12-1 後悔はぜんぶひろって帰りましょう。
やっぱり、わたしひとりが置きざりにされる。がさつで乱暴だから。
雨がドラゴンの体にからみついて、ぬれた服を着ているみたいに重い。気持ち悪い。
「潜伏型のファントムは、トモちゃんの中にいたんだよ。浜辺に打ち上げられて眠っている間に、もうとりつかれていたんだ!」
『警戒スル』
みんなで正人を置いていこうとしたのに、わたしが邪魔したから、今度は正人とみんながわたしを置いていこうとする……クラスの子たちといっしょ?
『警戒スル』
タコさんたちがほしいのは新しい管理人だから、誰かひとりを残せば、あとのみんなは帰れるかもしれない……どうしよう。わたしだけ置きざりにされる。
みんなの石像、壊しておかないと。
「マジかよ!? ドラゴン相手じゃ、タイタンくらいださねえと話になんねえだろ!?」
ユッキー、もう戦うつもりなんだ?
「わたしはもう敵なんだ? 邪魔なんだ……わたし、この島でもずっと、みんなに嫌われるようなことをしていたから……」
「いや、誰もそんなこと言ってねえだろ? ……おいおい、正人たちと会ったばかりのオレって、こんな感じだったのか?」
「わたしは修理とか苦手で、さぼったり文句ばかり言ってたし。作戦の指示を守れなくて、ドラセナさんを歩けなくさせちゃったし」
この島で会ったみんなは、今のクラスの子とはちがうと思っていたのに。
前の学校の子たちみたいに、ケンカをしても仲直りできて、大事な時には助けてくれると思っていたのに。
「ふざけて蹴ったりたたいたりしちゃったし、それなのにちゃんと謝らないで、笑ったり怒ったりでごまかしていたし……」
「そこはマジで反省してくれ。いや、だからって、そんなことでケンカする気はねえからな? オレも……少し言いすぎの時はあったかもしんねえし」
この島で会ったみんなだったら、わかってもらえるはずだと思って……
今まで力を合わせてがんばってきたんだから、なんとかして、わかってもらいたい。
もう少しだけ、いっしょにいてもいいでしょ?
もっと、いっしょにいたい。
このまま、わたしのことを嫌いになったまま、わたしひとりだけを置きざりにして、どこかへ行かないで。
『警戒スル』
でもわたしはもう敵なの?
石像を壊さないと、ちゃんと話を聞いてもらえない?
「みんなは……特にぼくは、そんなこと気にしてないよ! トモちゃんのことは全力全開で愛しているからね!?」
正人はいつのまにか、強くんペガサスの背中に乗っていた。
ツバキさんもいっしょだ。それは逃げる準備だよね?
「さっちゃんとかキョンちゃんよりも?」
「うっ……同じくらい!」
「どうせわたしもツバキさんに比べたら、ついでにからかっているだけなんだよね?」
どうしよう。やっぱり置いていくつもりなんだ。
助けてあげた正人でも、わたしを仲間はずれにするんだ。
「あちゃあ、マー坊サイテーだね~」
「正人くん、反省したほうがいいかもね」
今日子ちゃんだけでなく、さっちゃんまで同意した。
「反省しますから、みんなぼくを見捨てないでえ!?」
「アホじゃのう。目うつりして落とせるほど甘い女子たちじゃなかろうが」
強くんのペガサスが正人とツバキさんを背に走りはじめる。
「でもぼくも、これだけは言わせてもらうけど! めんどうな遭難サバイバルが、ウキウキ合コン遠足になったのは、トモちゃんと会えたおかげだよ~!」
「だったら逃げないで、わたしの話を……」
「アホか。あのエロバカとカッコつけバカが女子を置いて先に帰るとかありえねえだろ」
ユッキーはそう言うけど、その間に強くんと正人は逃げた。
ほ、ほら、近づいたらユッキーも今日子ちゃんも離れる。
「トモちゃん、話ってなあに? わたし、ちゃんと聞いてるよ?」
さっちゃんも本当は逃げたいんでしょ?
「幸代!? 少しは距離とれよ!」
「うーん。でも、あまりはなれちゃうと……」
さっちゃんも、ユッキーと今日子ちゃんをかばって前にいるだけ。
みんな、わたしが一歩近づくたびに、一歩逃げて行く。
『警戒スル』
……今のクラスの子たちといっしょだ。
わたしがかばってあげた子も、わたしを避けて仲間はずれにしてきた。
先生もクラスのみんなも、わたしが邪魔だったから、沈む船の中で置き去りにした。
この島で会ったみんなも、もうわたしが邪魔になったんだ。
お願い、待って。
ドラゴンのしっぽが当たる前に、さっちゃんユニコーンは今日子ちゃんワイバーンとユッキーのカワンチャがひきずって離していた。
「おどろいた~。でも、もうだいじょうぶ。ユニコーンなら速いから、わたしでもよけられる……かも」
さっちゃん、なんでそんなに落ち着いているの?
すごい怖がりで、ケンカをすごい嫌がっていたのに……わたしがドラゴンで攻撃したのに……?
『警戒スル』
さっちゃんも、少しは慣れたのかな?
「強の時と同じだな。たまに動きが止まる」
ユッキーたちは……わたしの動きが止まりそうなことを言っているだけ?
「トモチンらしくない考えや行動にぶつかると、オバケは誘導操作する必要があるわけね?」
わたしらしくない? 今日子ちゃん、わたしらしさってなに? 乱暴でガサツでうるさくて……
「友恵が幸代を攻撃する時点で、無理がありすぎなんだよ」
ユッキー……なんで無理だと思うの? わたしは乱暴だから……
「トモちゃんが優しいから、オバケさんも困っているんだね」
さっちゃんのユニコーンがなぜか、照れ笑いしているように見える。
『警戒スル』『警戒スル』
油断させて、時間稼ぎをしているの? 頭の悪さが、わたしらしさ?
雨が強くなっていて、まわりが見づらい、声も聞きにくい……
「でも、どうすりゃいいんだ? とにかく友恵をドラゴンから出して、ミサイルを当てるしかねえんだろ?」
「タイタンと合流できても、トモチンのドラゴンに本気をだされちゃ厳しいやね~」
ユッキーもキョンちゃんも、なんだかそれほどあわてていない……?
『警戒スル』
そうか。本当はもう楽勝なんだ。
みんな戦いに慣れてきたから、タイタンを修復して合流させれば、わたしなんか簡単に倒せるんだ……!
「あっぶね!? 強とちがって、くる時いきなりだな。カワンチャだとドラゴンと足の速さ変わらねーから、少し先いくぞ? ……でも別に、見える位置にいるから、あせるなよ友恵?」
「ユキポン、うぬぼれてるねー。『あせるなよ友恵』ってなに? 彼氏きどり? アンタにあげるくらいなら、アタシがもらうからねー?」
え……え? キョンちゃん?
『警戒スル』
「勝手に言ってろ。オレはこんな友恵を見ているとむかつくだけだ」
あ……やっぱりユッキーは、わたしを嫌っていたんだ……
「強の時と同じだ。うぜえくらいのおせっかいバカが、それと真逆のことをやらされてんだぞ? 見てらんねえよ。さっさと元にもどれっての」
「うわあユキポン、それもう、ほとんど告白じゃね? で、強とトモちゃん、どっちが本命?」
「なんでそうなるんだよ!?」
そ、そうだよね。ユッキーもどなるほど嫌がって……
「え。でもわたしも『いつもの優しいトモちゃんに早く会いたい』って意味に聞こえたよ?」
「さ、さっちょん、そこまでメルヘンチックな直訳はアタシもさすがに恥ずい……」
今日子ちゃんのワイバーンだけでなく、ユッキーのカワンチャも目をそらした……照れてる?
『警戒スル』
いけない。手が止まっていた?
タイタンはそんなすぐには修復できないはずだけど……あれ? わたしたちいつのまにか、研究書庫の近くまで来ている? もうそんなに時間がたっている?
「ほら見ろ。あんまりアホな言い合いしたせいで、オバケも困ってるじゃねえか。友恵になにやらせてくるかわかんねえぞ?」
「まあでも、トモちゃんならだいじょうぶだって」
やっぱり今日子ちゃんはもう、楽勝だと思っているんだ。
ドラゴンを倒して、わたしだけ置きざりに……
「やっぱりオバケつきでも、トモちゃんはトモちゃんだよ。ドラゴンに勝つのは無理でも、中にいるのがトモちゃんなら、助けることはできるって」
助けるって? 置きざりにするんじゃないの?
『警戒スル』
置きざりにするのが助けることだと思っている?
……たしかにわたしは、もどりたくないと思っていたけど……あの学校には、行きたくないから……
「もどりたくない。わたしを船で置き去りにした、あのクラスにはもう……」
転校して最初に仲良くなった子が、いじめられていた。
わたしはいじめていたやつとケンカになって、わたしだけ先生に怒られた。
なにを言っても先生は「口答えする前にあやまれ」しか言わなかった。
いやだけどあやまってから事情を説明しようとしたら「悪いと認めたくせにいいわけするな」って、やっぱりなにも聞かなかった。
わたしのお母さんにまで「からかわれただけで、いきなり乱暴した」と説明されてしまった。
いじめられていた子まで、先生と同じことを言いはじめた。
そしてわたしは教科書に落書きされたり、靴を隠されるようになって……大勢でコソコソして、誰がやったかも知っているくせに黙っているみんなにムカついて、何度もぶつかった。
先生はわたしを『問題のある子』として「このままだと転校してもらうしかない」って、お母さんをおどしてきた。
「わかったトモチン。帰ったらアタシもいっしょにそいつら退治する」
キョンちゃんは黙って聞き終えてから、即答した。
「最初はそう言ってくれる子もいた。『わたしもひどい目にあったから、いっしょにがんばろう』って……」
でも今もユッキーたちはわたしの爪から逃げ続けている。
話を聞いてくれているけど、本当は帰りたいだけ。
帰れたら、きっとぜんぶ忘れてしまう。
「……心配してくれた子も、わたしを避けるようになった」
いじめていたやつは親が『えらい人』で、前の担任をクビにしたことを自慢していた。
虫メガネで女の子の髪を焼こうとしたら腕をつかんでしかられ、それを『暴力をふるわれた』ことにして、校長先生に家まで謝りに来させた……そんなことを笑って言うような、最低のやつだった。
そんなやつと仲のいいやつらがクラスの中心で、わたしを心配してくれた子も、いっしょに嫌がらせをされるようになってからは、わたしから目をそらすようになった。
「トモチン……あまりこの今日子ちゃんをなめないでほしいな……ってか、ふざけんな。アタシらがそんな連中と同じあつかいかよ?」
キョンちゃんのワイバーンが無防備に顔を近づけてきて、その羽根をユッキーのカワンチャがつかんで止める。
「正人なら、いろいろエグい手口とか知ってそうだな。というか強が聞いたら、ぜってーなぐりこみにいくだろ。迷惑じゃなきゃオレも行く」
「ユキポンお子ちゃまねー。『いじめ』とか呼ばれる『校内犯罪』の対処は、まず弁護士だってば。さわぎを大きくしない収めかたも含めて相談できるから……でも告訴状を片手に話し合うほうがよさそうなら、証拠集めはアタシも手伝う」
『警戒スル』
そこまで言うなら、なんでキョンちゃんはまだ逃げるの?
やっぱり今だけ、ともだちのふり?
……でもわたしが立ち止まれば、みんなも止まってくれる。
『警戒スル』