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42 ランテルノの戦場 (前)

 四方を机とソファで囲まれ、大理石で作られた議場は、白熱した議論に包まれていた。

 高い位置に作られた貴賓席に鎮座する国王の見守る中、ローブ姿や略装の騎士姿の議員達が、方形の議場の中心に向かって泡を飛ばすように言葉を連ねる。


「現在、ハノベでの戦線は膠着状態で、なおかつ国中は魔物に脅かされているのです!」

「だからこそ、騎士団が各地で戦っておるわけでしょう。東雲、茜の各騎士団がハノベの出口を押さえ、曙騎士団が各地の魔物を討伐に回っています」

「確かに。だが、それでは現状が続くだけなのでは?」

「それで、勇者とやらがなにか戦果を上げたのかね?」


 議員達が口々に意見を出し、それを中央の演台に着く赤いローブを着た議長が、周囲を見廻しながら必死に捌く。


「各々方のお話は分かります。勇者たちにこのまま任せてよいのか、あるいは彼らを引き上げさせ、騎士団へ依頼するのか。一度現状を再確認しましょう。対魔王担当大臣?」


 議長は両手を挙げて、議場を制するようにしながら高齢の白髪の男性に呼びかけた。男は重そうなローブを引き摺るように立ち上がると、片手を挙げて一言を発した。


「担当の行政官に説明させましょう」


 それまで寡黙を貫いたまま、議長のすぐ側の長机に席を与えられていた男が頭を掻きながらふらりと立ち上がると、一瞬議論が止まる。

 その隙を突くように男は言葉を繋いだ。


「ええ、担当行政官で魔王対策支援室長のランテルノです。みなさまにおかれましては大変ご機嫌麗しく、誠に喜ばしく……」

「能書きはいい。早く始めろ!」


 若い議員が逸る言葉を押さえながらヤジを飛ばした。


「失礼しました。どうにも大勢の前でお話しするのは苦手なもので……ええ、現状に関してご報告いたします」


 ランテルノはちらりと振り返ると、一番高い席にいるレグーノ八世の方に視線を送った。

 国王は軽く頷く。

 ランテルノは無言のまま頭を下げる。いつもの友人としての遣り取りをする二人の姿は無く、国王と臣民として臣従して返事をする。それでなくても、国王は立憲君主制に基づくその立場上、求められなければ発言はできないほどに、権限が限定されているのだ。

 キリリとした風に見えるランテルノだったが、正面を向いて、議会に集まる議員たちに向かって発声した途端、いつもの気怠さを纏った彼が戻ってくる。


「ええ、情報統制に関し、先だって発出されました文書に従い……細部詳細に関しましては端折らせていただきますが……ええと、ああ、これこれ……現状、該当職員……以下勇者と呼称いたしますが……彼らは陸灯台に向かって破竹の進撃を続けております」


 会場がどよめきと、ため息の入り交じった、中途半端な空気に包まれる。


「陸灯台へは、なんの目的で向かっているのだ?」


 先程の白髪の議員が訊ねる。

 ランテルノは落ち着いた様子で先を続ける。


「お手元の文書の三ページの上部にあります通り、湖の真ん中にある魔王の居城への移動を含めて、湖を渡るためには加護を受けた船が必要です。ところが船は封印されていて、この封印を解くためには鍵が必要とされています」

「それはおとぎ話じゃないのか?」

「いいえ。船の在処は目下全力を持って捜索中ですが、八十年前に、確かに存在した記録が残っております。話を戻しますと、その封印を解く鍵が陸灯台にあるとの情報を受けて、勇者が移動中ということなのです」


 ランテルノが話し終えると、白髪の老議員が再び手を上げた。

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