空間で私は誓った。

4度目は、国の安寧を一番に考えよう。そもそも民主党が台頭した理由を掴み、善後策を考える。

そして、共に動いてくれる人を作るんだ。一人で足掻いても、運命はとても重いのだから。


さて。

お祖母様は、どのくらいご存知なのかな。







次回は北宮の王妃殿下

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