41 公道にて
陸灯台の真南には、軍が駐留するための砦があって、小規模ながら部隊と数名の騎士が駐留している。
陸灯台へ続く小道と、王国に縦横無尽に張り巡らされた街道の守備のためである。
警察の役目を兼ねてもいて、このハーロ砦には数名の文官も駐留しているし、宿泊のための施設も備えている。国の施設のため公務であれば遠慮無く使えるし、費用も安くてすむ利点があったため、今回の出張で宿泊した。
王国を東西に走る中央街道からは途中で逸れるため、馬車を乗り換えねばならないが、それは一回で済む。乗り換えの接続もいいようなので、今回は移動に関しては楽が出来るはずだった。
「結局、またなんか登ってないか?」
「いつもの事よね。身体が鍛えられていいんじゃないの?」
「今回は前向きですね」
「また……おまえは一人で魔法使って楽してんのな」
「そんなに楽でもないんですけど……」
いつもの会話が繰り広げられている。
それもそのはずで、三人の視界にはすでに随分前から陸灯台の威容が現れているが、それは小山の上にそびえていた。その小山へは中々に険しい道のりが続いている。
砦で一泊した後、一行は砦から陸灯台へ伸びる小道を進み始めたのだが、小道とは名ばかりの獣道も同然のありさまだった。しかも、道はやがて傾斜を始め、小山へ向かって登り始めたのだ。
草を刈ったり障害を排除して進むようなことはなかったが、歩き難い道ではあった。
おまけに小型の魔物や獣がうろうろしている。それらを駆除しながら進むのは一苦労だった。
「ほとんど私が狩ったんだけれど?」
ミリティストがさりげなく口を開いたのは、五回目の戦闘を終えたところであった。
「なにも言ってないだろ?」
「なんか心の声が聞こえた気がしたのよ」
「読心術ですか?ミリティストさん、随分高度な魔法が使えるようになったんですね」
「いや、違うだろ」
コンタードがノヴロに突っ込む。
ノヴロは頭を押さえながら唸った。
「ぽんぽん叩かないでくださいよ」
「うるさい」
コンタードは大兎を解体しながら、にべも無く言った。
すでにコンタードの荷物には魔物の皮や獣の肉などが括り付けられて、かなりの重量になっている。
「さて、どうしたものかな?」
「どうしたものとは?」
「このまま魔物に会い続けたんじゃ先に進めないな、と」
「確かにそうですね」
「あら、私はまだまだ余裕で戦えるわよ」
「僕もいけますよ?」
「そりゃ、そうだろうけどな」
コンタードは、ノヴロの頭を叩きながら言った。
「荷物が重い。それに解体の手間もくう」
「ほっといたらいいんじゃないですか?」
「……一応、公道だぞ。それも王国の街道じゃ無くて、貴族領の道路だ」
「それで?」
ミリティストが、長剣を拭いながら聞いた。
「公共道路使用法の道路維持協力義務違反……つまり公共の道路を汚したら罰金取られても文句は言えないってことだ。国の街道なら公務とでも何とでも言い抜けるんだけどな」
コンタードは大きくため息をついた。
「そうね。それじゃあ仕方ないわね。罰金なんて余裕ないし。今度から魔物に出会ったら逃げる?」
「そうもいかんだろ。貴族領とはいえ王国内で、しかも、この間、狩猟権の特例法まで作っちまったんだから」
「治安維持のためにも狩らないといけないわね」
ミリティストもため息をつく。
ため息が伝播して、彼らの気分を引き下げるようだったが、マイペースなノヴロが、突然言った。
「ええと、出会わなければいいんですかね?」
少し考えてからミリティストが答える。
「そりゃあ、まあ。本当は討伐するくらいで無いといけないんでしょうけれど」
「まあ、視界に入らないんなら仕方ないよな。魔物の討伐が目的ではないんだし。別の討伐をするんだけれど」
自嘲気味にコンタードが笑う。それに釣られて笑いながらノヴロが言った。
「魔物よけの魔法がありま……痛ったー」
「お前は……早く言えよ。毎度毎度」
「もう、叩かないでくださいってば。呪いますよ?」
「やれるもんなら、やって……」
「お止しなさいって」
ミリティストが呆れてから、少し強い声でとめる。
それからノヴロへ向かって言った。
「お安いんでしょうね?」
「そりゃあもちろん。これ以上経費をかけたら、クルベノさんの視線に耐えられませんもん」
ノヴロは思い出したように背筋を振るわせた。
「じゃあお願いね」
こうして懸案は一つ片付き、陸灯台はますます、その威容と存在感を大きくするのだった。




