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12 祝賀会3

「これは殿下、おめずらしい。お越しいただきありがとうございます」

「なに、父上の名代である。陛下がよろしくと仰っていた」


 ジュビリーは胸に手を当てると、プリニカに対して敬意を込めて言った。先程からの少し気さくな感じは消え、威厳を持った王子としての言葉に、コンタードは背後で密かに震え上がる思いだった。


「ありがたき幸せ。殿下も陛下へよしなにお伝えください」

「たしかにお伝えしよう」


 プリニカは先程に比べて少しつまらなさそうに言ったが、周りにそれに気がつく者はいない。

 ジュビリーの取り巻きは少し下がって様子を眺めている。

 近くで見ると、確かにジュビリーは存在感の強い男だった。身体はがっしりとして、表情も締まっている。先程の式典とは違って、赤い礼服を身につけ、腰に武器も下げていない。けれども、その目の力が強かった。刺すような鋭い眼光とは月並みな表現だが、まさにこの事だろう。

 言葉は和やかで表情は穏やかな笑顔だったが、決して目は笑っていなかった。もっとも、それはプリニカも同じと言えた。

 プリニカは振り返り、背後に立つコンタードの肩を軽く叩いてから言った。


「将軍。それはそれとして、貴殿に紹介したい者がおってな。少しよいか」

「はは、このようなお席で滅多にお声がけをされない殿下から、そのようなお言葉とは。お断りするはずがございませぬ」

「ふむ。そうかな?自分は父上や兄上の名代が多いのでな。代わりの出席である以上、しゃしゃり出て顔に泥は塗りたくないのだよ」


 プリニカは軽く笑う。


「して、その者は?」

「そなたに目通りが叶えば幸せだと言っておったのでな。叶えてやることにした。気まぐれだよ」


 権勢に関しては雲泥の差があるジュビリーとコンタードである。

 コンタードは礼を失しないように礼儀を守るため、片膝をつき、頭を下げてから名乗った。


「国王府外交部特別対策室別室の行政官でコンタードと申します。閣下にお目通りが叶い光栄です」

「ほほう、魔王対策室の別室か。よい、楽にしなさい」


 少し優しい声でジュビリーが言う。

 コンタードは身体を起こし、もう一度頭を下げた。

 だが、内心では冷たい汗をかいていた。特に作戦もなく、渡りに船とプリニカに紹介して貰ったものの、あの言い方ではジュビリーのファンということになってしまう。別にそのことはいいのだが、おかげで下手なことは言えない緊張感に包まれてしまったのだ。

 考えようによっては、これはプリニカに試されているのかも知れない。そういう思いもあったから、なおのこと緊張していた。


「ありがとうございます。レグーノ国の英雄にそのようなお言葉をいただけるとは……」

「よいのだよ。貴公は魔王対策室の勤務だとか。同じ魔王軍に対峙する者として、互いに微力を尽くそうではないか」

「はい」

「……心を同じくする臣下同士の姿を見ると、中々に胸が熱くなるな」


 プリニカは満足そうに頷く。それからくるりと背を向けると、片手を挙げてから歩き始めた。周囲の人の波が再び割れ、また、元に戻っていく。

 ジュビリーの取り巻き達は互いに談笑をしながら、コンタードとの会見の様子を窺っている。コンタードは取り残されてしまったわけだ。


「ときに魔王対策室の管理者なのだが……」


 プリニカが去って行くのを見届けてから、ジュビリーが口を開いた。


「はい、ランテルノ室長のことでしょうか?」

「うむ。昔、少しだけ面識がある。中々に頼もしい話であるな」

「はあ」


 コンタードは少し虚を突かれた。

(頼もしい?誰が?)

 心の中に疑問を押し込めて、ジュビリーに訊ねてみる。


「失礼しました。頼もしい、ですか?」

「ああ。『砥石要らずのランテルノ』だな。彼が侍従官になった頃か」

「ええ、聞いたことがあります。歴史編纂室からの抜擢だったとか。その……砥石いらず……とは?」


 コンタードの質問にジュビリーは自嘲気味に笑った。


「ふふふふ、どうやら最近は昼行灯を決め込んでいると聞いていたが……」


 独り言のように呟く。

 コンタードは首を傾げた。


「……砥石要らずなくらいに切れ者だと言うことさ」

「……まさか」

「おい、本気で絶句をするなよ?彼の見た目に騙されるな。室長の役を実力もないのに任命する陛下ではない」

「陛下の……ですか?」

「ああ、魔王対策室は陛下の肝いりさ。議会はともかく、我々軍人、騎士は陛下に忠誠を誓っているんだ。魔王対策室とも連携は取るさ」


 再びコンタードが言葉を失う。


「なんだ。ランテルノの命令でここに来たのではないのか?」


 コンタードは危うく「はい」と答えそうになるが、すんでの所で飲み込む。

 少しは意地を見せねばならないところだろう。たとえそれが虚勢と見破られていてもだ。


「先程も申し上げたとおり、閣下の……」

「はははは。多少は胆力のある人材を入れているようだな。よいよい。意地悪であった」


 ジュビリーは嬉しそうに笑い、コンタードは再び片膝をついて一礼をした。


「だが、魔王と対峙している我々がいるのに対策室を立ち上げるというのは、まるでお叱りを受けた気分なのだ。なので物言いは許せよ……とはいえ、先程言ったとおり陛下の肝いりであれば、我々の気分など何処へなりと放り投げればよい。何か困ったことがあれば宮廷騎士団へ言って来なさい」

「はっ、ありがとうございます」

「議会には旧知の者もおる。それも目当てであろう。無下にはせぬゆえ」


 コンタードは立ち上がると丁寧に一礼をした。

 ジュビリーは愉快そうに笑いながら大きく頷いた。そして、下がれという風に手を振ったが、すぐに顔を上げると、すでに下がりかけていたコンタードに言った。


「……今度機会があれば、私の所へ顔を出すように伝えてくれ……あとはゆっくり楽しんで帰りたまえよ」

「ははっ」


コンタードは深く一礼すると、そのまま辞去した。

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