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7 草案起案

「とりあえず、草案はどうかな?ユーロさん、出来た?」


 ランテルノの声に机にかじりつくようにして書類の上に羽ペンを走らせていたユーロは、手を止めて顔を上げた。


「大体のところは。魔王討伐のために国民が一体となって協力しましょうと、そういう話ですな」

「そうそう」

「あと、給料は公務員法の定めるところにより……」

「……三級三十号俸……」


 珍しくクルベノが口を挟む。


「……そうそう、軍の下士官クラスに危険手当と出来高やったかな?」

「安い……?」

「そうね。軍は出動とか警備の手当がないと基本給は文官より安いわよ?」


 コンタードに聞かれて、軍関係の所属だったミリティストが答える。


「出来高が肝でしたな?討伐した魔物に応じて報奨金をだすと……室長、こんな感じですな?」

「だいたい事前調整の通りだね」

「基本的に国の施設は報告書さえ提出すれば使えるし、出入りも自由に出来ると」

「破格だなあ。手続きが面倒でしょうね」


 行政官が本職のコンタードが呆れたように言った。


「守秘義務にしても職務専念義務についても宣誓書は取ってあるからね」

「ただ……国民の協力ですけど……どこまで求めますか?施設やら土地の立ち入り、に品の借用。場合によったら徴発。協力してくれますか?」

「んー、無条件……てわけには」

「いかんでしょうな」


 頭を掻くランテルノに、ユーロが首を傾げていった。


「行政でも国民の財産に手を付けたりするときは、結構手続きが面倒ですよ。なにより時間がかかります」


 コンタードも付け加える。

 ミリティストも口を開いた。


「つべこべ言うやつは実力行使で」

「論外ですな。国民の権利は法律で保障されとりますよってに」

「魔法で催眠かけます?」

「いや、全国民には無理だろうよ」

「緊急事態だし……対価を払えばいいのかな。スピーディーだと現金かなあ?」

「……予算が足りません……」

「貧乏だもんねえ。もうちょっと魔王からの実害が目に見えてくれれば予算も通るんだけどなあ」


 ランテルノが随分と不謹慎で物騒な話をしている。

 実際問題、内海に接している国のうちのいくつかが魔王との戦争状態に陥っているものの、レグーノ王国の王都が直接被害に遭っているわけではなかった。魔物達の数が増え活発化はしているが、王宮内では公然の事実で国民も感じてはいるが、公式に魔王との連動が認められ発表されているわけでもない。

 無駄に社会不安を煽るわけにもいかず、国民の無条件の協力を得るのも、現状では難しい。


「はい、提案です」


 ノヴロが手を挙げた。


「労働を対価にしてみては?」

「……なるほど。それはええかも知れんな」


 すぐに理解したユーロは何度も頷いた。


「つまりどういうことかしら?」

「直接的な労働でなくてもいいと思いますけど……たとえば何かを譲ってもらうとして、代わりに何かを手伝うとか、頼み事を聞いてあげるとか……」


 ミリティストが疑問を口にすると、ノヴロが答えた。すると今度はコンタードが付け加える。


「それじゃお遣いですね」

「わかりやすくていいじゃない」

「口頭契約でもいいとは思うけど、一応行政局が使ってる簡易契約書の様式を使う?」

「そんならお互いに形が残るからええと思いますけど、ただ、国外で通用するかな?」

「国外用の様式もあるさ。そんなに難しくもないし」


 コンタードが答えた。ただし、条約で協定を結んでいる国、つまり友好的な国に限ると付け加える。

 それを聞いてからランテルノが二回ばかり頷いた。


「それじゃあ、対価を渡す代わりに物品や情報を提供する協力義務が発生すると。それでいいね。じゃあ、ユーロさんは草案をまとめて書類にしてくれる?それから起案して稟議に回してちょうだい」

「協力という文言が肝ですな。かしこまりました」


 ユーロが再び猛然と書類仕事に戻った。


「あとは勇者の出発までにやることと言えば……」

「備品の準備は……うちの仕事ですよね?」

「そうだね」

「では私は騎士団の方を回って武器防具を調達してきましょう」

「それと、食料と医薬品と……あと必要なものを確認して調達しないとな」


 ミリティストとコンタードが口を揃えて言った。


「そうだね。予算は少ないから、気をつけてね」

「……三百ゴールド……」

「了解です。おやつは?」

「……本人用意で……」

「バナナはおやつに……」

「……はいりません」


 クルベノとコンタードがしょうもない遣り取りをする。


「それからクルベノちゃんは予算を書面にしてあげてちょうだい。これも起案しといてね」


 気を取り直したように、ランテルノが締めた。


「あとは、これ本人からの申告書なんだけど」


 ランテルノはそう言って、先ほどとは別の羊皮紙を机の山の中から見つけ出す。


「ここに彼らが習得してる魔法リストがあるから、著作権と使用権を確認しといてくれる?」


 ノヴロに向かって言う。ノヴロは少し感激したように右手を額に添えて言った。


「了解しました」

「どうしたの?なんか喜んでる?」

「そりゃ喜びますよ」


 ミリティストに向かってノヴロは声を上げる。


「魔法関連なら僕の範疇です。やっと仕事らしい仕事が出来るんですから」

「……意外と真面目だったのね……」


 ミリティストは少し意外そうに小声で言った。もちろん、ノヴロの耳には入らないようにだ。


「ところで……室長は何をするんですか?」


 一段落したところでコンタードがぼそりと聞いた。


「……やだなあ。僕が何もしないみたいじゃない」

「違うんですか?」


 じろりと五対の目玉がランテルノに向いた。


「ちゃんと仕事してますよ。みんなの居ないところで。いやだなあ、もう」


 おどけたようにランテルノが言い、コンタードが大きくため息をついた。


「まあ、管理者なんてそんなもんでしょうけど、一応、部下の手前ですから、居るときは振りだけしといてくださいよ?」

「わかりましたよ」


 少しすねたように言ってから自分のデスクに座ると、書類を引っ張り出して目を通し始めた。


「じゃあ、各自で掛かりましょうか」

「あいよ」


 ミリティストの一声に、四人が四様に声を上げた。

 ランテルノの机の上には窓からの柔らかい陽射しが射し込んでいる。またまだ優しい午前の陽気は一日の始まりを告げたばかりだ。

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