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5 鉱山へ行こう3

誤字、脱字のご指摘をありがとうございます

今後ともよろしくお願いします

 男は気を失ってはいたが命に別状はなかった。ケガの具合はそんなに酷くはない。

 コンタードは背負っていた荷物から薬草類を取り出すと、手当てをしながら気付け薬を嗅がせた。

 男は一瞬びくりと震えて、それから薄目を開けて、ゆっくりと目を覚ましたようだった。


「あ、あんた達は?」


 男は少しの間ぼんやりとしていたが、突然意識がはっきりしたのか、ぶるっと震えるとコンタードの顔を見つめた。それから周囲を見廻して慌てて立ち上がりながら言った。すぐにバランスを崩しそうになる。

 コンタードが答えた。


「私たちは国の職員です。公務でここを訪れたら、あなたが倒れていたんですが……何があったんですか?」


 丁寧で優しい言葉だった。ノヴロが少し恨めしそうにしているのを視界にとらえたコンタードだったが、あえて無視をする。


「襲われたんだ、ドラゴンに……そうだ、ドラゴンだ。やつはどうしたんだ?」


 男は突然震えながら、早口で言った。


「大丈夫ですよ。もう、ドラゴンに襲われはしませんよ。少なくとも今ここでは」


 背後からミリティストがなだめるように言った。

 男の震えが少し収まったようだったが、それでも怯えたように辺りを見廻している。


「彼女が言ったとおり、大丈夫ですよ。我々が退治しました」


 親指で倒れたままのドラゴンを指すと、男はそちらを一目見てから、大きく息をついて崩れ落ちるようにへたり込んだ。


「た、助かった……」

「そうですよ。大丈夫ですよ」

「……すまない。あんた達が助けてくれたんだな。ありがとう。私は商人のコメカドだ」


 コメカドはコンタードが伸ばした手を掴み、引っ張るようにしながら立ち上がってから言った。


「……恩に着る」

「どうしてここに?」

「鉱山の視察でこの山の外に居たんだが、あのドラゴンに襲われたんで逃げ込んだんだ。結局逃げ切れなかったんだが……」

「買い付けか何かですか?まさかこっそり採掘とかではないですよね?」

「もちろん、違う。この鉱山と取引があったんだが、最近、採掘量が落ちたと聞いて気になってな。実際に見に来たんだ」

「ああ、タイミングが悪かったんですね。今は鉱夫は居ないらしいです。キツくて辞めたと思ってましたが……」

「そうね。ひょっとしなくてもドラゴンのせいでしょうね」

「ああ……そうか……」


 コメカドは黙ってしまった。なにかを考える風に俯いている。

 困ったコンタードは、ミリティストとノヴロに視線を送る。ミリティストが頷いた。


「すみませんが、コメカドさん?どちらにしても、ここは一般人は立ち入り禁止です。私たちは用務を済ませに奥に行きますが、お一人で帰れますか?大丈夫?」


 コンタードの言葉にコメカドは大きく頷いた。


「ケガと言っても腕を少し痛めただけだ。手当もしてもらった。大丈夫」

「わかりました。気をつけてくださいね。まだ、何か居るかも分かりませんから」

「ああ、手当の礼もろくに言っていなかった。ありがとう。王都に店を構えている。何かあったら連絡をくれ」

「わかりました。こちらこそありがとうございます。では」


 コンタードは言葉を切ると、手当のために降ろしていた荷物を背負いなおした。コメカドは改めて頭を下げると、踵を返して早足で洞窟の入口に向かって去って行った。


「とんだ道草ね」

「本当ですよ」


 さっきまで黙っていたノヴロも軽口を叩く。


「いこうか」


 コンタードは再び歩き始めた。

 先ほどのドラゴンのこともあり、少し慎重になっている。ミリティストもコンタードを追い抜き先頭に立つと、武器を構えたまま警戒一色で歩き始めた。

 歩みを進めるうちに、やがて通路は狭くなり、天井も低くなり始めた。

 一人が普通に通れる幅になり、一列になった三人が周囲を警戒しながら進んでいたが、突然、先頭を歩いていたミリティストが声を上げる。


「うわ、綺麗……」

「なに、なんだ?」

「なにかあったんですか?」


 後ろを歩いていて、ミリテイストの背中より前の見えないコンタードと、さらに見えないのノヴロが少し焦る。


「これが、ヒヒイロカネじゃないの?」


 通路が終わり少し開けた小部屋のような袋小路にそれはあった。明かりも点けずに歩いていた三人だったが、その部屋は明るく、ぼんやりと緋色に染められていた。

 その光源は部屋の奥の壁にあって、人の頭部の大きさの二つ分くらいの大きさの歪な塊が岩壁から覗いていた。

 ミリティストが通路から部屋の部分に入り、左によけると、後の二人も続いて部屋に入りその鉱石を目にした。琥珀のように透明ながら緋色のついた塊は、気泡も含まずとても透き通って美しかった。まるで吸収した光を蓄えて放っているかのようにぼんやりと柔らかく輝いている。


「綺麗だなあ……」

「美しいってこういうのを言うんですね」


 二人も思い思いに感想を口にする。


「これは頑張ってきた甲斐があったなあ」


 コンタードは背中の荷物を降ろすと、背嚢に括り付けていたピッケルを手に取った。柄は短くあまり力を発揮できそうにはなかったが、ピンポイントで丁寧に削り取るには向いているようだ。

 ミリティストとノヴロが見守る中、慎重に鉱石の周りの岩石を削ってゆく。


「……これってたくさん獲っても怒られないのかしら?」


 ミリティストが顎に手をやりながら誰にともなく言った。


「ああ、そこは大丈夫。どさくさ紛れだけれど、採掘量、種類、共に無制限の許可証を取っておいたから。何があるかわかんないしな」

「さすがに抜かりがないわね」


 コツコツと洞窟内に音を響かせながらピッケルを振るうコンタードだったが、やがてペースは落ち、かなり慎重に削り始める。

 やがて、ゆっくりとしたピッケルの一撃と共にぐらりと鉱石が揺れたかと思うと、そのまま転がるように岩を離れた。慎重に手をさしのべていたコンタードの元に、ころりと鉱石が転がった。


「うわ、なんじゃいこれ。軽いなあ!」


 コンタードは、左手の三本の指だけで鉱石を掴んで持ち上げた。カードを作るだけでは中々に多すぎる量を手に入れたことになる。


「やったわね。これで一安心」

「まあ、帰り着くまでが出張だって、偉い人も言ってたし、気は抜くなよ」

「わかってるわ」



 洞窟を出る前に、まだひと仕事が残っていた。


「ちょっと待ってもらっていいか?」


 魔法が効いて暑さは気にしなくてよかったが、湿気は多く不快な点はあまり変わりがない。帰りを急ぐに越したことはなかったので、コンタードの言葉に意外そうな表情を浮かべたミリティストは言った。


「早く出た方がよくない?なにか忘れ物?」

「ああ、あれをちょっとな」


 コンタードが指したのは、先ほど倒したフラモドラコの死体だった。


「どうするんですか?」


 ノヴロも不思議そうに見ている。


「あれをちょっとな。土産に持って帰ろうかと」

「え?無理よ?さすがに、あんな大きいの抱えては帰れないわ?」

「いやいや、全部じゃないよ。子供じゃないんだから、そのへんの分別はある。あれをバラすんだ」

「出来るの?」

「やるんだよ?」


 コンタードは荷物を降ろすと、腰に付けたショートソードを握った。

 そこからは少々凄惨だった。

 決して手際よくとは言い切れなかったが、それでも慣れた手つきで解体を始めたのだ。身体を切り裂き分解していく。


「うわーすごいですね」

「おまえさんも手伝うんだよ。冷やす魔法が使えるなら、冷凍も出来るよな?」

「出来ますけど、氷室代わりにしないでくださいよ」


 笑いながら答えたノヴロが、解体した肉に氷の魔法を掛けて凍らせはじめた。ミリティストはただ見守っている。コンタードは骨や牙といった硬い部分と、鱗をたっぷりと集めて紐で括り、冷凍された肉を布で包むと、それをいくつかの荷物に分けた。


「これくらいの量なら手分けして持てるだろう?」

「……そうね。なんとか持てそう……昔、猟師でもしてたの?」

「魔物の勉強してたって言ったろ?先生の見よう見まねさ」

「マッドサイエンティストを想像しました」

「まあ、当たらずとも遠からずってやつだな」


 三人はそれぞれ、背中や肩に荷物を担ぎ上げる。

 それからすぐに洞窟を出て山を下り始めた。帰り道のペースは少し遅くなるが、日程的には今日中に中継点の町まで戻ればいいし、陽も頭の上を少し通り過ぎたばかりの高さだ。余裕はあるだろう。


「しかし、まだ異動して一週間と経っていないのにね」


 ミリティストが、しっかりとした足取りで進みながら言った。


「こうして仕事でなにかをひとつ成し遂げれば、いろいろとお互いのことも分かってくる気になるわね」

「確かにそうですねえ」

「もっとも、なんで俺たちがここでこんな事してるのかは未だ以って謎だよ」

「そうよ。これって、どちらかっていうと今回採用になる勇者の仕事でしょ」

「いくら準備って言っても、やっぱりそうですよね」

「まったくだ。なんでこうなったんだろうな?」


 三人は歩きながら顔を見合わせると、自分たちの上司の顔を思い浮かべ、軽くため息をつくのだった。

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