2話 最強の魔法使い その1
「誰だ、お前」
声から察するに恐らく女だろうが…どうしてあんなに俺の事情に詳しいもんかねぇ…
「勇者一行は貴方が追放されてすぐ壊滅。この状況から推測しますと貴方は真の実力を理解されずに追放された凄腕のバッファーということになります」
「どうです?私のパーティに入りませんか?」
怪しい…色々怪しすぎる。不明な点も多い。戦力は大切だが、変なやつを仲間にするわけにはいかない。まずは相手をよく調べるか。
「お前…何をやっている?」
「職業…という意味であればウィザードをやっています。こう見えても魔法にはかなり自信ありです」
ウィザードか。確かにウィザードは俺の理想のパーティに必要不可欠な存在だから信頼できるやつを一人スカウトしておきたいが…次は最も気になることを聞こうか。
「俺を誘った動機は?俺のことをよく知っているなら自分自身を強化できない欠陥バッファーってことぐらい知っているだろう?」
「多少長くなりますが、構いませんか?」
気になる俺のスペックに関してはノーコメントか。しかし、それ以外でも長く話しをしてくれるってんならその分他の粗探しがやりやすい。一旦好きにさせてみようか。
「長くても怒らないから俺が納得するまで話せ」
俺が承諾するとそれでは…と、少女は話を始めた。
「理由はただ一つ。私が真の意味で最強の魔法使いになるためです。本来なら私は最強の魔法使いと言っても過言ではありませんが、ある日、私は一人では最強の魔法使いになれないと悟りました」
「それで俺が必要だと判断したってか?」
「はい。貴方と一緒に旅をしていたウィザードを知りませんか?」
「あぁ、いたな。嫌味ったらしいやつだったが、実力は確かだった」
あいつは結構立ち回りが上手かったからな。あと炎属性の他に風属性も使えたし。
「違います。彼は雑魚です」
「…雑魚?」
「失礼、私からすれば私以外のウィザードの殆どが雑魚ですが、違うのです。彼は間違いなく、貴方の仲間に相応しいような実力者ではありませんでした。五属性の内、二属性しか使えませんし」
確かに…今一度言われてみればそうだよな。
この世界の魔法の全ては五大属性かそれを掛け合わせた複合魔法、五大属性に当てはまらない無属性魔法のいずれかに分けることができる。
よほど才能が無いやつを除けば魔法適性がある人間は二属性の魔法が使える。そこから努力次第で三属性を使えるようになるらしい。そして四属性使えるならそいつは天才と呼ばれる人種だ。
先程説明した通り属性は合わせれば複合魔法となり、更に新たな魔法となるので三属性使えるか四属性使えるかは天と地程違うんだとか。
けど、それにしても俺の仲間に相応しいねぇ…それは買い被りすぎじゃないか…?
「…ちょっと待って、ユウ君って元勇者一行!?そんな人の仲間に私が入ってもいいの…?」
良いに決まってるだろ。俺はあの時確信した。お前の存在は俺にとって必要不可欠だとな。お前は初めて俺のことを能力抜きで見てくれた大事なやつだしな。パーティから外す理由がない。
「何を今更。当たり前だろ?それより続きを頼む」
「彼は貴方と一緒に冒険してからめきめきと頭角を現したとのことで…これはユウの魔法のおかげであるとしか考えられないのです。そうして貴方の実力を間近で見たのですが、それで本物だと確信しました」
なるほどね、あっちでこそこそ見ていたのはちゃんと俺の腕を見ておきたかったってことだな。
「以上が私が貴方を誘った理由の全てです。質問はありますか?」
「…分かった。だが、一つ確認させろ。俺を誘うってことは当然、アリーも誘っているって意味だよな?そうじゃないなら俺は断固拒否する。あとは…」
「人と交渉したけりゃ名を名乗れ。そしてその暑苦しいフードを脱いで顔をよく見せてもらおうか」
「私の名はシルヴァ—あぁっ、ダメです!これだけは!」
「待って、ユウ君!彼女下に服を着ていないんじゃ…」
何…?服を着ていない…?
「か、変わった趣味をお持ちのようで…」
「違います!私の服ならあそこにあります!濡らしてしまっただけですから憐れんだ目で見ないでください!」
「服って…あのダイアウルフが狙っているあれか?」
「はい、今盗られそうな…あぁっ!それです、それです!」
「やべぇな、もうブラが盗られ—ぐっ…」
こいつ、杖でどついてきやがった。…ったく、俺が地雷を踏み抜いたせいとはいえ、いてぇな。てかその杖どっから出したんだよ。
ん、待てよ。それよりあの杖はどう考えても街ですぐ買えるような量産品じゃない。先端に埋め込まれているあの青い鉱石…確かあれ凄く希少な鉱石だったよな…あの大きさだったら値段は…
「すごいね!その杖どこから出したの?」
「これですか?これは圧縮魔ほ—って、早く!早くしないと手遅れになります!!ユウ、強化魔法をお願いします!」
って、今はそんなことを考えている場合ではなかったな。
「了解。さて、どうやってダイアウルフを無力化する?畑がすぐ近くにあるから可能な限り周りに被害が出ないよう配慮してくれ」
「そうですか…では、あまり気乗りしませんが、拘束魔法を使います」
おお、拘束魔法か。あの杖から魔力の縄が出て、対象者を縛るあの魔法か。なら…
「魔法強化!雷属性付与!あと視力の強化は必要か?」
「お願いします!」
「視力強化!よし、任せた!!」
「『バインド!』」
ダイアウルフは杖から伸びた魔力の縄に拘束され、付与された雷によって抵抗すらできずに地に伏した。
「凄い…これがあの子の実力なの…?」
よし、なんとかあの銀髪魔法使いの服を確保し、まともに話せるようになったな。しかし、見た限り杖もローブも一級品。…というか特注品じゃないか…?
それなら普通引く手数多だろうに。
「えっと…シルバだっけ」
「シルヴァです!」
シルヴァの碧い瞳に睨まれ、全力で抗議された。発音とか気にするのね。了解、了解。
「…で、シルヴァ。とりあえずお前と仲間になることはひとまず保留と言わざるを得ない。まず他にいるであろうパーティのメンバーを紹介しろ。いくらお前のことを多少信用しているとはいえ、その仲間まで信用できるかは別問題だ。そっちもしっかり吟味させていただく」
仲間が新たに入るだけでパーティが半壊なんて後半は特に見かけた光景だからなぁ…こういったガチ勢…というか意識が特別高いやつを入れるなら今一度考えたい。
「…わ、私だけです」
…え?
「まだ私だけだと言ったんです!」
「あ、あぁ…なるほどね、誰もいなかったからパーティを作ろうとしてたんだよね。あはは…」
やめろ。アリー、それ全然フォローになってないぞ。むしろそれかなりダメージ入ってる。
「あんな大物ぶっておきながらぼっちかよ…概ね他人にスキルを求めすぎたか?あとは戦闘後の小言がうるさいとか…」
俺の経験上…そういうパーティの雰囲気を悪くするやつは周囲から疎まれやすい。たとえいくら強くても…いくら正しくてもな。
『…』
「泣いていいですか?」
やべぇ、ガチのやつか。
「…俺が悪かった。すまん」
「…そもそもパーティを作ろうと思ったらパーティに入りませんか?という発言は正当なはずです」
いや、確かに言われてみればそうだし、俺が大手パーティのメンバーだと勘違いしたってとこはあるけどさぁ…
「大体貴方も追放されてぼっちだったじゃないですか!貴方はもっとアリシアに感謝した方が良いですよ!ぼっちな貴方とまともに話してくれるのは彼女ぐらいですからね!!」
うるせぇ、論点はそこじゃねぇだろ。…というか今更言われなくたってアリシアには感謝してるよ。感謝してもしきれないぐらいに。でも…
「ありがとう、アリー。お前が俺を拾ってくれたから俺は戦えるんだ。本当にありがとう」
「ううん、それはこっちのセリフだよ。こちらこそありがとう、ユウ君」
こうやって改めて感謝の意を伝えるのも悪くないな。
こっちの感謝の気持ち以上に返してくれるなら尚更。
「アリー」
「ユウ君…」
「誰が二人だけの世界を作れと言いましたか!?私を無視しないでください!」
いや、そもそも話を逸らしたのはどこのどいつだ。
「さて、本題に戻ろう。仲間の話だな…俺は一向に構わない。アリーはどう思う?」
「私も大歓迎だよ!ウィザードがいるのは心強いよ」
「…では、よろしくお願いします。まずはクエスト遂行の話でしょうが…ファフニールの話も報告してあげましょう。貴方方では信憑性に欠けるでしょうからね」
…余計なお世話だ。
♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢
「間違いなく!彼らがファフニールを撤退させました!私は見たんです!!」
「ははは、冗談言っちゃいけないよ。お嬢ちゃん。まさかこの二人だけであのファフニールを倒したっていうのかい?伝説の勇者様がいたならともかく…」
おい、ちょっとー!伝説の勇者にはずっと相棒がいたんですよ?もしかして存在すら把握されてない?
「だーかーら!ユウの強化魔法がアリシアを…」
「おいおい、たかがバッファー風情があの貧弱アリシアをファフニールレベルまで引き上げるなんて無理に決まってるだろ!はっはっは」
「くぅ…」
どのみち変わらんかったか。まぁ、仕方ないな。通説は基本覆せない。バッファーはやはりどこでも軽視される存在だったってことだ。
「おい、お前…なんて口利いてるんだよ…殺されるぞ…」
ん、もしかして俺の存在を知っているのか…?…やっぱり分かるやつには分かってしまうのか。
「あいつ…災禍の魔法使いだぞ。かつてダンジョン内にいる魔王軍幹部をダンジョンごと吹っ飛ばしたって噂の…」
ですよね…基本日陰者である俺を知っているやつなんて最前線のごく一部くらいですよね…てか、俺よりチート無双してんな。
「災禍の魔法使いだと!?あの五大属性を自在に操り、高出力の攻撃魔法で全てを薙ぎ払う…す、すみませんでした!!どうか命だけは…!」
いやいや、今は俺のことなんざどうでも良い。それより災禍の魔法使いだと…?俺も噂程度…都市伝説クラスでしか知らないような大物が仲間になるとは。
そしてうっかり聞き逃すところだったが、やはり五大属性全て使えるだと…?災禍の魔法使いの噂で聞いたことがあったが…まさか本当に五大属性全て使える魔法使いに会うとは…
「気にしていません。先ほどの非礼は許しましょう。それよりも…」
「私を悪く言うのは構いませんが、私の仲間を侮辱するのであれば…どうなるか分かっていますね…?」
「ひ、ひぃ!すみませんでした!」
シルヴァは歯向かったらどうなっても知らんぞと言わんばかりに左手で炎を燃やし、右手で氷を生み出していた。魔法に疎い俺でも分かる。二属性の魔法を同時に出した上に水属性と風属性の複合魔法である氷属性と炎属性は相性が悪い。
三属性を同時操る器用さも持ち合わせているとは。
…全く、どこまで桁違いなパワーを持っているんだか。本当にどうして仲間になったか不思議なくらいだ。
「分かれば良いんです」
「私はここにパーティを結成します!メンバーはそこにいるナナミ・ユウ、アリシアの二人です。そして私達三人は必ず魔王軍を倒し、世界に平和をもたらします!!」
「異議のある者はリーダーである私の所に来てください。この災禍の魔法使いがいつでも相手しましょう」
その場の誰もがシルヴァの宣言の前に押し黙ることしかできなかった。それもそうだ。あんな圧倒的な実力を見せつけられてなお反抗しようなんて馬鹿は早々いないだろう。
…約1名を除いて
「凄いね、ユウ君。ん?ユウ君?」
「異議あり!ありありでーす」
「ほう、つまり貴方が最初の相手ですか。覚悟してもらいま…はい?何故ユウが異議を…?」
「リーダーは俺だ。そこんとこ間違えてもらっちゃ困る」
「どうやら力の差というものを教える必要があるようですね。ここで今!」
嘘だろ…炎、水、雷、土、風…やっぱり全部同時に出すことまで可能なのかよ…おまけに全部どれも割と威力そこそこあるし…最早お前が魔王だわ。
「後悔すんなよ?」
俺が今現在進行形でしてるんだけどな!!少しくらい勝算はあったつもりだが、こいつの底知れない才能が怖すぎる。
「こっちのセリフです。貴方も冒険者なら1週間ベッドの上…なんてことになっても文句言わないでくださいね」
「え…?待って!ユウ君、シルヴァちゃん!平和的に解決しよ?ね?ねっ?」
この後、アリシアの必死な説得も虚しく、仲間になったシルヴァと一騎打ちをすることになった。