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36 鍵の在処

「ようミリ!久しぶりだな」

「インテリコ!」


 夕暮れに染まる騎士団詰め所の交流室に姿を現したのは、白い背広とスラックスに身を固めた長身の男だった。年の頃は三十を半ばも過ぎたところだろうか。事務方の制服に身を固めているが、歴とした軍人で騎士資格も持つ男だった。

 ミリティストに手紙を送ってきた張本人でもある。

 交流室は事務所にそのまま併設され、軍の所属か騎士資格を持つものであれば、誰でも比較的簡単に入ることが出来る。

 詰め所の二階にあって、広い空間に何脚かのテーブルと椅子、ソファが置かれている。売店もあって簡単な軽食ならつまむことも可能だ。

 現にミリティストはカフォの入ったカップを片手に、ソファに腰をかけていた。

 そこへやってきたのが元同僚のインテリコだった。片手を挙げて挨拶をすると、ミリティストのすぐ横のソファに腰を下ろした。ちょうど彼女の右側に直角に交わるように置かれている。


「元気だったかしら?」

「ああ。おかげさまでな。デスクワークが多いと鈍るよ」

「わたしもそうだわ……奥様も元気?」

「もちろん。とはいっても忙しくはしてるけど」


 インテリコの妻はミリティストの友人でもあり、軍の事務方だった。


「魔物が増えてるみたいだし、軍関係はどこも忙しいでしょうね」


 ミリティストはカップを口へ運ぶ。


「情報部はどう?」

「忙しいさ。ハベノの戦は継続中に加えて、周辺国家の状況確認。飛び回ってるよ……そうだ、モーリスがよろしくってさ」


 先日、装備調達に協力してもらった曙騎士団のモーリスは共通の友人だった。さらにいえば、インテリコへ話を繋いでくれたのもモーリスだった。


「あれ?ここにいるんじゃなかったの?」

「急な出張でしばらく北の方へ行ってるよ。魔物の討伐らしい」

「なるほどね」

「それで、まあ、俺もあまりゆっくりは出来ないんでな。本題なんだが……」

「鍵の件ね」

「ああ、伝説の船の封印を解く七色の鍵の一つなんだが、どうやら東の国境近くにあるらしい。『高き塔の頂』っていうののひとつだな」

「高き塔……塔っていうと」

「ああ、国境近くの塔っていうと、陸灯台だろうな」


 レグーノ王国の東側、ハノベからみれば北東には大きな森林地帯がある。大きなといっても国単位で見るとそれほどではないが、かなりの面積の森林が広がっていて、そこは人ではなくエルフの国である。

 遙か昔、種族間でのいざこざがあった頃に、人間たちのてによって建てられた監視用の塔は、灯台を兼ねており、旅人の道しるべとなった。種族間の諍いも静まった今でも、陸灯台と呼ばれ目印となっている。

 どうやらそこに鍵があるというのが、インテリコの提供する情報だった。

 今はエルフと人間との間は友好的ですらある。国境沿いの、ましてや王国側の領土にある塔にあるのであれば僥倖といえるだろう。


「ありがとう。助かるわ」

「いやいや、いいんだよ。嫁さんの大事な友人でもあるんだ。機密を漏らすわけでもない」

「それでも、よ」


 ミリティストはカップをテーブルに置くと、深々と頭を下げた。


「よせよ。それにもう一つ話しておく。お前さんが情報提供してくれた昔の勇者の伝説も調べてみたんだが、尊き血ってのは厄介かも知れん」

「どうして?」

「世界を統べる神様のことじゃないかって言ってる学者がいる。なんだったら会って聞いてみるといい」


 そう言ってインテリコは、藁紙の小さな紙片を差し出した。

 戸惑いながらもミリティストは受け取って、折りたたまれた紙片を広げた。


「学者先生の連絡先だ」


 紙片には、王都内の住所が書かれていた。どちらかといえば郊外の住所だ。


「それから、もう一つだけ忠告だ」

「なに?」

「議会には気をつけろよ。陛下の足を引っ張ろうって輩はゴマンといるからな」

「わかったわ、ありがとう」


 ミリティストはそう言って、さきほど受け取った紙片を畳み、持っていた背嚢に仕舞い込んだ。そして、代わりに背嚢から包みを取り出す。


「なんだ。それ?」


 不思議そうにしながらインテリコが訊ねる。ミリティストはお茶目に片目を瞑って見せて、包みを丁寧に開いてみせた。

 いくつかの段に分かれて目盛りの刻まれた、可動式の物差しのようなものが姿を現す。


「計算尺?」

「ええ、そうよ。うちの部署の敏腕会計官の御用達の計算尺よ。使いやすいんですって」


 ミリティストはそう言って再び包み始める。


「奥様へのプレゼント。機会があったら渡そうと思って、用意してたのよ」

「それは……ありがとう。喜ぶと思うよ」

「だとすれば、わたしも嬉しいわ」


 ミリティストはにっこりと微笑んだ。

 インテリコも微笑みを返しながら、ゆっくりと立ち上がった。ミリティストから計算尺の包みを受け取る。


「さて、仕事が立て込んでるから行くよ。ミリ、身体には気をつけろよ」

「あなたもね。今度はゆっくり話を聞かせて」

「ああ、今度は仕事以外で会えるといいな。たまには遊びに来い。うちのも喜ぶ」

「そうさせてもらうわ」


 ミリティストも立ち上がると右手を挙げた。

 インテリコも手を上げ返し、二人は別れた。

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