18 行政官の苦悩(前)
勇者達は無事式典を終えて旅立った。
本室である対策室主催の出発記念式典は滞りなく終わり、国家公務員となった勇者達は数人のお供を連れて、王都の大門から馬車に揺られて出発した。もちろん数人のお供というのは連絡要員を含めた公務員であり、本室や王宮府の職員で、馬車はレンタルだった。
馬車の段取りを付けたのはコンタードで、交通ギルドから御者ごと安く借り上げたものだった。
旅立ってから数日、別室の職員達はいつもと変わらぬ仕事の日々を送っている。
「ああ?あいつら、またやりやがったか!」
報告の書かれた羊皮紙を眺めていたコンタードが、がっくりとうなだれた。
「どないしました……って聞くような話やなさそうですな。またですか?」
「また、です」
「今度は場所は何処かしら?」
「……隣の街の中央街道の舗装路」
隣街とは王都より東へ一日歩いたところにある、モントゥーの街のことだ。
「あらら。行軍したことあるけど立派な敷石じゃなかったかしら?」
「……ノヴロ、魔法でどうにか……」
「なりませんよ」
「……予算は……」
「……ありませんよ」
ノヴロが愛想なく答え、クルベノが冷静な声でとどめを刺した。
「……今回の中央街道の舗装路と、前回の警備兵詰所の外壁。街道脇の標識が三回。どんだけ壊しゃ気が済むんだ、あいつらは」
「まあ、魔物の討伐ですからな。被害は出ますよ」
「さっき魔法の使用履歴を確認しましたが、中々……羨ましいくらいの派手な爆破魔法使ってますね。なにと戦ったんでしょうね」
コンタードは一瞬固まり、それからノヴロの頭を叩いて言った。
「呑気なこといってんじゃねえよ」
「ちょ、なんで僕が叩かれるんですか。やったのはブルアでしょ」
「知ってる奴なら、アホなことすんなって言っとけ」
ノヴロは抗議の声を上げ、同窓の勇者の名前を出したが、コンタードは無視して言い返した。いつもの事だ。
それから羊皮紙を丸めながら毒づいた。
「誰が直す段取りして、頭下げて回ると思ってんだ?」
「……それはコンタードよね」
「コンタードはんですな」
「コンタードさんでしょ?」
「……」
「やってられるか!」
その時、事務室のドアが開き、ラフな格好のままのこの部屋の主が姿を現した。
「あららら、コンタード君荒れてるねえ」
「荒れますよ、そりゃ」
「どうしたのかな?」
「室長、いつものですよ」
ミリティストが口を挟む。ランテルノは顎に手をやって少し考えたが、やがて納得したように言った。
「ああ、またなんか壊したの?」
「……どうにかならないんですかね?」
怒りのあまり黙り込んでいたコンタードが、絞り出すように言った。ランテルノが首を傾げる。
「うーん。どうだろうねえ。魔物の討伐だからねえ……止めろとは言えないし……」
「ええと、そもそもなんで街道で戦ってるんですか?街道に魔物なんて滅多にいないでしょう?」
ノヴロがはたと手で膝を打ってから聞いた。コンタードが不機嫌に答える。
「魔物の討伐には報奨金が出るからな」
「森とかに入ればいいじゃないですか」
「森へは入らないんだ」
「そうよ。森のような所だと動きづらいし、不意打ちの恐れもあるし。相手を探して戦うなんて下策よ」
「いやいや、そうじゃない。ミリティストの言うことは尤もなんだけど、そうじゃないんだ」
騎士らしく答えたミリティストだったが、コンタードが遮った。
「入らないと言ったけど……正確には入れないんだ」
「どうしてです?」
ノヴロの問いに口を開き掛けたコンタードだったが、それより先にユーロが言った。
「ご存じないかも知れまへんが、街道から外れると、基本的には私有地ですわ。もちろん、国有地もありますけど、滅多にないですな」
「それで?」
「私有地とか村の共有地には、大体の場合で狩猟権とか採集権いうのが設定されてます。これは動物と魔物の区別がないんですわ。長ったらしい正式名称は省きますけど、鳥獣魔類保護法やら狩猟法……あとは、自治体共有地活用法やらで決まっとります」
「……つまり、街道を外れると、個人や村に権利があるから勝手に討伐が出来ないって事?」
「そうだ。だから勇者達は魔物を森のギリギリからおびき寄せて討伐するしかないんだ」
ミリティストの疑問にコンタードが答えた。横で法律が専門であるユーロも大きく頷きながら付け加える。
「法律上は発見場所やなくて、あくまで討伐した場所が基準になってますよってに、街道まで引っ張ってるんと違いますか?……この法が出来たときは魔物もそんなに活発化はしてなかったんですな」
「……まあ、彼らは討伐しないと報奨金が入らず、ジリ貧だからねえ。予算外の装備を充実させようと思ったら、狩りをするしかないし……」
ランテルノの言葉に、コンタードがため息をつく。
「結果、国有道路である街道で派手に戦って、物を壊すわけだ……まだ、民間に被害は出てないけど、いつ出るか分からないのもな……」
「困ったねえ……稼いでもらわないといけないけれど、コンタード君が苦しむのもねえ……適量ならいいけれど……」
「……なんか、最後に付け足しました?」
コンタードがじろりと睨み、ランテルノがぶるぶると首を横に振った。
「滅相もない。大切な部下が困ってるんだから、考えないとねえ」




