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15 目覚めたジェイ

「あの王子が覚醒した。やっとまともな常識を取り戻してくれた」

「あの不実な王子が一方的に手を切った。乙女を弄んで何て仕打ちだ」


風評は二手に分かれた。

(ううむ……本来なら私の行動は褒められて然るべきなのに、これはリル教が随分校内に浸透しているってことか)

だよな。

まるでリトマス紙のように、民衆党思想に傾いた学生が炙り出せる。後、リルに恋慕している男子も。


卒業パーティーまで5ヶ月。

それまでに1回目で起きた出来事は、と。

リルへの虐めしか、覚えてないなあ(おいジェイ、なんて奴だ)

リルは三年生になってから、フランカや高位貴族令嬢からの虐めが酷くなった。私との仲がより深まったのを察して。(脳内お花畑の二人だった訳だ…恥ずかしい)


曰く、母親の肩身のブローチを捨てられた(裏山から見つかった)

曰く、令嬢に階段から突き落とされた(見た見たと騒いだのは、リルの親パ。幸い怪我は擦り傷だった)


1番大きいのが、リルの誘拐未遂だな。

あの時は、フランカがリルを亡き者にせんと画策しているという怪文書が来て、

私の手の者とレイモンドの騎士予備軍達が今まさに、という現場に踏み込んで、事なきを得た。

……待てよ。


今回はリルを振った。

そうなれば、虐めは無くなるんじゃ?ブローチだの階段だの、最悪な誘拐って未来は消えたのでは?


「ジェイ」


待て待て。

相手はリルだ。3回目で分かっただろう?彼女は策士だし、民衆党の理念を信奉してる。


「ジェイ」


もし、リルが1回目の時、私が王子だから、王太子になるから、接近したとフランカのお友達たちの言う通りだとしたら?


「ジェイったら!」「あ?」

考えを切る声に顔を上げると、ロゼッタがプンプンしていた。

「どうしちゃったの?こんな所で1人で……食堂にも教室にも居ないし」


あー、そうだった。

一人になりたくて生徒会室に潜り込んだんだった。

昼食は食堂へは行かない。

リルに背いた私に毒をもる奴が居ないとも限らない。

だから東宮の料理長直々に作らせたランチを携帯している。転生者である料理長付きの見習いは、おベン・トー、と呼んでいたな。みっしり様々な料理がコンパクトに詰められ、美味い。

諦めきれないリルに突撃される可能性を考えて、中庭とかテラスとか教室とか、かつてリルのサンドイッチやクッキーを貰って過ごした場所には寄り付かないようにした。

そうなると、ここ、生徒会室は一般の学生が出入りできないエリアにあるから好都合なんだ。


そういや、ロゼッタも生徒会役員だったな。


「リル・アボットとその仲間たち対策さ。授業はついて行くのにかつかつだし、鍛錬はキツい。宮に帰れば政治経済領土の地理歴史……昔の私を叱りつけたいくらい忙しいんだ」


自業自得よ……でも、それ、美味しそうね

ロゼッタは相変わらず百面相。むうっと膨らんだ頬で目が三日月だったのに、きょん!と大きな瞳でベン・トーに見入る。そしてキラキラの好奇心を漏らす。


「良かったら、お食べ。私の途中だけど」

「わあー、いいの?」

ロゼッタはトスン!と横に座って、ランチボックスを手に取った。


……良かった、ロゼッタは泣いてない。


前世は見るに耐えなかった。何でこんないい子が不幸に突き落とされなきゃならない?


1度目のロゼッタはどうなったのかな……卒業の時もロゼッタは婚約していなかった。そして、私がフランカを酷評すると、取りなそうと懸命だった。ロゼッタは決して私のこともフランカも、リルですら悪くは言わなかった。ひたすら(ボタン)の掛け違いだと、気を落ち着かせようとしてくれた。


3度目で、分かった。

私にとって、ロゼッタは特別な存在なんだ。

母への思慕や姉妹への感情とは違う。フランカやリルへの男としての劣情とも、違う。

この幼なじみの人生を護りたい。それはとても強い感情なんだ。


(多分今回のリルは、1回目同様私をターゲットにした。であれば、ロゼッタに擦り寄る未来は……)

あるか。

ターゲットと私からロゼッタに変更する可能性が。


(先ず、そこから潰すか)

今回の私は、民衆党が蜂起する種を断つ事を優先する。それから……


「あー美味しかった……ジェイ?」

私は頬杖をついて、幼なじみに微笑んでいたらしい。

「もう!ニヤニヤ淑女の食事を眺めるなんて悪趣味!」

いやいや、考え事していたんだけど……そう言う私に真っ赤な顔をそむけて、

「美味しかったから、誰にも言わないであげるわ。フランカにも。

貴方、フランカにお優しくなったのはとても好ましいけど、もう少し一緒にいてあげて、ね」

そう言って、そそくさと、ロゼッタは部屋から出ていった。


可愛いなあ。

(今世は幸せにおなり。ロゼッタ)


さて、午後の授業だ。

それが終わったら、今日は祖母にお会いしよう。

(ロゼッタの秘密を確実に守らなくては)

そう思いながら、教室棟へ向かうと、


きゃあああ!


という悲鳴が聞こえた。


身構える警護が私に張り付いたが、共に声の方向に急いだ。

西の棟の角、階段か?


「大丈夫か?」「誰か担架を」「私、見たわ!」「おい、周りを空けろ」


誰かが怪我をした……まさか?


「ああ、殿下まで。申し訳ありません。女子学生が階段を踏み外して」

「違います!突き落とされたんです!……ああっ、ジェイ!」


なんて事だ。何故ここに私は来てしまったんだ。


うずくまって、職員に介抱されているのは、紛れもなくリル。

そして、周りの生徒の

「ご令嬢が、この子を……突き飛ばしたの……見たわ…見た」

という呪文が繰り返される。

そして、階段の踊り場には、

金色の髪の麗人。

フランカが蒼白な顔で立ち尽くしていた。


乙女ゲームのセオリーは遵守しようと笑笑

さてさて、どんなざまぁになるかな?

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