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10 祝賀会1

 というわけで、コンタードはランテルノに並んで、式典に臨んでいる。

 広い謁見の間の入口には大きく分厚い扉が閉まっていて、そこから玉座へ向かって階段を昇りながら紅い絨毯が敷かれている。その脇を挟むように儀仗兵が並び、その背後に宮廷の職員や貴族達が思い思いに並んでいた。

 とはいえ、一部の職員には序列があるので、立ち位置が決まっている。ランテルノとコンタードは階段の中段あたりの儀仗兵の後ろに直立していた。


「宮廷騎士団長、参内!」


 入口近くに居た騎士が大きな声を上げると、扉が重々しく開いて、儀礼用のプレートアーマーとマントを着け、兜を小脇に抱えた初老の男性が入ってきた。

 宮廷楽師がファンファーレを奏で、それからゆったりとした雰囲気の音楽を演奏し始めた。

 騎士団長の大きな肩当てのついた白銀の鎧はよく磨かれていて、短い頭髪と豊かに蓄えられながらも整えられた髭が、なんともいえない威厳を醸し出していた。彼はゆっくりと一礼をすると、重々しい足取りで階段を昇り始める。

 正面には、同じく威厳に満ちた国王が直立して出迎えている。

 音楽に合わせるように歩く団長に儀仗兵は尊敬の眼差しを向け、貴族達は愛憎の混ざった視線を向ける。階段を昇った団長のジュビリーは、玉座よりも一段低いところで歩みを止めた。そして、片膝をつくと国王レグーノ八世へ頭を垂れた。


「宮廷騎士団団長ジュビリー・スパーク、御身の前に」

「うむ、大儀である」

「もったいないお言葉」


 レグーノ八世は横に目線をくれると、待機していた秘書官から赤いリボンのついた金色のメダルを受け取った。


「我が軍が魔王軍との戦線を維持し、防ぎ続けておられるのも、そなたの力の賜物。永きにわたり国のために尽くしてくれた貴公に対し、余の気持ちとして、レグーノ金十字勲章を授ける」

「ありがとうございます。陛下より賜りましたご恩、まだまだ返しきれませぬが、今以上に励みまする」

「よい。期待しておる」


 ジュビリーが立ち上がると、レグーノ八世は、鎧の胸元に巻かれた布に勲章をつけた。


「励めよ」

「御意!」


 ジュビリーはくるりと後ろを向くと、眼下の儀仗兵に対し胸に右手を当てて、少し上体を反らした。同時に騎士達から「オオオオ」とどよめきにも似た声が上がる。

 レグーノ八世は満足そうに頷くと、そのまま踵を返して玉座の脇にある出口へ向かって歩き始め、叙勲の式典は終わった。



 場は一転してなごやかなムードに包まれていた。

 式典が終わり、隣にあるパーティーホールへ会場を移して、祝賀会が始まっていた。式典自体が夕刻に始まり、もう日も暮れて外は夕闇に包まれている。

 立食形式のパーティーは、真ん中のテーブルに食事が用意され、参加者が思い思いの相手と会話を楽しんでいた。

 コンタードは部屋の隅にもたれて、グラスに入ったワインをちびちびと嘗めていると、両手の皿を一杯にしたランテルノが近寄ってきた。


「食べないの?」


 いつもの調子でランテルノが訊ねた。


「食べてますと言いたいところですが、喉を通りません」

「なんで、君が緊張してるのさ」

「緊張しますよ。陛下のご尊顔を拝謁するなんて、採用の時の式典以来ですから」

「あれ?そうなの?」

「そうですよ……ところで……」


 コンタードは急に声を落とした。


「さっき前線の維持が……って陛下が仰ってましたが?」

「そうだね」

「宮廷騎士団は前線になんか出てないでしょう。その名前の通り、宮廷の近衛騎士団なんですから」

「ああ、そのこと?」


 ランテルノは皿を目の前の台に置いて、無理矢理に掴んでいたグラスに口を付けながら答えた。


「確かに、前線で魔王軍と戦っているのは、王国の三大騎士団の一つ、東雲騎士団だね。でも形式上、全ての騎士団より格上の扱いを受けるのが宮廷騎士団なんだよ。すべての騎士団を統べる騎士団みたいな感じかな?」

「それは知ってますけど……でも、だからって手柄を持って行かれたみたいになりますけど、大丈夫なんです?」

「まあ、大丈夫じゃないよね」


 ランテルノはコンタードに顔を寄せると、少し酒臭くなった息を吐きながら、さらに声を落とした。


「宮廷騎士団の所属騎士は、原則、他の騎士団から抜擢されるんけど、ただでさえ、国中の騎士団や、下手をすれば他国の騎士団からメンバーを引っ張ってくるんだ。まあ、よく言えばエリート集団って事なんだけどね。繋がりはあるけど、せっかく手塩に掛けて育てた騎士を持って行くんだもの。各騎士団の偉いさんから見れば面白くないだろう?」

「そりゃ、そうですね……って、最近似たようなことしませんでした?」

「んー、なんのことだろう。僕はきちんと理解は貰ってるよ。それに……」


 ランテルノが言葉を濁す。コンタードは続きを促した。


「それに?」

「うちより下って言うか、場末って他にあるのかな?」

「ああ……」

「嫉妬なんか買わないだろうしね」

「言っててむなしくないですか?」


 ランテルノは肩を竦めてから、皿の料理を平らげ始めた。


「とまあ、そんなわけで、んぐ……宮廷騎士団が上位だから、現場の活躍は宮廷騎士団長の活躍って事になるんだね」


 飲み下しながらランテルノは言った。

 コンタードが顔を曇らせる。


「それに、カーディナル騎士団が関わってもくるんだけど」

「カーディナル騎士団って……あのスーノ教会の騎士団ですか?」


 現在、レグーノ王国の国教は太陽の女神であるスーノディオを崇めるスーノ教である。だが、王国自体は宗教には寛容で、古くからの神を信仰する者や、職業の守護神を崇める宗教なども混在する。

 スーノ教に対してもう一つ力を持つのが、月の神ルーノディオを信仰するルーノ教で、こちらはセレスト騎士団と呼ばれる騎士団を持っている。

 国が寛容なこともあり、他国に比べると宗教間の軋轢は少ない方ではあるが、皆無というわけではなかった。


「前線の東雲騎士団の団長も宮廷騎士団の団長も、二人とも宗教系の騎士団出身なんだけれど、所属が違っててね、東雲騎士団長はカーディナル騎士団。宮廷騎士団のジュビリー団長はセレスト騎士団。だから、いろいろと面倒な対立はあるみたいだよ?表に出ないだけで」

「それは、また、面倒ですね……」

「表に出ないんだから、大人だよねえ」

「そりゃあ大人ですからね。室長も見習った方がいいんじゃないですか?」

「言うねえ。好きだよ、そういうの。じゃあ、僕より大人のコンタード君に業務命令です」

「はい?」

「ジュビリー団長に取り入っておいで。あと、団長には何人か取り巻きの貴族議員がいるから、もし、できればそっちもね」

「ちょ、ちょっと待ってくださいよ」

「待たないよ。急がなきゃ祝賀会が終わっちゃうもの」

「そんな……」

「パイプを作るって言っといたでしょ」

「し、室長はどうするんです?」

「僕は国民議会の方を回るよ。あちらも大切だからね……っていうか、僕は仕事歴が長いから、結構知り合い多いんだけどね」


 ランテルノはいたずらっぽく笑った。コンタードは本気で困惑したようで、驚き戸惑っている。

 ランテルノにとっては逃げ出すなら今というところなのだろう。で、逃げ出した。


「コンタード君なら向いてるよ。たぶん」

「……たぶん、は余計ですよ」


 自棄になったようにコンタードが言うと、ランテルノは片手を挙げて人混みの中に皿ごと消えた。

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