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3-1 石像を修理して、石像をぶっこわします。


「なんでオレだけ、こんな動きにくいのしかひろえねえんだよ!? おかしいだろ!?」


 乗っているオバケ男子の不評と裏腹に、怪物鳥ルフの巨体は木々へぶつかって枝をぶちわりながら、ほとんど速度をゆるめない。

 ふり下ろされたくちばしを正人のリザードマンが避けると、すぐ後にあった木の幹に大穴がえぐられる。

 あんな大きい岩のかたまりをすごい勢いで打ちつけたから、摩擦の熱さで焦げ目がついて、煙まで出ている。


「正人! 逃げて逃げて!」


 ルフを背後から追いかけたわたしの顔面に、羽根が直撃する。


「ぶは……っ!?」


 でもくらってみたら、意外と硬くない。

 乗っている自分の体の硬い場所はなんとなくわかるけど、相手の体はぶつかってみないとわかりにくい。

 スケルトンは剣が一番硬くて、次にひじやひざから先が硬い。

 ルフはくちばしや足の爪が武器のあつかい?


「いてえな、なにすんだよ!?」


 ルフの巨体がザバザバとあわただしく向きを変えてくる。


「いたいわけないでしょ!? ってか、あんたが自分ではたいてきたんでしょうが!」


 ついつい言い返しながら逃げる。

 さっちゃん様、早く来ないかな……待つのは二十分だっけ?


「七分経過しました」


 アヤメさんの上品な声が残酷だ。あと十三分もかあ。



 木を盾にして逃げまわるけど、追いつかれそうになって、巨大なカギ爪があちこちの幹をえぐる。


「この女ガイコツ、ピョンピョン飛びやがって!?」


 何度もよけてやったけど、不意に脚をひっかけられて転んでしまった。

 もうダメかと思ったら、ルフはくるりと後ろを向いて、しのびよっていたリザードマンを突きとばす。


「なめんなコノヤロ!」


「あちゃ~」


 正人のリザードマンががなさけない声を出し、胸に大きなひびを広げながら少し浮き、派手に倒れて転がる。

 うーわー。これでわたしひとり……どうしよ?


「友恵さん、ルフの動きを押さえてください」


 アヤメさんの声が聞こえて、急いで羽根にしがみつく。

 背へまわりこむとクチバシやカギ爪は届かないけど、巨体も暴れまくって邪魔してくる。


「はなせ! アホかオマエ! 勝負ついてんだろ!?」


 こいつ、なに言ってんだか……じゃなくて、オバケに操られているんだっけ。


「今のうちに言っておくけど、わたし、あなたのこと怒ってないからね? つい言いすぎちゃって、ごめんね」


 ガイコツの手足に小さなひびが増え続けて、力がぬけてくる。

 正人のリザードマンもずるずるとはいずって来て、ルフの足にしがみついてくれた。

 丘から近づいてくる足音を聞いて、わたしもしがみつく場所を足に変える。

 森のはずれで、いかつい巨人が投球姿勢になっていた。


「す、すみません、いきますよ? だいじょうぶですか?」


「さっちゃん、早く早く!」


 ブォオオオオッと大きな震動音がしたあと、ゴンッという爆音で白い煙のかたまりがタイタンの手から飛び出して、ルフの頭にバゴッと命中した。

 爆発音はそれほど大きくなかったのに、ひびは意外に大きく広がって、たくさんの破片がばらまかれる。



「こ、これ、あと一回しか使えないみたいですよ!?」


「なるべくファントム処理のために温存してください」


「は、はい……!?」


 ブサイク巨人がかわいい声でアヤメさんに返事をして、こぶしを前に出したまま突進してくる……それはパンチと言っていいのかどうか。

 それでもタイタンの太い腕がぶち当たると見事な爆音が響いて、ふらふらしていたルフの巨体はきれいにぶったおれた。


「搭乗者が出てきたら撃ってください」


「え……え!? でも……!?」


 砂ぼこりの中に、男の子と赤い光が見えた。


「ミサイルに不具合でしょうか?」


 アヤメさんに笑顔で平然と言われたって、さっちゃんが怖がるのもわかる……でもこのままだと、また逃げられちゃう!

 わたしは石像から急いで降りる。

 焼け焦げたにおいがすごい……石像同士でぶつかった部分、こすれ合った部分、それに巻きこまれた木々や地面からも煙がでている。

 煙の向こうから、すごい勢いで走りこんでくるアヤメさんらしき影が見えた。


「友恵さん、危険ですからすぐに石像へもどっていただ……」


 石像に乗っている時とはちがって、木が割れたりなにかが崩れるような音がたくさん響いて、声を聞きとりにくい。

 アヤメさんの言いたいことはなんとなくわかるけど、わたしは倒れたルフへ向かって走る。



「やっべ! さっきので撃たれたら、死ぬ! マジ死ぬ!」


 ルフから降りてくる男の子が見えて、わたしは自分の息と気持ちを静かに整える。


「だいじょうぶ。それよりあわてないで。まわりに注意しないと危ないから。石像のかけらとか、けっこう飛んでいるし」


 男の子はビクリとこっちを見る。わたしは両手をあげてゆっくりと近づく。


「な……おま……っ、なんでこんな、ひでえ……」


「だいじょうぶだってば。わたしは……誰かを仲間はずれにするのが嫌なだけ」


 男の子の足元から、赤いもやがはいのぼってくる……あいつのせいか。

 わたしは逃げそうになった男の子の腕をつかまえてしがみつく。


「さっちゃん、撃って! ここ!」


 ふり返ると、タイタンがちょうどわたしたちを見つけて目が合った。

 わたしの脚に嫌な感触……赤オバケがはいのぼってくる!


「さ、さっちゃん早く! 今だけは遠慮なしで!」


「なんでオマエなんかと! いっしょに死にたく……」


「死なないってば! 助けてあげ……」


「グィイイブィギゥイギッ! ギァヴァグゥア!」


 いきなり赤オバケの頭が現れ、わたしは目の前で叫ばれて全身がかたまってしまう。

 オバケ男子に突きとばされた直後、ボゴオンッ! と轟音がした。


 あたりが煙に包まれて、わたしは倒れただけで無事。

 煙が薄らぐと、男の子も転んでいたけど、ケガはないみたい。

 赤いもやがよろよろと遠ざかる姿が見えた。形がボロボロで、片腕は肩あたりまでゴッソリなくなっている。


「ね、生きていたでしょ? 正気にもどった?」


「よるんじゃねえ! だから、なんなんだよオマエ!?」


「あれ? オバケはもう、追い出したはず……?」



 アヤメさんが駆け寄ってきて、男の子が何歩も距離をとる。


「友恵さん、ご無事ですか? ファントムはどうなりましたか?」


「わたしはだいじょうぶ。オバケは逃げていったけど、かなり弱っている感じだった。それよりこの子、まだ頭おかしいかも?」


「おかしいのはそっちだろ!? いきなりこんな……」


 しまった。またわたしは余計なケンカを売ったみたい。


「わたくしは島の案内人で、アヤメともうします。なにか質問がございましたら、可能なかぎりお答えいたします」


 男の子はなにも言わないでにらみつけて、さらに何歩か離れる。


「めんどくさい子だなー。アヤメさんはわたしたちを助けに来てくれたんだよ? なんでそんなに怖がるの?」


「ファントムによる意識操作の影響が残っているようです。時間をかけて少しずつ話し合い、本人に気がついていただく必要があります」


 わたしが入るとややこしくなるみたいだから、黙っておこう。


「……き、気がつくってなんだよ?」


「オバケのような、赤く光るもやといっしょにいましたね?」


「それがどうかしたか?」


 見えていたのかよ。


「ん…………あれ?」


 男の子がなにか考えるような顔になる。


「あのオバケは、普段から見慣れているものですか?」


「いや、この島ではいっしょにいたけど……なんだあれ?」


 アヤメさんがにっこりほほえむ。


「ゆっくり話し合いましょう」


 順調みたい。

 この島のオバケ被害の対策は、怪しい儀式や呪文じゃなくて、わりと普通な、でも相手をよく気づかった話し合いが有効らしい。



 アヤメさんはていねいに説明して、男の子の思いこみや記憶のおかしさをひとつずつ、男の子自身に認めさせていく。

 正人たちが近づくと、また警戒されたけど、今までほどひどくない。


「なんだやっぱり男子か~。でも歓迎するよ。ぼくは鈴木正人。よろしく……あれ? まだなにか問題が?」


 正人の少しひっかかるあいさつに顔をしかめるくらいなら普通。


宮村雪彦みやむらゆきひこだ……とりあえず殺す気がないのはわかったけど、まだわけわかんねえよ。その、ファントムっていうやつにとりつかれた別のやつはだいじょうぶなのか……ですか?」


 アヤメさんに対して敬語で言いなおしたことは笑わないであげる。


「雪彦さんと同様に、攻撃を望んでいるとは考えにくいですが、結果としてそうなる可能性もあります。すでに石像を使いはじめていると思われますので、対策を急ぐ必要があります」


「え? じゃあなんで、こんなところでのんびり話して……」


「あんたを説得するためでしょうが!」


 つい頭をはたいてしまい、正人とさっちゃんに取り押さえられるわたし。


「でもよかった。宮村くんと話すのこわかったけど、今はなんだかだいじょうぶ」


 さっちゃんがそう言ってにっこり笑うと、雪彦くんは照れて目をそむける。


「オレだって、女子を怖がらせるようなことは、やる気ねえよ」


 正人はほほえんで見守るけど目は笑ってない。


「ちっ」


 聞こえる舌打ちまでしやがった。それはともかく。


「わたしはさんざんどなられたり突きとばされたりしたけど?」


「はあ? おまえのどこが女子だよ?」


 思わず蹴りを入れるわたし。今度はみんなも止めなかった。


「親睦を深められたようでなによりです。この人数であれば、修復も操縦もだいぶ余裕があります」


 ほほえむアヤメさんの背後で、褐色むちむち美女……ツバキさんが地面に耳をつけていた。


「石像。六体。数分の距離」



「救助に来てくれた人だったりしますか……?」


 弱々しい笑顔のさっちゃんに、正人は苦笑いで答える。


「残る遭難者の内、ひとりはオバケつきみたいだし、もうひとりも無事かわからないから、期待しすぎるとがっかりするかもね」


「オバケつきなら殺されるかもしれないって話をした直後に、どんだけ能天気なんだよオマエ」


 雪彦は悪霊にとりつかれていなくても十分に性格が悪い。わたしはわざと勢いよく手をあげる。


「ハイ! 質問! 石像が六体だと、操縦する人が足りないはずでは?」


「操縦用に調整したタコプリンを使っていると思われます」


 そんなこともできちゃうのか……タコくんが便利すぎてつらい。




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