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6 帰還復命

 『国王府外交部特別対策室別室』、通称『魔王対策支援室』の事務室は、王宮の隣に建てられた行政府の建物の四階にある。建物自体が王宮に負けず劣らず大きな建物であるが、王宮に遠慮してか高さは低く作られ尖塔もない。四角い建物で敷地の広さだけが自慢である。

 王国中の行政だけでなく司法、外交、そして立憲君主制に基づく議会まで含めて、その機能ほとんどがここに集められていて、全体で数千人の職員が働いている。


「なんだかえらく狭く汚くなってません?」

「さて、そうかなあ?」


 コンタードの問いにランテルノはあたりを見廻しながら言った。

 別室という名前がついているだけあって、元々の倉庫を無理矢理改装したらしい。広いがひどく殺風景な部屋で、かろうじて南に窓があるのだけが救いだった。

 コンタード達が集められた時点でいくつかの机で島が作られていたが、今はさらに机が増えて、書棚や戸棚が置かれた上に応接セットとは別に三人掛けのソファが据えられている。

 さらに茶箪笥まで置かれ、飲みかけのカップが山積みになっていた。


「……だめじゃないの、ノヴロ君。こんなに汚しちゃあ」

「ほんまですよ。事務室は綺麗に使わなあきません」

「いや、俺たちさっき帰ってきたんですけど?」


 口を開けて唖然としているノヴロに代わってコンタードが言う。


「あれ、そうだっけ?時間って残酷だよね。部屋が劣化していく……」

「そんなに出張で空けてません。三日くらいでこれですか……って、さっきの誰です?」


 見ると、席に黒い法衣を羽織った中年の男性が座っている。

 短く刈り込まれた髪には白いものが混ざっているが、法衣の隙間からわりと細身ながらがっちりとした肉体が垣間見えた。


「こんにちは。ユーロ・ユーステコいいます。法務局企画課から異動になりました。よろしゅうに」


 言葉のイントネーションに違和感があったが、三人は手を差し出しながら名乗る。


「西方のご出身ですね?」


 ミリティストが訊ねた。


「そうです。なかなか言葉が抜けんのですわ。役職は下っ端ですので、あんまり気ぃ使わんといてください」


 少し嬉しそうにユーロは答えた。


「いえいえ、よろしくお願いします……で、室長。とりあえず片付けません?」

「そうだね。そうしてくれると助かるよ」


 簡単に打ち合わせて、ミリティストとノヴロがカップを片付け、コンタードが書類を束ねていく。クルベノは相変わらず席に着いたまま、計算尺を片手になにやら計算を続けている。

 ランテルノは、コンタード達が部屋に戻ってきたときと同様、琥珀色の液体の入ったカップを片手に、新しく据えられたソファに深々と腰を掛けていた。


「復命書は急がないからね……で、とりあえず、どうだった?手に入った?」

「ええ、ばっちりです。ヒヒイロカネは資産管理課に渡して装備部に渡すよう手配しました。おまけもありますから、それも預けましたよ?」


 コンタードが書類を束ねる手を止めて言う。


「お疲れさま。おまけって?」

「ドラゴンですよ」

「ドラゴン……ああ、あの山ならフラモドラコかな?」

「私たちでなんとか仕留めました」


 ミリティストが剣の柄に手を掛けて言った。騎士だけあって戦果の報告となれば少し誇らしげだ。


「コンタード君が居たんだから、きちんと解体して持って帰ったのかな」

「ええ。室長、よく俺が解体できるの知ってましたね?」

「あのね……別に君たちをくじ引きで選んで異動してもらったわけじゃないんだよ?」


 少し呆れたようにランテルノは手を広げていった。大げさはいつもだが、呆れたような物言いは珍しい。


「じゃあ占いか何かで?」


 ノヴロが言うがランテルノは肩を竦めた。


「きちんと君たちのことは確認してます。人事記録ぐらい読むさ」

「ああ、そういえば申告はしてますからね」


 年に一度の管理者との対話や、採用時の履歴書を読んだのだろう。コンタード達はそう納得した。


「それを踏まえて、勇者のバックアップに最適な人員を確保しているところなんだよ?」

「しているところ……って、まだ途中ですか?」

「そうだね。状況を見ながらもう少し増やしたいね……君たちみたいにその道の専門家をね」


 確かに、見廻してみれば戦争、行政、魔法に経理の職に就いていた人間が集まっているわけだ。加えて新しく参加したユーロは、コンタードの察するところ法律の専門家ということらしい。

 それぞれの得意分野があるわけで、専門家と言ってもいいくらいには仕事に精通している。


「でも、やっぱり、今回の出張は勇者の仕事だったと思いますよ?少なくとも事務方の仕事じゃないです」

「まあ、そう言わないの。親睦も兼ねて、ね」

「親睦で遭難したり死んじゃったりしたら、シャレで済みませんね?」


 ノヴロが呆れたようにコンタードに囁く。

 まったくだと同意の視線を送ると、コンタードは書類を書棚に戻して、自分の席に座った。


「それで、私たちの出張の間に仕事は進んだんですか?」


 ミリティストはふきんで拭いたカップを茶箪笥に戻すと、コンタードと同じように自分の席に座った。席は出張前にくじで決めたものだ。


「そうだね。とりあえず勇者の採用試験は合格者が発表になったよ。ええと」


 ソファの横に並んでいる自分の机の上の羊皮紙の束を漁ったランテルノは、やがて目当ての書類をたぐり寄せると、ソファにもたれ直した。


「騎士のルガー君と魔道士のブルア君、後は剣士のローゾちゃん。三人だね」

「ルガーって、あのルガーですか!?」

「どのルガー君かな?」


 素っ頓狂な声を上げたミリティストにランテルノがからかい半分の声で答える。


「……知ってたるんでしょう?わたし、昔一緒に仕事をしたことがあります。退職して冒険者をしてるって聞いてましたが……そうですか、勇者に……」

「僕もブルアは知ってます。魔法学校の同級生ですから」

「へえ、君たちの知り合いは優秀なんだね」


 三人は押し黙った。

 偶然と考えるには重なりすぎているようにも感じられる。だが、ランテルノが、もしくは上層の誰かが何かを考えていたとしても、彼らには知るすべはなく知ったとしてもどうしようも出来ないだろう。

 コンタードが訊ねた。


「で、その三人で旅をするんですか?」

「いや、これに連絡役の職員が同行するよ。王国府宮廷局秘書室の職員が一人つくね。形式上はうちにも兼務で在籍するんだけど」


 ランテルノが答えてから続けた。


「で、パーティは決まったし、出発も三週間の公務員基礎研修が終わってすぐの予定だね。対策室の方から文書が回ってきてたよ」


 今、彼らが在籍しているこの部屋は対策室別室、通称、魔王対策支援室だが、これには対策室の本室が存在する。通称は魔王対策室で、メインで魔王軍に対する対策を企画、立案、実行している部署である。

 彼らの支援室はあくまでそこで策定された施策のうちの、勇者派遣を実行に移すための支援が大きな任務である。もちろん、それ以外の雑務も含む。ただ、現在の状況で具体的に仕事と言えば、派遣される勇者達の旅のを成功させるために影で支援をすること、という全く抽象的な内容になってしまう。「……悪く言えば便利屋……なんだけれどね」とはランテルノの心の内である。


「うちの方は、それに合わせて特定勇者派遣法の改正案の草案を策定中ってところかな?出発までに議会にかけて通してもらわないと」

「ああ、それでユーロさんが異動に?」

「そう、うちは仕事に合わせて人を集めてくるから。もっとも、仕事はたくさんあるから終わっても、元の部署にはすぐには帰れないよ?」


 ランテルノがいたずらっぽく笑い、コンタードは肩を竦めた。ミリティストもため息をつく。


「大丈夫ですよ。出張中に三人で話してたんですが、諦めてますよ。室長に目を付けられたのが運の尽きでしょう」

「ははは、言うねえ」

「まあ、仕事にやりがいはありそうですから」

「ふふふ、そうだねえ」


 ランテルノは嬉しそうに笑って、羊皮紙の束を机の上に投げる。ばさりと音がして元の机の上に収まった。

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