24 謝罪と取引
モントゥー市の街に入ったコンタード達は、役所の出張所に馬車を預けると、そのまま同じ建物に隣接する国土局のモントゥー出張所へ向かった。
市民用の受付カウンターの前を通り過ぎて、奥にある来客者用の受付へ声を掛ける。
「お世話になります。王都の魔王対策支援室のコンタードと申しますが、中央街道のご担当者様はお手すきですか?」
流れるように口上を述べるコンタードに、受付の席に座っていた女性が笑顔を浮かべる。
「いらっしゃいませ。担当でしたら在席しております。ご案内します」
ミリティストと変わらないくらいの年齢だろうか。青いシックなワンピースの裾をはためかせながらカウンターを離れると、コンタード達のいるロビー側へ出てきた。
それからさらに奥側にある木製の扉を開き、身体で扉を支えたまま右手を部屋の中に差し出した。
「どうぞ。ただいまお呼びいたしますので」
「ご丁寧に、ありがとうございます」
コンタードが言い、ミリティストとノヴロも頭を下げた。
部屋の中はそれほど広くはなかったが、大きめのソファに小さなテーブルがあって、三人はコンタードを真ん中にして、ソファに腰を掛けた。
「結構いいもの使ってますね」
入口の脇にあった花瓶を指して、ノヴロが言った。部屋には調度品らしいものは少なく、唯一と言ってもよいものだ。
「分かるの?」
「父親がこういうの好きだったんです。商人でしたし、結構な目利きでして」
「ふーん。シンプルにひとつか……」
コンタードが呟く。
突然扉がノックされ、ガチャリと音を立てて開いた。姿を現したのは、コンタードとそう歳の変わらないワイシャツ姿の文官らしい男性と、年配の女性だった。コンタード達は立ち上がった。
「わざわざご来庁ありがとうございます」
年配の女性が言った。ローブの胸に提げられた職員証には『国土局街道部中央街道課長プラパスト・ボージョ』とあった。
「先日担当が変わりまして、こちらが維持管理担当の担当者、ソセオです」
男性が頭を下げ名刺を差し出す。コンタードが受け取ると、他の二人へも名刺が差し出される。コンタードは自分の名刺を取り出し渡した。ノヴロとミリティストもそれに倣う。
「ソセオと申します。今回の修繕を担当いたします」
「恐れ入ります王国府外交部魔王対策室別室の文官でコンタードと申します。こちら二人も同じ所属で、武官のミリティストと文官のノヴロです。このたびもいろいろとご迷惑をおかけしまして……」
コンタードが口上を述べると、プラパストは隣のソセオの方を盗み見てから言った。
「いえいえ、それはお互い様ですよ。あなた方が壊して回ったわけでもないですし」
「そう言っていただけますと……」
「それで、申し訳ございませんが予定が入っておりまして、私はここで。今日はご挨拶だけということで、あとはソセオとお願いいたします」
「かしこまりました。お忙しいところに、突然にご訪問いたしまして、申し訳ありません。ありがとうございました」
プラパストは席を温める暇もなく、そのまま出て行った。
「さて、それで中央街道の損傷の件ですが……」
ソセオが切り出し、コンタードが答える。
「本当にご迷惑をおかけして申し訳ありません。勇者たちには文書を出しておりますので、再発防止に努めます」
「そうですね。そちらはお願いします。破損自体は結構広範囲なんですが、運がよかったというか、敷石が破損しただけで道路自体は使えています」
「そうですか」
一瞬コンタードが安堵の息を漏らす。ソセオも優しく微笑んだ。そして、少しすまなさそうに続けた。
「ただ、荷馬車など大きい車両の往来に少しだけ影響が出てます。今のところ、大事にはなっていませんし大丈夫とは思いますが、仮に損害に関する申告があった場合は……」
「もちろん、こちらで対応します」
「お願いします。それと、修繕の件ですが……」
「はい、実務的にはお願いするようになると思うんですが、予算に関しましては、通常の事故等による破損時と同じ割合で負担をさせていただけたらと……」
「ええ、そう思ってすでに見積もりを依頼しているんですが……ちょっと困ったことになりまして……」
ソセオが少し目をそらし、考える風にした。コンタードが訝しげに眉を寄せ、ミリティストとノヴロと視線を合わせた。
「どういうことでしょう?」
ミリティストが口を挟んだ。
「実は街道の補修で付き合いのある業者に概算見積もりを依頼したんですが、見積もりが出せないという回答だったんです」
「どうしてです?」
「業者が言うにはですね、この街の石材の需要のほとんどは石工ギルドを通して、ストノ商会というところが担っているんですが、石材の在庫がないらしいんですよ」
「ないんですか?」
「らしいんです。現時点で受注したものに関しては確保できてるようですが、新規が受けられないとか」
「それは国土局も困るでしょう?」
「ええ、まあ……ただ、うちは先だって定期的な大規模補修は終わりましたし、最悪、王都なりの余所から回してもらえますからなんとか……ただ、地元の業者はそうはいかないようで……」
「でも、今回のうちの修理も……」
「基本的に住民やなんかの事故による損傷の修繕は、損害賠償の絡みもあって予算を掛けられないんです。勝手に住民の負担を増やすわけにはいきません。余所から取り寄せるとコストがすごいことになります。そちらの予算の都合がよろしければ、手配しますが……」
「……懐具合は少々……」
コンタードが目を伏せて、自分の胸のあたりを触りながら答えた。ソセオは苦笑いを浮かべる。
「時期が時期です。収税前の今、どこも予算は使い切ってる頃合いですよね」
「ご賢察、痛み入ります」
「というわけで、修繕に関しては目処が立ってないんですが、先程申し上げたとおり、物流に影響が出ないように少々急ぐ理由もあります」
ソセオがため息をついた。
「……一応聞いてみるんだけれど、魔法でなんとかならないものかしら?」
ミリティストがノヴロに訊ねたが、ノヴロは首を横に振った。
「そりゃ、石や岩なら簡単に作り出せますけど、品質がダメですね。戦闘用の使い捨てです。建築用の道具の代わりならいくらか思いつきますけど、材料をどうにかっていうのは寡聞にして知りません」
「そう……」
コンタードはため息をついて顔を上げた。
「しかし、なんで石材の在庫がないんでしょうね?」
「それを調べようとしている所なんですが、今は立て込んでいてなかなか手が回らないんですよ……そうだ、管轄外なのは承知していますが、お手伝いいただけませんか?」
「はい?」
「石工ギルドか、ストノ商会に話を聞いて持てもらえませんか?」
「はあ……」
「お願いしますよ。修繕費の負担をなんとか減らすようにしてみますから」
ソセオが微笑む。
これには、ミリティストが慌てた。
「ちょっと、コンタード、気をつけ……」
「はい」
コンタードは禁断の一言に、思わず頷いていた。




