25 採石場 到着
「また、山登り?どうしてこうなったのかしら?」
目の前にそびえる岩山を見上げたミリティストは、呆れたように言った。
「ああ……弁解の余地もありません、はい」
コンタードがうなだれる。
「まあ、いいじゃないですか。何か面白い予感がします」
「あのねえ……」
ミリティストは肩を竦めてみせた。
「ええと……あの、そろそろよろしいですか?」
「あ、はい、どうぞ」
コンタードが弾かれたように顔を上げて、三人の前を歩く逞しい男性に言った。男は灰色のつなぎに長靴を履いて、肩にはツルハシを担いでいる。
「それで、先ほど石工ギルドで伺った採石場というのがこの上なんですね」
「そうです」
その男性、石材を扱う職人のマエスノが頷いた。
「最近、この採石場に何者かが棲み着いたという話は、石工ギルドの親方……ギルド長から聞かれたとおりですが……」
「ええ、確かに伺いました」
今度はミリティテストが頷く。
「そいつに何人かの職人がケガをさせられまして」
「どんな?」
「そうですね、いろいろありますが、多いのは刀創です。あとは火傷とかです」
「ん?刀創に火傷ですか?魔物なのか?」
コンタードが記憶を手繰るように呟いた。
「そんな魔物いたかなあ」
「普通に考えたら人間……そうね盗賊の類いとかじゃないかしら」
「じゃあ、火傷は魔法ですか?」
「わくわくした目で見んな、魔法マニア」
コンタードがいつものようにノヴロを軽く叩いた。
「それで、誰も近づけなくなってしまいました。正直なところ、この街で扱われる石材のほとんどはここから出てますから、困ってまして」
そうなのだ。国土局で好条件?を持ちかけられたコンタードたちはその足で、街の中心に近いところに建てられた、ギルドの集まった建物へ向かった。
石工だけでなく商人ギルドや冒険者ギルド、魔法ギルドや盗賊ギルドなどが共同で利用する集合オフィスは、それぞれの趣味が反映され、わりとカオスだった。
ソセオの話と簡単なメモだけを頼りに、数あるギルドの事務所をさまよい歩き、ようやく辿り着いたのは建物の入口から割とすぐ近く、入り組んだ通路の途中の隠し扉のような入口と、あらゆる石材で内装を施された事務室だった。
そして、そこにいた石工ギルド長から頼まれたのが、なにかが棲み着き、入れなくなった採石場の探索と原因究明および問題解決だったのだ。なんでも、ギルドに依頼を発注するところだったらしいが、費用が掛からないならそれに越したことはない、という発想でコンタード達が依頼されてしまった。
というわけで、コンタード達はギルド長直々の指名により、彼の弟子だというマエスノと連れだってモンティノ山の麓までやってきたのだが、登り始めた山の険しさに辟易していた。
「この間みたいに暑くないからまだいいけど、そうはいってもこれは登るのが大変ね」
ミリティストの言葉に大きく頷いたコンタードだったが、ノヴロをちらりと見てから嘆くように言う。
「おまえ、ひょっとしてまた何か魔法使ってる?」
よく見ると、ノヴロの足は若干宙に浮き、足自体も動いてはなかった。彼は得意そうに胸を張って言った。
「魔法ならお任せ……あいたっ!」
「お前一人でまた楽しやがったな」
コンタードの平手がノヴロの頭を容赦なく襲う。
「してませんよ。結構消費魔力がデカくて苦労してるんですから」
「関係ねえよ」
「痛いなあもう」
「いいから全員浮かせろよ」
「無理ですよ」
ノヴロは頭をさすりながら答えた。
「魔力の消費が激しい割に、力は弱いんですよ」
「なんだ、意外とあてにならないんだな」
「……怒りますよ?」
ほとんど木の生えていない岩山である。よじ登るほどではないにせよ、かろうじて平らと判別できる細い道を、壁に手を当てながら進んで行く。
さすがに通い慣れているのかマエスノは苦もなく飄々と進んで行く。
「さすがに歩くのが早いですね」
体力には自信のあるミリティストが、マエスノに言った。
「そうですね。ただ、私は父方の祖父がドワーフでして、こういう場所に来ると元気になるんです。平衡感覚もよくなりますし」
「へぇ、珍しいですね。ハーフ……いやクォーターって」
「よく言われますよ」
大陸の国家のほとんどは人間が中心だが、それ以外の種族も暮らしている。また、そういった種族の国や街もある。主なところでは森を好み静かに暮らす狩人とも呼ばれるエルフや鉱山に住むことが多く、鍛冶や冶金に秀でたドワーフたちだ。
実際、王国にも多くのエルフやドワーフが住んでいて、同じ公務の職に就いているものも割と多い。
しばらく山肌に沿ってぐるぐると回るように進んで行くと、突然広場のような所に出た。
山の中腹にあって、元は他と同じような崖だったところが、石が切り出され今のようになったらしい。絶壁が後退して出来た広場は、今も新しい石材が切り出されているはずだったが、人の気配はなく、あるのは小屋と設備だけだった。
「着きました。気をつけてください」
「そりゃ気をつけますけどね。俺はただの文官だぜ」
「はいはい、いつもの泣き言はいいから」
ミリティストが子供をあやすように言い、コンタードはふて腐れた。




