23 根回し密談(後)
「……君は相手を苛つかせるのが上手だな。そこまで話してその言いぐさは何だね。早く話したまえ」
「そうだ。俺も忙しいんだ。とりあえず聞くから話せ」
「いやいや、そうですか?じゃあ、まあ、遠慮なく」
ランテルノひとりがテンポを崩している。
「これからする話は、今日ここでご同意を得られれば本格的に動かす話なので、詳細は決まっていません。ただ、魔物に関してのみで結構ですので、狩猟権と土地への侵入を冒険者に許していただければ、討伐した魔物を買い取るルートを作ります」
「……どういうことだ?」
「魔物は素材として金になりませんかね、という話です」
ランテルノは再び間を取るようにグラスを握る。
「現状は動物も魔物も、食べる分と害獣駆除の分だけしか狩りませんよね。けど、武器防具、生活用品から食材としてまで、魔物はその多様性のせいで素材としても多様な価値があるんじゃないか、と踏んでます。実際、素材として活用されている例は数多ありますから。ただ、大規模な商売としては成立してませんよね。それをやってみようと。商品開発はこれからですが……素材の買い取り流通、製品の生産販売まで、ルートを作れば、素材の購入という形でギルドへ依頼料の代わりを提供できるんではないかと」
「……?なるほど、続けてくれ」
アベンツが腕組みをしたまま、無表情になって言った。
「これまで個人でそう言った試みをしていた人はいたでしょうが、組織だってやればそれなりのお金にはなると思いますよ?もちろん、狩りすぎないように管理はしないといけませんが、ルール、ルート作りは我々も全力でバックアップしますし……もちろん、ギルドを通さないものは流通させないように手配します」
「それで、仮にそれが夢物語ではないとして、我々に何をしろと?」
今度はランテルノの言葉を遮るようにエストロが切り出す。
「簡単です。法律上は魔物と動物の区別はありまへんが、これを区別する法律を提出します。実際には議会を通さへんくても、国王勅旨で対応できる範囲やと思いますが、そのために必要なのはみなはんの支持と、もっと言えばきっかけとなる要望書ですな」
「……なるほど」
二人は黙り込んだ。ランテルノとユーロも黙り込む。全員が次に出てくる言葉をめぐって頭をフル回転させている。
「……いずれにしても即答は出来かねる。自体連の会議に掛けなければ、な」
「うちも同じだ」
「……そうですか……まあ拒否はされないと……そう受け取らせていただいてよいですかね?」
「好きにしろ。少なくとも即答はしないと言った」
「もちろん、そうですよねえ」
ランテルノは明るい声で、嬉しそうに言った。
「まだ、決まったわけではないぞ」
「そうですねえ。でも、自体連さんは安全が担保され、ギルドさんは収入と依頼が確保できるとなれば……考える余地もあまりないんじゃないかなあって思うんですけどね」
「……どうも悪い虫にでも捕まった気分ですな」
「そらうちの上司のこととはいえ、ご同意申し上げます」
「……とりあえず、今日の所は失礼するよ」
「ええ、どうもお忙しいのにお時間をいただきまして、ありがとうございます。また、よい返事をお願いしますね」
「どないですかね?」
「うん、まあ大丈夫じゃないですかね?」
支庁舎を出て、雑踏を歩くランテルノはあっけらかんと言った。
「そりゃ、いろいろ穴はある話だけれど、やってだめなら元に戻せばいいわけですしね。損はないと思うんですよ」
「……そうですね。しかし……室長はなんというか交渉ごとがお上手ですねえ」
「ユーロさんこそ、法廷でのご活躍が目に見えるようでしたよ」
「私は法律運用の業務が専門ですよってに、法廷とか裁判とかほとんど経験ないんですわ」
ユーロが苦笑いを浮かべると、ランテルノが大げさに驚いて見せた。
「じゃあ、法廷に出てたら大活躍で、今頃ここにはいないかも知れないですねえ」
「買いかぶりですよ」
ユーロは、実際にはランテルノが人事記録を読んでいて、彼の経歴を把握しているであろう事は察している。
「さて、これから忙しくなりますな」
「ええ、これでコンタード君に仕事してないって言われなくてすみますよ。今まで以上に彼らをこき使わなくちゃ」
ランテルノがはたずらっぽく笑った。




