21 悪だくみ
「さて、さっき頼んだアポは取れたかな?」
ちょうどコンタードたちが馬車に揺られて王都を発った頃、ランテルノは事務室でユーロに言った。
「へえ、取れました。ご指示の通りです」
ユーロは自分の席に着いたまま、手元のメモを見ていった。
「一緒に支庁の応接室も押さえました。今日の夕方に来はります」
「うんうん、ご苦労さま。ユーロさんも一緒に来てくださいね」
「そら構しませんが……」
ユーロは首を捻る。
ランテルノ指示で手配したのは、王国自治体連合会の会長と、王国冒険者ギルドのギルド長との面会、会談だった。つまり王国内にある街や村の村長、町長といった首長の集まりのトップに加え、冒険者の加盟する組合のトップと会合を持つと言うことなのだ。
先ほどの話もあったから、なんとなく察するものはあったが、ユーロには意図までは分からなかった。
「んー、ユーロさんはコンタード君たちと違って、なんで?とは聞かないんですね?」
ランテルノは少し楽しそうに言った。ユーロは頭を掻いた。
「はあ、あんまり余計な先入観を持たんようにしとるんです。わたし自身は裁判官やないですけど、法律いうのは見る側からで違って見えるのが常なんで」
「いい心がけですねえ。なるほど、そこはあまり思わなかったなあ」
「室長は結構、思い込んだら一直線なんですな」
「ああ、そうかもしれないなあ」
ランテルノは愉快そうに笑った。ユーロもつられて笑い出す。
それからユーロは立ち上がると、自分とランテルノのカップに、ポットの中の残りのカフォを注いだ。ランテルノにカップをひとつ渡す。
「もったいないですよってに、どうぞ。冷めててすみませんが」
「いやいや、ありがとう。ホットとアイスの両方を楽しめるのがカフォですから」
そう言って、ソファに座ったままカップに口を付ける。
ユーロはソファの背後にある自分の席に戻った。すぐ近くには、クルベノが真剣な面持ちで計算尺と算盤を弾きながら、羊皮紙を睨んでいる。
「さて、とはいえ一緒に来てもらうので、作戦は伝えとかないとね」
独り言のようにランテルノが言い、ユーロも小さく頷いた。
「作戦というと大仰だけど、結論としてはあの二人を説いて狩猟権から魔物を分離しようと思います。もちろん、今回は根回しだからね」
「分離はええですけど、自体連の方が狩猟権を手放しますかいな?」
「そこは、自体連の方は実害が発生しそうだから難しくないでしょ。元々魔物を狩れる一般民は少ないし、メンツの問題と治安の問題があって土地に入って欲しくないだけだよね。もちろん、餌はぶら下げますけど」
「なるほど」
「ギルドの方が問題だよ?現状だと自主的に魔物を狩ってもメリットは少ないもの。現場の冒険者やギルド支部は正義感に訴えれば動くだろうけど、今回はギルド本体が相手ですからねえ」
「ということは、なんや魔物を狩ることのメリットを見つけるんですな?」
「そうそう、分かってますねえ。正確には見つけると言うよりは付けるんですけどね」
「……たしかモントゥーは、工芸品と武器防具の生産が盛んでしたな?」
「ははは、さすがに察してますね。若い子達とは違うなあ」
「法律家は悪巧みとの戦いですからな。自然と詳しくなりますねん」
「悪巧みかあ」
そう言ってランテルノは少し作った悪い顔をしてみせる。
と、突然羊皮紙を睨んでいたクルベノが顔を上げた。
「……マージンを取れませんか?」
小さな声だったが、しっかりと芯の通った声だった。
「え?」
ユーロが聞き返し、同時にランテルノがさらに悪い笑顔を浮かべた。
「……勇者達が討伐したときにマージンを取りましょう」
クルベノがもう一度はっきりと言った。




