31 情報
「室長。日報が来てますよ」
ノヴロが宛先が別室となっているのを確認し、ランテルノに差し出す。差出人を見てみると、勇者に同行している本室の職員になっている。
毎日届く勇者の行動報告書のようだった。
「はいはい。あとで起案して回覧するからね」
ランテルノはソファに座ったまま振り返り、手を伸ばして机の上のペン立てからペーパーナイフを取り出すと、鼻歌交じりに封を切った。それから、同じく机上の決済用のスタンプと回覧用のスタンプを紙の上に押した。
「あと、これは……ミリティストさん宛てですね。なんか来てますよ?」
差出人はなく、書状も封筒ではなく羊皮紙を巻いて合わせ目を封蝋で封緘したものだった。
「ありがとう……」
ミリティストはノヴロから受け取って封緘を確認すると、一瞬手が止まった。
「どうした?」
「んん……」
うなりながら今度は素早く手が動き始め、封緘を剥ぎ取って巻物状になった羊皮紙を広げる。コンタードはソファの席を立ち、少し呆気にとられながら自分の席に向かった。
少しの間、ランテルノとミリティストの二人が羊皮紙に目を落とし黙り込んでいたが、やがて二人が顔を上げた。
「ユーロさん、ちょっと引っかかるんで、コンタード君とこれの内容を精査してもらえます?」
ランテルノはそう言って、丸めた報告書をユーロの席の方に投げた。くるくると宙を舞った報告書は、綺麗な放物線を描いてユーロの両手の中に収まった。
「はいはい。先に失礼ますよ。読ましてもらいます」
「あ……それとミリ君は……なにかあったかな?」
ランテルノはミリティストに手招きをすると、先程までコンタードが座っていた自分の向かいのソファを指した。
ミリティストは思案顔のまま、素直にソファに腰を下ろすと、ランテルノに羊皮紙を差し出した。
「いいの?」
「ええ、軍の元同僚からです。今は管理部で情報分析の仕事をしてます」
「ふうん」
ランテルノは少しの気のない返事をしながら、羊皮紙に目を走らしていたが、すぐに表情が改まった。
「……んー、これは?」
「ええ、詳細は直接とありますが……実は先日、情報提供の依頼をしていたんです。機密に触れない程度でいいからと、そうお願いして」
「うんうん、いいね。鍵のありかになにかヒントが見つかったって事だよね」
ランテルノは明るい声でそう言った。コンタードやノヴロ達もソファのミリティストに視線を向ける。
「ええ、たぶん。行ってきていいですか?」
「もちろん。本来、軍の情報関係と会うというのは微妙なところだけれど、報告してくれたことだし、こちらも業務命令ということにしておくから、堂々と行ってらっしゃい」
「ありがとうございます」
「手紙だと相手もそのへんきちんとしておいて欲しいみたいだしね」
「部内での信用が落ちたら、仕事になりませんから」
「うんうん」
ランテルノは笑顔で頷いた。
ミリティストは立ち上がり自席に戻ると、椅子にかけたマントを取ると革製の軽鎧の上から羽織り、荷物をまとめる。
鍵の在処というのは、今の対策支援室にとっては大きな情報である。勇者たちの出立前のミーティングで打ち出した彼らの旅の大きな指針が、湖を渡る船の封印を解くことだ。そのために集めなければならない鍵の情報次第で行き先は旅の方針が決まるのである。
現在は細々とした雑用や所用に追われている対策支援室の面々だが、早い段階で本腰を入れて対応する予定の事案が、ミリティストの影ながらの行動で動き始めるわけで、ランテルノの機嫌もよくなるのは当然だった。
もちろん他の職員たちも気合いが入ってくる。
室内は凜とした雰囲気に包まれた。
「頼むぜ」
コンタードが声をかけた。ミリティストは左手を挙げてから微笑むと、そのまま事務室を出て行った。




