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とある豪邸の一室。
「お嬢様、例の人物が見つかったようです。」
1人の男が部屋の主に向かって恭しく話す。
「そう…。やっと……やっとね…。長い間ご苦労さま。しばらく考え事をするから外してちょうだい。」
「かしこまりました。」
男はそう言って部屋を出る。
そして部屋の中には主1人だけが残る。
「ふふ…………ふふふ……。とうとう見つけた…!………ようやく…………会える」
シンと静まった部屋の中、不気味な笑い声だけがしばらく響き続けていた。
「お疲れ様です!!」
「おう、おつかれ!」
元気よく挨拶をして店を出る。
今日もお客さんが沢山来て繁盛してたなー。
そう思いながら急いで家へと帰る。
「ただいまー!」
「おかえりなさい、優里」
「ただいま!お母さん!」
私の声を聞いてお母さんが出迎えてくれる。
「今日は体調大丈夫?」
「ええ。今日はいつもより楽だったわ」
「ほんと!?良かったー!」
うち、黒崎家は私と母の二人暮し。父は小さい頃に死んじゃって、顔も写真でしか分からない。そんな母は女手一つで私のことを育ててくれたが、過労で倒れたのが中2の秋。だから今は私が母のことを支えるため日々バイトに勤しんでいる。いつも貧しく、今住んでいるところも築何十年の古いアパートだけど母と2人毎日で楽しく暮らしている。
「今日は学校どうだった?」
「んー。普通かな」
「なぁに、それ。せっかくのJKなんだからもっと楽しみなさい?」
母はいつも私に同じことを聞く。最初の頃は律儀に答えていたが正直毎日はネタが無く最近は毎回普通とだけ答えている。そしてその後に決まってするのが…。
「好きな人は?出来た?」
この質問。
「いないよー、そんなの」
「もう!華のJKがそんなのでどうするの!」
「いないものはいないんだもん。」
なぜか母は私の好きな人を聞きたがるが、残念ながらそんな人全く居ない。
「はぁ…。いつか優里が彼氏を紹介してくれるのをお母さんは毎日楽しみにしてるのに」
「いつかね」
わざとらしくため息をつく母を適当にあしらう。こうなると話が長くなる。
「ほらお母さん、いくら今日調子が良かったからって明日もそうとは限らないんだから。早く寝るよ」
「えー」
「えーじゃない。ほら布団入って」
いくつになっても子供のような母を布団に寝かせ、電気を消す。
そうしていつもと変わらない日常が今日も終わりを告げるのだった。