20 入場手続き
王都へ一番近い街であるモントゥーは、いい意味でも悪い意味でも特徴のない街だった。
四方の門はそれほど大きくもなく石造りで、分厚い木製の扉がついている。
平地の真ん中に建設された街の南側と東側には、馬が跳んでもギリギリ届かなさそうな幅の堀に水が張られている。
ほぼ正午に出発した魔王対策支援室の一行は、二時間と少し馬車に揺られたところでモントゥーの西門へ到着した。街への入場を待つ列はそれほど長くもなく、ゆっくりと歩みを進める馬車は足を止めることなく門へ近づいていく。
御者台へ座るミリティストは背後の小窓へ顔を寄せた。
「入るわよ。準備して」
「はーい。思ったより揺れなかったですね」
「馬のことなら任せておいて。軍馬だって馬車だってお手の物よ」
「さすがだなぁ」
そんなことを遣り取りしているうちに彼女らの順番が来る。
「許可証はお持ちですか?」
門番には珍しく丁寧な物腰だった。柔和な笑みが少し浮かんでいる。だが、決して無防備というわけではなかった。
「お疲れ様です」
ミリティストはわざと声を掛けてから、革鎧の内側から一枚のカードを取り出した。
それは、行政府および軍や騎士団、つまりは公務員であることを証明する身分証のカードだった。もちろんヒヒイロカネではないが、銀色の金属製の物だ。
そして、人さし指で後ろの客車を指し示すと、小さな小窓からコンタードとノヴロがやはり身分証を覗かせている。
「あっ、お疲れさまです」
「公務です。照会が必要ですか?」
「いえ、結構です。ただ恐れ入りますが記録だけ残さねばなりませんので、ご協力をお願いします」
「承知しています。どこも同じ事ですね」
ミリティストが努めて柔らかく言う。
それから断りを入れると馬車を少しだけ動かして、道の左側に停めた。先ほどの門番が近寄ってくる。詰め所から別の兵士と思しき門番が出てくると、後続の対応を始めた。手慣れた動きだった。
「ご記入を」
門番はそう言いながら少しだけ高い位置にある御者台を見上げるようにして、木の板の下敷きに挟まれた羊皮紙の書類を差し出した。ミリティストが受け取ると、添えられていたペンを取って記入を始める。
客車の扉が開いてコンタードとノヴロが降りてきた。
「お勤めご苦労様です」
「いえ、そちらこそ。出張ですか?」
「そうなんですよ」
コンタードがいつもより丁寧に答えた。
「最近勇者がこちらに来たんでしょう?」
「ええ、昨日出立されて、こちらには不在のようですがね」
「ああ……そうなんですね?勇者達ってどんな感じですか?」
コンタードは頭の中で勇者達一行の数日のスケジュールを思い出す。そういえば、ちょうど今朝、伝書便でそんな報告が届いていた。大まかなスケジュールしか把握していなかったのだ。
「そうですね。まあ、普通の冒険者といった感じでしたよ?」
「騒ぎがあったそうで?」
「ええ、なんでも魔物と戦ったとかで街の外に被害が少しあったとか」
「ほう」
「街中でも多少の悶着はあったみたいですが、公務員になった冒険者に対する嫉妬のようなものでしょう。大したことにはなってません」
「厄介払いできましたね」
ミリティストが書類を全て埋めてから、少しいたずらっぽく言った。
「ええ、まあ。でも、彼らには最近の冒険者には珍しい使命感というのを感じましたよ。公僕らしい感じです。あの気持ちさえ忘れなければ、すぐに冒険者の中でも頭一つ抜けるんじゃないですかね」
コンタードとノヴロは顔を見合わせた。ミリティストも少し意外そうな顔をしている。
当の門番はそんな三人を見て怪訝そうな顔をした。
「いえ、話にしか聞いていないんですが……意外な感じがして」
ノヴロが口を開いた。
「もっと尊大に振る舞ったり、なにか失敗でもあるかと」
「はははは、そりゃ、失敗はたくさんしてると思いますよ。彼らとは、少しだけここで今のようにお話ししましたが、旅慣れている感じどころか初心な感じすらありましたからね。実際、あちこちで騒動が起きたみたいですし」
門番は、ミリティストが書いた書類に目を落としたまま、口だけを動かした。
「でも、やっぱり志は感じましたよ。騒動の大半は因縁を着けられたと聞いてますが、いくつかは住人の為に力なになろうとした結果だという話ですよ」
再び三人は顔を見合わせる。
「結構ですよ。中へお進みください」
門番はそう言うと、敬礼をして見せた。
ミリティストは御者台から綺麗な敬礼を返し、コンタードとノヴロは丁寧に会釈をした。
それから、ノヴロが先に客車に戻り、コンタードも乗り込もうとしたが、ふと彼は足を止めた。すでに踵を返していた門番の後ろ姿に声を掛ける。
「一つだけ教えてもらえませんか?」
「なんです」
門番は振り返った。
「すみませんが、この街の美味しい名産と、特産物を教えてもらえますか?」




