13 三度の精霊
(はい、おかえり)
……あー
また死んだのか。
(お前さ、どうして、色恋から離れられないの?)
いや、今回は修道士のように過ごしたぞ?リルには近づきもしなかったし、可愛いフランカには、その、手しか握らなかったし。もっと、進みたかったけど。
(まあ、今回は、自分より他人を優先しただけ、人として上等だな。けど、おツムは相変わらずだ。
お前は、出自で脅されていたロゼッタを庇って逃げた癖に、自分で何とかしようと、ノコノコ出てきた。そこに、民衆党に内通していた近衛にバッサリ。隠し扉から出てきたからエミリオ公爵を襲った敵が襲いかかってきたと思った、というシナリオでな。勿論その内通者は相討ちに見せかけて自害)
なんだそれ。
結局今回も王宮の内通者に殺されたのか。……次のやり直しはまず王宮内を大掃除からだな。
(お前上着着てなくて上下黒い服装だったみたいだな、ホント運のない男だ。民衆党が街で黒ずくめの衣装で闘争していたって時にさ。
結局ジェイ王子は、ロゼッタと共に、民衆党の敵たるエミリオ公爵を亡きものにせんとした。そして逃亡し、民衆党と合流し、バルトーク公爵を拝して、王家転覆を図った。なんたってバルトークは王太子の長兄だしな。
バルトークは逮捕、獄死。
王妃は里の公爵家の咎を恥じて、蟄居を申し出、それを機に王が王太子に譲位)
「伯父が……」
(前回で分かっただろうが。お前の敵は、どんな事実も利用するのさ。死人に口なし)
くそっ!私が死ななけりゃ……
待って……
「ロゼッタはっ?」
(勿論自害、という名の誅殺。隠し穴で毒を呑んだ)
「……」
「エミリオ公爵は重症だが命に別状は、無かった。しかし、療養中にありもしない背任と着服の噂が膨らんで、国政に参画するのは辞めた。フランカは傷心の余り修道院に出家した)
「……」
(これで分かっただろ?民衆党は必ずお前の周辺を不幸にするんだ。お前がリルを避けたところで、次々と手を打ってくる。運命なのさ)
「その運命に打ち勝つために、伯母上はお前と契約したのだろ?」
精霊は前回よりも輪郭をくっきりさせて現れた。白銀の長髪。白いローブ。
私は瞼を閉じているのに、横たわって浮いているのに、その姿を認識できた。
(ううんー……まあ、そうだが……お前、やる気、ある?)
やる気?
やり直しってことか?
(今回のお前は、お前なりに上手くやってたよ。だからリルもお前を選択しなかっただろ?
けどな、その代わりロゼッタが犠牲になった。そうなると)
「四度目も、同じ結果になると?」
(言いたくないけどな……
王家……デボラの幸せからしたら、初回のさ、お馬鹿な王子のおかげで民衆党壊滅ってのが、一番いいんじゃね?)
「はあ?」
私は腹が立った。
「息子を失う人生の何処が幸せなんだよ!しかも初回も2回目も、今回も、私は反体制に取り込まれたって馬鹿だぞ?母にしたら、居心地悪い人生でもあるんだぞ?」
それもそうだなあ……
そんな呑気な言葉が脳に届いた。
(妻の妹は、お前の母と言う事で国政に関わることはなくなった。お飾りの王妃って訳だ。辛うじて存続した王家では、王太子となったデュランとその母セリア妃が台頭。
元々優柔不断なお前の父より王太子が実働し、王宮の奥はセリアが仕切ってるってさ)
うわ、あの母がお飾りの人生。
やり直したいのは、母の方だろう。
(……少し作戦を立ててから、やり直したらどうだ?転生の時期は時間の女神次第……残り2回の転生。やり直し人生も後2回。慎重になれ)
「お前は力になってくれるのか?」
(無理だ。先の選択を示唆すれば、我の能力は全能の神に奪われてしまうな。我に許されたのは、お前の転生のみ)
精霊はそう言って、はあ、と軽いため息をついた。
(……普通の者は、ここら辺で受け入れるんだがな……4度目の人生、やり直し3回目を望むお前は、何を成したいんだ?)
……何だろう。
2回目の人生は、リルと自分が生き延びる事を考えた。
3回目の人生は、リルから離れ、王太子となるべく精進する人生を送ろうと努め……ロゼッタとフランカの幸せを考えた。
4度目は、私は何を成したい?
何を望む?
「暫く休ませてくれ。そして、考える時間を貰えるか?……やり直しは、したい。その時にお前を呼ぶよ」
精霊は、にっ、と笑ったかのように感じた。微風が肌に触れる。
(ああ、思う様悩め)
それからどれ程の時が流れ……てはいない。この空間に時間という軸はない。
それでも、私は何日も何十日も何年も経過したように感じた。その間、ドクンドクンと鳴る心音だけが私の時計だった。
「精霊」(決まったか)
間髪を入れない彼に、苦笑した。
こいつ、お人好しかもしれないな……
「腹を決めた。やり直させてくれ」
承知……と言う言葉の後、
頑張れ
という声を聞いた気がした。
頑張れジェイ!




