22 根回し密談(前)
張り板に壁紙が貼られた綺麗な部屋だった。
王都の中心にある行政府の支庁舎は、対策支援室などのある本庁舎から少し歩いたところにある。王宮や行政府といった機関は王都の北側に集中しているが、やはり市民からしてみれば遠く便利が悪い。それで、窓口機能などの多くは王都の中心部に近い支庁舎に設置されている。
今回の会談場所も、その支庁舎にある応接室だった。
対市民用の応接ではあったが、重要人物や市民の代表などに対して使用することも多く、調度品にはそれなりのものが使用されている。南向きの窓にも美しいビロード生地のカーテンが付けられていて、その脇にはティーセットなどの並んだ立派なサイドボードが置かれていた。
部屋の真ん中の大きなソファには、ランテルノとユーロ、そして、恰幅がよく、仕立てのよい服の上からもその筋肉がよく分かるギルド長のアベンツと、対照的に細く額に皺の深く刻まれた白髪の老人、エストロが腰掛けていた。
「話は分かりました。仰るとおり魔物に関して我々は対抗手段があまりにも少なく、以前に比べ活発化した事に対しては不安はありますな。プロビンカはともかくとしても地方の村などは特にです」
地方都市プロビンカの執政官でもあるエストロが言った。
「ですが、今まで通りで構わないのでは?我々が冒険者ギルドに依頼をして討伐してもらうと」
「たしかに。俺たちとしてもそれで特に不便は感じねえな」
アベンツが同意する。
「そらそうですよねえ。ただ、経費は掛かってはるわけで……」
「それはそうですね。依頼料というのはお支払いしてますな」
「そこをなんとか無料にとなったら?」
「ほほう。それは、我々としても依頼料が掛からないと言うことであれば、考えないこともないですが……ギルドの統率を離れられて勝手をされますと困りますな」
「いやいや、まてまて、なにを勝手に話を進めてるんだよ」
憮然とした表情でアベンツが言った。
「誰も無料なんて話してねえだろ。大体無料の依頼なんて。仲介できるわけねえだろうがよ」
今更ではあるが、ギルドの仕事というのには、大きく分ければ冒険者達の管理と仕事の斡旋との二つに分けられる。
後者の仕事の斡旋は、町や村の住民や自治体からのものなど多岐にわたり、内容もお手伝いから魔物の討伐や人捜し、探検などなんでもありだ。
また、冒険者自身を守るためや、逆に冒険者から一般人を守るため、ギルドは所属している冒険者にサービスを提供しながらも管理している。
そして、冒険者達も生活をしなければならない以上、ギルドの斡旋する仕事をこなすことが必要となってくるのだが、当然、報酬があるからギルドに加盟して仕事を受注するわけだ。無料の奉仕など斡旋できないというアベンツの言葉も、無理のないものだった。
「そうですよねえ。いやいや、仰るとおりですねえ」
対策支援室側は、ユーロからランテルノに攻め手が交代する。
「依頼料のない仕事なんて無理ですよねえ。でも、冒険者達が、依頼者側に費用や迷惑をかけずに魔物退治してくれるなら、自体連さんも万々歳ですよねえ」
「それは……まあ。魔物に限ってということであれば……考えられなくもないですが……そんなうまい話は無理でしょう。ギルドさんの方が……ほら」
エストロは、隣で苦虫を噛み潰したような顔をしているアベンツの方をそっと見た。
「おうよ。んな話が通るわけねえだろうがよ。不愉快だ。帰る」
「まあまあ」
立ち上がり掛けたアベンツに向けて、ランテルノが両手を広げてなだめるように手を動かす。
「帰られるのは構いませんけど、せっかくいい話持ってきたのになあ……聞くだけ聞かれません?あとで損するの、つまんないですよ?」
顎を引いて上目遣いにギルド長に視線を送ると、アベンツは浮かしかけた腰をどすんと落とし、腕を前に組んで憮然として言った。
「嘘くさいな。そんな話あるのか?」
「ありますねん、これが」
横からユーロが口をはさむ。
「ご提案なんですけど、別に稼ぐ手段があったら、依頼料を取らんくても、もしくは安い値段で討伐依頼を出せはりますよね」
「……そりゃあ、ギルドと冒険者の収入が確保できればな。ただ、安くはないぞ」
「そらそうですわ。安いとは思わしません」
ユーロが何度も頷いた。ランテルノはグラスに入ったオレンジの甘い液体に口を付けた。そして、おもむろに口を開く。
「実はお二人をお呼びだてしたのはここからのお話をするためだったんですが……聞かれます?」




