35 ギルドの地下で
「あんたたちにかい?」
「ん?……あ、いやいや別の者です」
コンタードが慌てて手を横に振る。
セラーロは怪訝そうな顔を見せた。
「お聞き及びかと思いますが、先だって魔王討伐のために、選ばれし勇者が三名旅立ちました。その勇者たちが道中で夜盗の鍵を手に入れまして……」
「ああ、あれかい。確か山賊どもに盗まれて、その山賊も捕縛されたが見つからなかったっていう……確かどこぞの塔をねぐらにしていたと聞いたから、そこででも見つかったかい?」
「ご慧眼です」
「ふん。世辞はいいさ。確かに、あれを使うなら鍵師の資格がないと違法だね」
コンタードは頷いた。
セラーロは愉快そうに笑うと、真顔になって考え始めた。
「確か魔王対策支援室って言ったね」
「ええ、我々の所属ですね」
「ふむ……我々も国と喧嘩をする気は毛頭ないし、構わないが、無料って言うわけにはいかないよ?」
「う……も、もちろん料金はお支払いいたします」
詰まったコンタードを見て、再びセラーロは笑う。少し意地悪そうに、愉快げに笑みをこぼすと肩を竦めた。
「金がなさそうだね」
「そうですね。会計の担当者からは、いつも予算がないって言われてますよ」
ノヴロがあっさりと言った。
コンタードが驚いたようにノヴロに目線を送るが、ノヴロは何処吹く風といったように続けた。
「お金支払わないと無理ですかねえ」
「はははは、正直な子は好きだが、長生きできるのかねえ。あたしは心配になっちまうよ」
「す、すみません」
コンタードが頭を下げる。しかし、セラーロは気分を害したふうではなく、そのまま続けた。
「まあ、ちょうどよかったよ?渡りに船というやつだ。あたしも正直にいこうかね」
「はい?」
「……とりあえず、さっきの依頼は受けよう。お金はいらない」
「いいんですか?」
「ああ、ただし、無料ではない。お金の代わりに頼み事をしたいんだがね」
「……頼み事ですか?」
コンタードは嫌な予感がして、思わずノヴロと顔を見合わせる。ノヴロは変わらずのほほんとしているが、むしろコンタードのほうが困った顔をした。
どうも、最近はこのパターンが多いような気がしている。ミリティストの言葉ではないが、これは勇者の仕事ではないだろうか?という思いが脳裏をよぎる。
これでは、勇者のために策定した法律の内容と同じであろう。先日の石工ギルドの一件といい、何の因果かと思う。
「わかりました。とりあえずお話を伺いましょう」
「他言は無用だよ」
「我々公務員は、採用時に守秘義務に対して宣誓をしていますから、ご心配なく」
セラーロは納得した様子を見せると、ポケットの中からベルを取り出して、それを鳴らした。
「承知の通り、盗賊ギルドはあくまで技能に対するギルドだ。鍵師であったり隠密行動であったり、宝探しであったり。まあ、レンジャーギルドと言ってもいいのかもしれないんがね。使い方によっては非常に非道徳的に陥りやすい技能だから、当然、悪用されないように管理するのもギルドの仕事になる」
セラーロが話しているところで、お盆にカップとポットを乗せた若い男性が入ってきた。コンタードは、彼らはどこを通ってきたんだろうと訝しげに見つめるが、男性は気にする様子もなく、テーブルにカップを並べ、ティーポットから紅の透明な液体を注ぐ。
それから美しく一礼をすると、そのまま先程の入口から退出していった。
「だから、当然その掟を犯したものは処罰の対象だ。処分を受ける」
「といいますと?」
「場合にもよるが、重ければ死が待っている。だが、ギルドに所属している者は商売として鍵を扱うものが多い。だが、そうではない者も少なくはない。端的に言えば冒険者だね」
そこでセラーロは、カップを手に取り口を付けた。
「当然そうなれば、我々のギルドにも冒険者に脅威を与えるだけの力を持った人材が必要になるわけだ」
「その役目を我々に?」
「まさか」
勢い込んだコンタードをいなすように、セラーロは鼻を鳴らして笑った。
「そもそも、そういった処分は今に始まったことじゃないし、だいたい公務員であるあんたたちに、その役目は不可能だろう?どう優しく見積もっても非合法もいいところだ。よく言ったってグレーさね」
「そりゃそうですよね」
ノヴロが頷いた。
「では?どういう話でしょう?」
「その人材はもういるのさ。いや、正確に言えばいた、だね。そいつが裏切って逃げた。その追跡捕縛、もしくは処分を頼みたい」
「それも十分非合法でしょう?」
「一回だけの話さね」
「ああ、確かに違いますよね」
「呑気だな、お前は」
呆れたようにコンタードが言う。
「まあ、心配はするな。やつの罪状は山ほど掴んでる。うちと関係ないものだけれどな。建前としてはそれで成り立つさ。あんたたちに傷はつかない」
「……冒険者ギルドに頼んだらどうです?」
コンタードは追い詰められていくような、嫌な感じを受けながら答える。
「そりゃあ無理だね。うちと冒険者ギルドは持ちつ持たれつだが、対等な関係さ。うちの内部の、それも弱点をさらすわけにはいかないし、うちのギルド内だと面が割れてる可能性が高いからね」
「なるほど……居場所は?」
「ある程度は絞り込めてる。王都にいるのは間違いない」
コンタードは思案しながらお茶で喉を潤したが、それでも、事は簡単では無いだろう。
「お話は伺いました。私も上司と相談させてください。まあ、多分、ノリノリでやるように言われるでしょうけど……今、空手形をきるのもマズいでしょうから」
コンタードは苦笑いをしながら言った。
「そうだね。まあ、幸い時間には余裕が少しだけある。ゆっくりでいいから頼むさ」
「それでは、お話は伺いましたので……できれば早めに鍵師の件はよろしくお願いします。勇者たちはモントゥーの北東に向かってます」
「カンツの街だね、わかった……すまないね。恩にきるよ」
「いえいえ……それより一つお訊ねなんですが……」
「なんだい?」
セラーロが眉をひそめたが、コンタードは笑顔を浮かべていった。
「普通の出口もきちんとあるんですよね?」




