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43 ランテルノの戦場 (後)

「グリザージ議員、どうぞ」


 議長が右手で老議員を指し示して発言を促す。

 グリサージは立ち上がると、見た目とは裏腹のしっかりした声で言った。


「そのような少人数の姑息な手段など用いずとも、騎士団に任せればよいではないか。百歩譲って仮に鍵とやらが必要だとして、その勇者とやらいう役人に予算をかけるよりも、騎士たちを派遣すれば済む話であろう」

「そうだ!」


 あちらこちらから同意の声が上がる。


「それに、彼の者たちには、公共の施設を損壊してしまったり、狩猟権を侵害したという話も聞き及んでおる。あげくにピッキング禁止法にも抵触したとも聞いたがな?」


 ランテルノは頭を掻いた。


「あ~、やっぱりご存じでしたか……耳がお早いですねえ……事実誤認かありますので訂正させていただくと、狩猟権について、すべては法改正後のお話ですので、改正前に民間の私有地で当該の行為があった事実はございません。ピッキング禁止法も現在、資格取得のための講習を受講予定ですし、現時点でピッキング行為の事実はありませんね。施設破損に関しましては事実ですが、報告書にあるとおり不可抗力ですし、和解や修理は軒並み終わっております」

「そのようなことを申して、どれだけの血税を使ったんだ?修繕や和解もタダではなかろう」

「もちろん。対価は払っておりますが、ほとんどは労働など、金銭以外で支払っておりますし、当該職員たちの業務から収益をあげるモデルも策定しました。現時点ではほぼ独立採算を成し遂げつつあります。資料の二十一ページです」


 ランテルノは身振り手振りを交えながら説明を続け、心の中では舌を出してみせた。

 虚実を織り交ぜて撹乱をする。

 嘘ではないが、完全な事実を並べているわけでもない。ぎりぎりのところだ。ランテルノは体勢を立て直しながら、反撃を始める。


「さきほど、騎士を投入するべきとご意見がございましたが、この仕事はきれい事だけでは済みません」


 ランテルノは、演台に用意されていたグラスの水に口を付ける。


「確かに、長い期間の訓練や修行に耐え、実力を持つ誇り高き騎士に出来ない仕事ではないでしょう。ですが、命と誇りをかける戦場とは無縁です。ただひたすら探索を続け、時にはギルドの意向を伺い、守るべき国民に頭を下げ、場合によっては法律のすれすれで後ろ指を指されかねない仕事もあるのです」


 ランテルノは朗々と歌い上げるように芝居がかった言葉を繋いだが、ここで言葉を切った。

 そして、ぐるりと周りを見廻すと、急ににやりと不敵な笑みを浮かべる。


「……そんな仕事を、名誉を重んじる騎士団にさせちゃいます?冒険者とかの方が適任じゃないですか?彼らを公務員に採用して扱き使う方が現実的じゃないかなあって……そう思ったんですけどねえ」


 ランテルノは腕組みをしながら、いつもの調子でひとりでうんうんと頷いて見せた。

 突然の変貌に、議員たちは唖然とし、幾人かは憤懣を現した。

 無視するようにランテルノは続ける。


「だから採用試験で勇者を採用したんですよねえ。予算も魔王対策予算の予備費からですから、一応、役所の裁量の範囲内なんですが……ダメですかねえ?」


 独り言のように、だが大声で呟いてみせるランテルノに対して、突然声が湧き起こった。


「ふははは、確かにそなたの言うことに一理はあるな」


 透き通る青い目をした若い男性だった。


「ブリニカ王子。発言は挙手をお願いします」

「おおすまぬ。議員の席を与えられたばかりで慣れぬのだ。不作法であった、許せ」


 議長の言葉に、ブリニカ王子は端正な顔に愉快そうな笑みを浮かべながら手を上げた。


「経験豊かな諸侯に若輩の我が身が恐縮であるが、どうであろう。譲れとは申さぬが、ここで結論を出さずとも、継続審議と言うことで少し様子を見られては?新たな予算の請求があったわけでもないのだから、急がずともよいでしょう?」


 議場が静まりかえる。少しの間があって、グリサージ老議員が硬い表情のまま渋々と言った感じて頷いた。


「感謝する。魔王対策室側もよいな」

「はっ。異存はございません」

「うむ……議長、出過ぎた真似をしました。ご容赦を」


 議長は大きく首を横に振ると、笑みを浮かべてから王子に一礼をし、さらに上座の国王に最敬礼を向けると、厳かに閉会を告げたのだった。

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