30 ランテルノの仕事
ミリティストが二人の男女を連れて帰った翌日、コンタードも無事帰還した。
日帰り出張の予定が大幅に狂ったため宿泊となり、恐縮しながらクルベノに領収証の精算を依頼する。それから、コンタードはソファに座り、向かいの席のランテルノに復命を始めた。ランテルノは相変わらずソファでカフォを飲んでいる。
「……というわけで、ひとまずストノ商会の商品供給は再開しました。近日中に修繕が完了します」
「うんうん、お疲れさま」
「……それと、特産品の件ですが、食品に関しては肉料理が特産のようで、猪肉の姿焼きが特に人気のようです。物産に関しては石材を産出する山が近いのですが、鉄鉱石も産出するようで、武器防具が盛んに作られてますね。街の方では毛織物にも力をいれているようですが」
「なるほどね……ん……」
ランテルノはカップを置くと、突然顎に手をやって首を捻り始めた。
「……コンタード君、さっきの話だと、石切場で遭遇したのはダイモーンだったよね?」
「ええ、そうですね。間違いないと思いますが」
「ふうん。あの辺りって人型の魔物が出るって報告あったっけ?」
「さあ?さすがに生息地までは押さえてませんが……そういえば、そうですね。あの辺りだと岩に擬態するゴーレム種とか獣系の魔物くらいしか聞いたことがないような?」
コンタードも首を傾げた。ランテルノは視線を斜め上に泳がせてから、少し考え込んだ。
「ミリ君!」
「はい!?」
弾かれたようにミリティストが答える。
「軍の魔物の討伐記録って……」
「ここにあります。魔物のデータは念のために取り寄せました」
「さすがだねえ……討伐記録に出てくる魔物は?」
ミリティストが自分の席に座ったまま手早く、藁紙で作られた資料の束を繰っていく。
「ああ、たしかにダイモーンの討伐記録はありませんね。獣系の魔物とかゴーレムはありますけど……」
「だよねえ。僕も記録読んでるけど記憶がないんだよねえ」
ランテルノは空のカップをテーブルに戻した。
「ん……ああ……いいのか。わかったよ。コンタード君もお疲れさま。あとは通常業務をよろしくね」
ランテルノは少しだけ釈然としない様子だったが、すぐになにやら納得したように頷いて言った。
と、ドアをノックする音がして、扉が音を立てて開いた。
「お疲れさまです。伝書便です」
「はいはい」
入口に近い席にいたノヴロが立ち上がる。
ノヴロは伝書を持ってきたメッセンジャーの後ろに、人影があるのに気が付く。なにやら見覚えのある男性のようだった。
「あれ?スサさん?」
ノヴロが少し驚いた声を上げる。
顔なじみのメッセンジャーの後ろにいたのは、昨日、石切場で出会った男性のスサだった。
「その節はお世話になりました」
スサは丁寧に頭を下げて言った。
「おお、頑張ってるね」
コンタードの背後から声をかけたのはランテルノだった。
「はい。ご迷惑にならないように頑張ります」
「室長?」
ミリティストが訝しそうに声を上げた。
「昨日言ったじゃない、任せなさいって」
「はい、ご紹介で王宮府の逓信部に仕事をいただきました」
ランテルノが答え、スサもミリティストに言った。
「まあ、正規職員じゃないけどね。真面目にやればいいことはあるよ」
「はい。ほんとうにありがとうございます」
「また、おいで。いろいろ話をしよう」
「はい!」
スサが頭を下げる。
ノヴロはその遣り取りを聴きながら、律儀に待ってくれているメッセンジャーから郵便を二通受け取った。メッセンジャーもスサの採用の経緯ぐらいは聞いているようだ。
「サインは?」
「重要信書扱いではありませんので、結構ですよ」
「ん、ありがとう……スサさん。頑張ってね」
「皆さんも」
メッセンジャーとスサの二人は頭を下げると、退出して仕事に戻っていった。
「室長。本当になんとかしたんですね」
「部内の雑用だけど、ちょうど空きがあったからね。任せろっていったじゃない。信用ないんだなあ……」
「失礼しました」
ミリティストは素直に頭を下げた。
「……室長も仕事することあるんですね……嵐が来るかな?」
「……コンタード君?」
ランテルノが目を細めた作り笑顔でコンタードを見つめる。コンタードは苦笑いを浮かべ、肩を竦めた。
ノヴロはその遣り取りを眺めながら、持っていた封筒の宛名を確認した。




