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4 鉱山へ行こう2

「うわぁぁぁぁ!」


 叫び声が、狭い洞壁に反響して木霊する。

 ミリティストは一瞬立ち止まった後、すぐに剣と盾を手に握ると駆けだした。男二人も後を追う。

 真っ直ぐ走ってから二本目の交差点を左へ曲がり、息を切らしながらコンタードが言う。


「おい、ハァハァ……どこからか分かるのか?」

「ん、大体はね」

「ハァハァ、すげえ耳だなハアハア」

「日頃の訓練よ。建物の中とかでの索敵に使う技術ね」


 さすがに武官だけあって、ミリティストは大して息も切らさずに走り抜ける。

 と、遠くにぼんやりと明かりが見え始めた。焚き火のような篝火のような大きな炎のようだ。そして、そのすぐ側には、倒れている人影が見える。


「出でよ氷の矢!」


 声と共に突然現れた青白く輝く塊が、ミリティストの左脇をすり抜けるように炎めがけて飛んだ。

 ノヴロの声だった。

 彼が魔法を発したのだ。氷の矢は吸い込まれるように炎の塊にぶつかり、火炎を弾いた。


「危ねえなあ。何するんだよ!……って、なんだあれ!?」


 コンタードの一人芝居に反応するように、弾かれた炎の塊が突然立ち上がった。


「魔物よ!ドラゴン!」

「ああ、ドラゴンだな」


 ミリティストの言葉に追従するコンタード。その時には、ミリティストはロングソードを構えて駆けだしていた。

 視線の先にいたのは、炎を身体に纏った巨大なドラゴンだった。もう一撃、氷の矢が飛んでいく。ノヴロが距離を詰めながら魔法を発動している。

 コンタードは足を止めるとじっと目を凝らしドラゴンを観察する。

 距離は十メートル程だろうか。黒に近い濃い緑色の鱗に、コウモリを大きくしたような翼を中途半端にたたんでいる。少し長い首に尖った口と太い牙。少し長い四肢を器用に折りたたみながら移動し、鉤爪でミリティストのロングソードと打ち合っている。

 ミリティストは、滑り込みざまに倒れている人影をすくい上げて体勢を立て直すと、盾を使いながら後退を始めた。

 上手くノヴロが魔法を打ち込み援護する。


「んー、この翼と炎の使い方は……覚えがあるぞ……」


 戦闘能力をあまり持たないコンタードだったが、止めていた足を再び動かし、ミリティストへ駆け寄ると、引き摺るように連れてきた人影を受け止めた。

 どうやら中年の男性のようだった。禿げ上がった頭が血にぬれていて意識がないようだ。


「引き受ける!あれ、なんとかなるか?」


 男を抱きかかえるようにしながらコンタードが訊ねる。


「あんなの反則でしょう。炎の鎧なんて、危なくて近寄れないわ!」

「氷系の魔法も、あまりの効果がないですね。文字通り焼け石に水ですね」

「上手いこと言ったつもりかよ」


 ノヴロのドヤ顔に苛つきながらコンタードが叫ぶ。

 その声に合わせるように、ミリティストが刃を突き出したが、炎に阻まれ慌てて引っ込める。そして、今度はそこへ、氷の矢が飛んでくるが、これも鱗に到達する前に音を立てて消えていった。

 コンタードは羽交い締めにするように男を引き摺り岩陰に連れ込むと、再び岩陰から飛び出して、ドラゴンを見る。

 鎌首をもたげたドラゴンは鉤爪の付いた手をミリティストに振りながらこちらに顔向けて、大きく深呼吸をした。次の瞬間、炎の濁流がコンタードに向けて押し寄せてくる。

 ドラゴンのブレスだった。

 反射的に頭を抱えながら地面に伏せるとぎりぎりで頭上を通過していく。焦げ臭い匂いがして、髪の毛の先が少し縮れた。


「なんだよ!ほんとに反則だな!」


 悪態をつきながらもコンタードはいくつかの記憶を脳裏に呼び起こした。


「ノヴロ!おまえ魔法は他にも使えるのか?」

「氷の矢!……得手不得手はありますけど、大体どの属性も一通り。回復軽魔法もいけます。火傷でもしました?唾付けときます?」

「汚えな。おまえの唾なんかいらねえよ。土魔法は?」

「お任せを。得意ということはないですが、岩のひとつやふたつはどうにかして見せましょう」

「ドヤ顔辞めれば頼もしいんだがな」

「なにか、手が浮かんだの?」


 防戦一方のミリティストが期待した声を飛ばす。


「俺は剣も下手だし、魔法も使えないけどな。学生時代の専攻は生物学で、教わった教授は魔物の専門家だったんだ。思い出したよ、教授の授業を」

「頼むわよ」

「任せとけ」

「……頼まれるのは僕な気もしますが……」


 ノヴロの言葉を聞き流したコンタードは、ドラゴンを指さした。


「あいつはフラモドラコ。小型のドラゴンの一種だ」

「あれで小型?」

「ドラゴンにしては小さくて、火山やその洞窟を好むんだ。胸のあたりをよく見てくれ。小さな穴があるだろう?」


 目を凝らすと紅蓮の中に鱗の隙間があって、人のこぶしくらいの小さな穴が空いているのが見える。


「はい、ありました」

「あそこに岩を詰めちまえ」


 乾いた音が響き、再びミリティストの刃がドラゴンの爪を弾く。


「当てるんじゃなくて詰めるんですね。出でよ岩石!」


 大して芸のない呼び声と共に、尖った細長い岩が浮かぶ。


「いけ!」


 ノヴロの短い叫びと同時に、空中から突如姿を現した頭ぐらいの大きさの岩が勢いよくドラゴンに向かって飛んでいく。


「チャンスは短いぞ。炎が消えたら叩っ斬っちまえ」

「了解よ!」


 狙い澄ました岩の塊はぴったりとドラゴンの胸の穴に収まった。


「グォォォ!」


 咆哮と共にドラゴンの身体を包む炎が消える。さらに、息苦しそうに首を振り始めた。


「こいつは胸の穴から炎を噴出して、背中側の羽の付け根にある器官に吸い込んで炎を循環してるんだ。呼吸も兼ねているから塞いでやればこの通りさ」

「お見事!」


 氷の矢が数本突き刺さり、その合間を縫うように、一度間合いを取っていたミリティストが走り込む。右足でドラゴンの肩を踏み台にすると飛び上がり、首の付け根を狙って振りかぶった。そして、刃を立てたロングソードを叩きつけた。


「グァアァァァァァ!」


 大きなうなり声が上がり、首が切り落とされたドラゴンが崩れ落ちる。

 赤い血しぶきの代わりに炎が飛び散り、慌ててミリティストが逃げ出した。

 そこへ、取り囲むように冷気の波が押し包み、炎を押さえていく。冷気と熱気がぶつかり蒸気が立ちこめたが、すぐに視界が開けてくる。


「お疲れさん」


 コンタードがノヴロと拳を合わせ、ミリティストは二人に親指を立てて見せた。

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