表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

35/36

12-2 涙はおやつに入りません。


『警戒スル』


 みんながわたしを心配してくれるのは、この島の中だからだ。

 わたしは石像の操縦が得意だから、この島ではみんなの役に立つ。頼ってもらえる。

 帰れるようになったら、みんなもうわたしには用が無くなって、邪魔に思われる。避けられる。

 陰で悪口を言われる。『いなくなればいいのに』って思われる。


「やっぱりトモちゃんてすごい。ともだちのために悪いやつと戦って、先生までひどい人なのに、ずっとがんばっていたんだ……」


 さっちゃんがそんな風にほめるのも、油断させて逃げたいから?

 まだこの島では役に立つから?


「……でもトモちゃん、ひとりでがんばりすぎ。わたしにも手伝わせて」


『警戒スル』


 なんだろう、さっきから頭がグチャグチャする。

 誰かに中身をふりまわされているみたい。


『……』



「おい友恵! だいじょうぶかよ!? ファントムの野郎が、なんか無茶させてんのか?」


「ファン太郎、とりつく相手の体調管理くらいちゃんとしなさいっての!」


 ユッキーとキョンちゃん……なにをあわてて……あれ?

 いつの間に研究書庫を通り過ぎて……それにこっち、岬の神殿だ? 管理塔へ行かないの?


『警戒スル』


 うるさいな。さっきから頭の中で、ずっとボソボソと……


『……』


 雨が……弱まっている?



「また止まってんな? 強の緑ファントムほど強制力はないんだよな?」


「でもツヨポンみたいに、急にもどることもない……時間をかけて準備していたせいかね? トモチンが本調子なら『疑うなら、さっさと撃って!』みたいに出てきてくれそうなのに」


 ユッキーとキョンちゃんは、なんでファントムのことなんか話して……

 このままだと危ない……なにが?

 置いてかれる……なんで?


「早くそうなってくれないかなあ? もうわたしのユニコーンもけっこうボロボロだから。トモちゃんが本気だったら、とっくに馬刺しだったけど」


 わたしが本気じゃない?

 ……わたしが本気で、さっちゃんの乗るユニコーンを壊すと思うの?


『警戒スル』


 ペガサスも来た……たぶん強くんだ。じゃあ正人がタイタンを修理中?


「おうユッキー、みんなボロボロじゃのう。ワシもまぜいや」


「休み時間のドッジボールじゃねえ……って、なんで正人はわざわざ岬の神殿へ移動したんだ?」


「管理塔から離れるほうが、友恵ちゃんも安心するとか言うとった。あのデカブツを馬でひきずるのは大変じゃったぞお」


 タイタン、岬の神殿にいるんだ。

 正人は修理が速いから……今、どれくらい時間たっているんだろ?

 森が途切れて、見慣れた神殿の丘と、広い砂浜が見えてきた。

 太陽はもうかなり海の近くまでかたむいている。

 雨はやんだけど、まだ体は重い。



『警戒する』


 なんでいつのまに、こんなに時間がたっているの?

 なにか……だまされている!?


「幸代ちゃん、えらいがんばったのう。ワシが前に出るから、少し休んどれや……ほげあ!?」


「ボケ強! いきなり直撃くらってんじゃねーよ!? ケンカバカなら、まじめによけろっての!」


「すまん、すまん」


 ほかのみんなも、あと少しで壊せそう……でもわたしのドラゴンも、たくさん細かいひびが増えている……囲まれたら危ない。


「じゃがケンカなんぞせんぞ? 勝負ならとっくについとるからのう」


 そんなことない。

 タイタンが来ないうちに数を減らせば、わたしは勝てる。

 でも強くんのペガサスに本気で避けられたら、当てるのは難しい。

 カワンチャの剣や、ワイバーンのしっぽも邪魔するだろうし。


「ワシら『六人』の勝ちじゃ。みんなに元気をぶんまいてきた友恵ちゃんにとりつくようじゃ、悪霊も運のつきじゃ」


『警戒スル』


 じっとしているだけのさっちゃんも油断できない。

 怖がって逃げているんじゃなくて、修復の時みたいにじっくりと、なにかをねらい続けている。


「今度はみんなが、友恵ちゃんにもらった元気を返すんじゃ。オバケ一匹なんぞに負けるかい」


 ……強くん、あいかわらずかっこいいな。

 神殿に近づいて、砂浜に大きな文字が見えてきた。


『西一色小 5-1 日賀強 大勇者』


 ……わたしなんで、強くんと戦おうとしているの?


『警戒スル』


 タイタンがいつくるかわからない。

 タイタンがくれば、ドラゴンなんかいらないと思われる。


「帰ったらもう、わたしのことはいらなくなる」


「なんのことじゃあ?」


「友恵のやつ、学校でなんかすげーやなやつらにからまれているらしくて……あらかじめ言っておくけど、いきなり病院送りとかやめろよ」


「救急車より坊さん呼んどけや」


 強くんのペガサスへ、キョンちゃんのワイバーンが羽根でツッコミを入れる。


「その勢いはアタシが使いたおしてあげるから。とゆーか、とどめはアタシがゆずらないから。帰ったらまたすぐ、トモチンといっしょに作戦会議だなこりゃ」


『亀戸東小 5-3 川森今日子 ツンデレ』


 ……またすぐ? いっしょに?


『警戒スル』


 ちがう。今だけだ。


「ひとりで残されるくらいなら、みんな帰れなくなるほうがいい」


「……オレいつのまにか、そういう感じの忘れていたな」


 ユッキーのカワンチャは足をひきずりはじめている。

 ペガサスがいなければ、もうしとめていたのに。


「最初は二度と帰れないとか、つぶし合いになるとか考えていたのに、ずっと友恵がアホみたいに元気だったから、いつのまにか気楽にすごせていた」


「うおユッキー、いきなり告白タイムかいやあ!?」


 ユッキーのカワンチャが抱きついてきた!?


「ばっ……強、てめ、このタイミングで変なこと言うんじゃねえ!? オレはただ、正人が来てるから……」


『砂町北小 5-1 宮村雪彦 男の子』


「雪彦くんは正人くんが来る前に急いで抱きつきたかったの?」


「ちげーよボケ幸代! 動きを止めてんだよ!?」


 カワンチャを早くはがさないと……!


「じゃあ、わたしだってトモちゃんに抱きつく……きゃっ!?」


 あ…………蹴っちゃった……さっちゃんなのに。ユニコーンの頭、蹴っちゃった……もうだめだ。もう嫌われる。もう終わりだ。

 倒れたユニコーンはズルズルはいずってわたしの足にしがみついて、うれしそうな声を出した。


「トモちゃん、つかまえた」


『上松江小 5-2 篠原幸代 本気はすごい』


 ご、ごめん、シッポでどけるよ? ……シッポが重い? 強くんのペガサスにつかまれている!?


「幸代ちゃんは、いつもボケか本気かわからんのう」


「おい今日子、ちゃんと腕をおさえろって!」


 ユッキーとは逆に、背中からキョンちゃんも!?


「蛇は使いづらいんだってば! 知ってるでしょ!?」


『警戒スル』


 どうしよう、動けない!


「トモちゃん、暴れないで~。ユニコーンが壊れちゃう~」


 さっちゃんこそ放して!? 強くんも……


「それで聞いてくれよるなら、おさえる必要もないんじゃがのう」


「熱いハグ大会だね。ぼくだけ参加してないなんて、どうかと思うよ」


 正人のタイタン! ドラゴンが壊される! みんなが変わっちゃう!


「オバケさん、トモちゃんを止めて~」


「ぼくもまぜてー!」


「アホか!? 正人まで抱きついてどうすんだよ!? オマエの攻撃を当てるためにオレらが……」


「ごめん、まだ歩くのでせいいっぱい。でも『抱きつく』だの『告白』だの聞こえたから、つい修復を投げ出して……というのはたぶん冗談だけど、このまま日暮れまで待てば、石像は動けなくなって、生身でのハグ合戦にならない?」


『下小松小 5-1 鈴木正人 こどもずき』


「いやいやマサポン、まさかミサイルも撃てない状態で出てきたの!? もうカワンチャもアタシのワイバーンも一発しかないし、かすり傷でも倒れそうなのに……オバケの始末に困ったら、アンタの口に押しこむからね!?」


 どうしよう。おきざりにされかけているのに。

 わたし今も……少し楽しい。

 みんなといっしょにいられる今は、楽しい。


『警戒スル』


 でもこれは日が沈むまで。

 ドラゴンが倒されたら、終わり。

 みんなの石像を壊して管理塔も使えなくすれば、もっといっしょにいられる。


 ……そんなのやだ。


 みんなが帰れなくなるくらいなら…………ひとりでもいい。


『警戒スル』


 うるさい。

 わたしが残れば、みんなは帰してくれるんでしょ?


「ねえこれ、正人くんが書きなおしたの?」


「なんじゃ幸代ちゃんはまたこんな時に……ああ、それだけはタイタンをなおす前にって……さすがは正人じゃな」


 ペガサスとユニコーンは近くの砂浜を見ていた。


『南逆井小 5-2 大場友恵 やさしすぎ』



「おいユッキー、友恵ちゃんは、どうしたんじゃあ?」


「ときどきこうなるんだよ。でも動くことは動くし、いきなり暴れたりするから……おい幸代!? なにやって……あぶねえって!?」


 さっちゃん……なんでユニコーンから出ているの?

 あぶないってば!? みんなでしがみついているから、こすれて破片が飛びまくっている!


「さっちゃん、もどって! わたしが島に残るから!」


「だめ。トモちゃんといっしょに帰る。正人くん、上に運んでくれる?」


 さっちゃん? なにをそんな笑って平気そうに……ちがう。すごいふるえているのに、なんで!?


『警戒スル』


 さっちゃんが死んじゃう!


「おいおいサッピョン落ち着け~。死ぬからもどりなさいって~」


 おねがい今日子ちゃんの言うとおりにして……正人はなんで手に乗せてんの!? そんなに高く持ち上げたら……


「ファントムくん、君の負けだよ。さっちゃんを危険にさらすなんて、トモちゃんが一番いやがることをして、補助としても管理としても、最悪の失敗をしている。舞島さんひとりの時よりもひどい状態にしたいの?」


『……警戒スル……』


 ドラゴンから出たら終わり……でも、いい。

 さっちゃんを傷つけるくらいなら、わたしが終わる。


「トモちゃん、もうすぐ石像も動かなくなっちゃうから、出てきて~」


「だから出る……って、さっちゃん!?」


 ドラゴンの鼻先にぶら下がったりしたらあぶないよ!? すごいどころか無茶苦茶だよさっちゃん!?


『警戒スル』


 うるさい! わたしが残るってば!


『……』


 ……なんで出たらいけないんだっけ?

 とにかく出よう……なんでさっちゃん、そんなうれしそうに笑ってんの?


「トモちゃんのこと、大好き」


 ……なんでわたしは涙が止まらないの?


「トモちゃんが出てきた! みんなそのまま動かないで!」


 正人がやっと、さっちゃんを降ろしてくれた。

 ……ユッキーの黒ガイコツがわたしに手をのばしている。


「友恵も早く降りろって。そこじゃ紫オバケを撃てねえから……降りたらオレも行く」


 わたしの髪の内側に、夕日を避けて隠れるように、紫の光るもやがうごめいていた。

 なのにみんな、わたしが降りたとたんに生身で駆け寄ってくる。


「おう、ミサイルならワシがつきあう。ユッキーはカワンチャで撃たんとな」


「ワイバーンにも一発あんだろ。ていうかオレは借りが……」


「待て、ぼくをさしおいてなにをしている」


「わたしも~」


「アンタら、集合写真じゃねーんだから……うらっ」


 バフォッ


「今日子、てめ、いきなり撃つんじゃねー!? 友恵かてめーは!?」


「ノリがうっとーしーから、つい」


 足元にタコプリンがつぶれている。

 オバケがとれた…………そうか。


「別に誰かが残る必要なんて、なかったんだ」


「そうそう」


 ワイバーンから降りてきた今日子ちゃんは人さし指を口の前に立てて、みんなに『静かに』のサインをだす。

 オバケがとれた直後だから、考える時間をくれるらしい。



「そうだ……お父さんもお母さんも、きっと心配しまくって大変だ……なにやっていたんだろ」


 みんなが心配そうに見守ってくれている。


「……でも、これ以上なにか考えても、あまり変わらないかも。やっぱり、みんなと離れるのはこわいし……」


「トモチン、心配すんな。これからはアタシが守る。バカ三匹ボケ一匹だってもれなくついてくる」


 キョンちゃんはやたら頼もしく笑う。


「う~、でもなんというか、やっぱり、ごめん。せっかくみんな帰れそうだった時に、ぜんぶダメにしそうだった……」


 涙がなかなか止まらない。


「ここまでひっぱってきたのは友恵だろ。これくらい、気にすんな」


 こんな時だけ、そんなすなおに優しいことを言うなユッキー。


「ぼくなんか、最初から最後までトモちゃんに頼りきりでなんとかしてきた。あはは」


「男どもは帰る前にちいとは借りを返しておかんとカッコつかんから、ちょうどよかったくらいじゃ」


 どれだけ出るんだか。止まらないぞ涙。

 でもドラゴンの中でたまっていたドロドロが、ぜんぶ流れ出ていくみたいで気持ちいい。


「トモちゃん、ありがとう。わたしずっと、トモちゃんがいるから安心できていた」


 さっちゃん、さらに泣かせる気かー。


「帰ったら、どこで集まろうか?」


 さっちゃんはそう言ってわたしを抱え、頭をなで続けてくれた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ