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32 クルベノの仕事

 本来の自分たちの案件が動き出し始め、気合いの入った対策支援室だったが、とはいえ、日常業務や雑用は、いつものように突然訪れる。

 ミリティストが部屋を出て行ってすぐに、報告書に目を通していたユーロが声を上げた。


「あー、こらあきませんね。とりあえず、すぐに連絡を入れないと」


 ユーロは回覧用のスタンプに自分のサインを入れると、羊皮紙を真向かいの席のコンタードに手渡した。コンタードはすぐに羊皮紙を広げ中身に目を通し始める。


「どうしたんですか?」


 きょとんとした顔でノヴロが訊ねた。


「勇者たちが夜盗の鍵を手に入れはったそうです」

「夜盗の鍵……ですか?」

「……ああ、モントゥーの街の東の街から、さらに北東にある塔で入手したそうだ。こいつがあれば、簡単な造りの鍵は開錠できてしまうらしい」


 報告書を読みながら、コンタードが補足する。


「……ピッキングの道具みたいですね……」


 ノヴロがポツリと呟いた。それから、少し思案した後に続ける。


「で、なにがマズいんですか?」

「勝手に開けたら、まずいんで」

「なんでです?」


 普通に考えれば、ユーロのいうマズいは常識的な回答である。ところが、先だって、法律の策定により国民には勇者たちへの協力が要請されている。事後承諾でも特に問題は無く、仮に家の鍵を開錠したとしても、勇者たちが必要な行為だったとなれば、対価を払うことで問題は無いはずだった。

 ノヴロはそれを言ったのだが、ユーロは首を横に振って言った。


「いやいや、開錠そのものがマズいんですよ」

「そうそう、勇者たちは無資格者だからな」

「無資格……ですか」

「ピッキング禁止法って法律がありますねん。正規の鍵以外の道具を使って開錠するには鍵師の資格が必要です……あ、魔法は対象外ですねん、心配せんといてください」

「それは、まあ、よかったですけど……鍵師?……それってどこで取れるんですか?」


 ノヴロがもっともな疑問を呈する。


「んー王立鍵屋協会……なんてものはないな……」


 コンタードが少し困ったように腕組みをして考える。


「ああ、それやったら盗賊ギルドですわ」


 ユーロが言った。ノヴロが意表を突かれたように驚く。


「盗賊って……あの盗賊ですか?」

「ええ、そうです。ただ、盗賊ギルドというのは、冒険者における盗賊的スキルを持った者たちのギルド、という意味合いであって、ほんまの盗賊がいるわけちゃいます」

「だいたい本当の盗賊だったら違法行為だろ。反社会的な集まりになっちまう」

「それは……そうですね」


 ノヴロは少しためらった後、納得したように呟いた。


「簡単に言っちゃうと、スパイの真似事だよね。鍵開けたり、隠密行動で情報を収集したり……結構、違法行為スレスレのこともあるかな?」


 珍しく自席の机上で集中して書類を処理していたランテルノが、沈黙を破って口を開いた。


「まあ、確かに違法紛いなこともしますから、健全な鍵業者ばかりってこともないですけど」


 コンタードが頷きながら答えた。


「それじゃあコンタード君、盗賊ギルドに手配して講師を派遣してもらうか、どこかで講義をしてもらえるように段取りしてくれるかな?」

「はい。わかりました」

「ノヴロ君も手伝ってあげて……ユーロさんはこないだの件の改訂法の草案をお願いしますね」


 ランテルノが珍しくきびきびと指図を飛ばした。


「さてとクルベノ君、資金の方はどうかな?目処はつきそうかな?」

「……大体は……あとは上手く選定するだけです」


 ランテルノがクルベノに訊ねると、彼女はぼそぼそと小声で答えた。


「なにか、また悪巧みしてはります?」


 目ざといユーロが質問すると、ランテルノはにやりと笑みをこぼした。


「まあね。最初の別室の立ち上げの時に、預かり金として結構な額を別室予算として頂戴したんだけれど、すぐに使う予定がなかったんだよね」

「そんなお金があったんですか?僕らの給料に反映もしていない?」


 コンタードがため息交じりに心の内を吐き出してしまう。


「そりゃ給料を払うのは人事課とか会計課とかだもの。別室の予算は関係ないでしょ?」

「そのとおりですが……予算が無いって言ってたじゃないですか!?」


 コンタードがなおも諦めきれないように、悲痛の声を上げる。


「そりゃ、別室の一ヶ月に割り当てた予算はなかったよ?これは虎の子のお金だもの。通常予算とは別です」

「そんな……」

「クルベノ君は優秀な会計官であると同時に、経済政策室にいたこともあるから、お金の動きや流れには強いんだよ」

「はあ……」


 話を飲み込めていないノヴロが、気のない相槌を打った。


「あんまり大きな声で言えないから内緒なんだけれど……」


 ランテルノは、少し声を絞ってから言った。


「彼女は投資家の才能があるんだよね」

「投資……ですか?」


 いつものように計算尺を片手に書類を処理しているクルベノを横目で見ながら、コンタードが驚いたように聞いた。


「そう。彼女の実績は結構すごいんだよ。王都内にはたくさんの商店やお店があるけど、その中から将来有望そうなお店に資金を融通して、軌道に乗ったら返してもらう。これだね」

「いや、室長はん、それ……」

「国のお金だからねえ……個人が取れば横領だけれど、魔王対策になるだろう武器防具店や工房を中心に将来に対して投資してるし、ちゃんと別室のお金として管理はしてるから」


 眉をひそめるユーロに対して、ランテルノが先んじて口を開いた。


「いや……それ結構グレーですよね」


 コンタードが呆れたように言った。


「そうだね。でもクロではないよね」


 ランテルノが不敵な笑みを浮かべる。


「第一次は上手くいったし、そろそろ、二回目の投資を考えてるところ」

「悪いお人ですなぁ……それで、クルベノはんが一人早く異動やったんですな」

「そりゃ、なにをするにしても予算がないとね」


 ランテルノが満面の笑みで言った。コンタードもユーロも少し引いていたが、少し乗り遅れたように思案していたノヴロが、ようやく事態を飲み込んだらしく手を打っていった。

「じゃあ、この先は予算は気にしなくていいんで……」

「……お金はありませんよ。あれと、これとは別です……」


 ノヴロの呑気さと、コンタードのはかない希望は、クルベノのいつもの調子の一言で撃沈した。

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