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11-3 戦場は死体で遊ぶところではありません。


 ……管理?

 さっちゃんを困らせるようなことはしたくないなあ。

 ぼくが石像や管理塔を使ってやりたいのは戦争や支配なんかじゃなくて、調査や救助や防衛……それって結局は戦争にすりかえられそうでやだな。


「そう、ただちょっと、女の子の気をひくネタをかましたいだけ! 壮絶な石像のむだづかいかもしれないけど!」


 うん、それならオバケつきでも女の子を悲しませることはなさそうだ……とか考えている間に、ドラゴンたちはもう来ていた。


「正人がまさか、強よりアホくさい暴走をかますとは……ていうかアレだと、本当に操作されているのかわかんねえぞ?」


 ユッキーにひとりごとを聞かれていたか。


「紹介しよう! これが自信の新作『ジャイアントゾンビ』だよ!」


 ユッキーのカワンチャは失礼なことに、紹介を無視して前列のゾンビを斬りはじめていた。

 ワイバーンも同じく……動きからすると、キョンちゃんが舞島の機体をぶんどったかな?

 なんてこった……『ガスト』の解説をする時間がない!?



 でもドラゴンはなぜか動かなくて、ユッキーも気にしている。


「友恵、なに突っ立ってんだよ!?」


「だって正人くん、なにもしてないじゃん。これじゃまるで、こっちがオバケにとりつかれているみたい……」


「だいじょうぶ! ぼくはドラセナさんに可能性が高いって言われてるから、遠慮なく!」


 最初にゾンビの壁を突破して、ジャイアントゾンビへ角をつきたてたのはユニコーン……さっちゃんだった。


「正人くんはわたしがケンカを大嫌いなこと知っているから、ふざけてでも戦おうなんてしない」


「ケンカじゃなくて、出荷しそこねた在庫を一掃するサプライズ性能試験だってば~」


「その冗談みたいな態度が、正人くんなりの抵抗なんだと思う。悪霊がどんなに誘導しても、正人くんを本気でわたしたちと戦わせることはできなくて……ふざけた戦いかたで、早く負けようとしてくれている」


 さっちゃん、ぼくを美化しすぎだよ。

 これでぼくにオバケがついてなかったら気まずいな~。


「きゃっ!?」


 ガストが左右からとびかかって、さっちゃんに悲鳴を出させる……それがドラゴンの逆鱗にふれてしまった。

 ガストたちは蹴り飛ばされ、尾で打たれ、バタバタと倒される……さすがトモちゃん。


「じゃあ、とりあえず正人にもミサイルを当ててみる?」


 ドラゴンの爪とジャイアントゾンビの拳がかちあい、破片がごっそりと飛び散る。

 パワーは互角に近いけど、こっちがずっと柔らかいんだよなあ。

 そして二撃目の前に、横へまわりこまれてしまう。こっちがずっと遅い。

 追いかけて振りまわすぼくの腕はかわされ、ドラゴンの重い爪がみるみる巨大ゾンビの体をえぐり散らす。

 もう敗北の秒読みがはじまったみたいだけど、ドラゴン以外に対しても打撃を試しておきたかった……キョンちゃんが近いけど、ユッキーにしよう。

 ぎりぎりドラゴンの尾を受け流せたので、ガストのとどめに夢中なユッキーのすきだらけな後頭部を狙って……たたく前に、自分の後頭部をたたかれて倒れこんでしまった。


「このデカブツ誰じゃあ?」


 頼んでもいないのに消えていた強くんペガサスが、呼んでもいない時に駆けつけてきやがった。

 しかもいきなり、誰かも知らない相手の頭を蹴るか。

 キョンちゃんワイバーンも尾でようしゃなくひっぱたいてきて、どんどん動きが重くなってくる。


「ここまでかな~? じゃあタコくんたちも止まって、降参して」


 今日子ちゃんに踏みつけられている内に降参しよう。

 ユッキーや強くんにとどめを刺されてしまうと『君の愛で目がさめた』とか言えなくなる。


「いやもう、タコどもは全滅しとるようじゃが……まあ、神妙に出てこいや」


「ねえ、ミサイルは撃たないで、ちょっと様子を見ていい?」


「アホか。友恵が撃たないならオレが撃つ。というか正人ならオレに撃たせろ」


 げ、トモちゃんじゃなくて、ユッキーの投げキッスでおめざめはちょっと……せめてユッキーの時みたいに、誰か女の子が抱きつきに来てくれないかな?


「どうしたんじゃ正人? ミサイルがこわいならワシがいっしょに……」


「ツヨポン、それ永久に出なくなるから」


 ありがとうキョンちゃん……でもやっぱり女子は誰も来ないか。残念。



 もうちょっとやれると思ったけど、ふざけすぎたかな。

 倒せたのがさっちゃんゾンビだけとは。


「おう、出てきよった。無事にすんでなによりじゃ」


 ユッキーやキョンちゃんが戦い慣れてきたこともあるけど、やっぱりトモちゃんドラゴンが圧倒的だ。

 これで潜伏型ファントムの寄生主がトモちゃんだったら大変だけど、まあとりあえず最後の赤ファントムを倒してからでいいか。


「わぷっ!?」


 いきなりの突風で、厚く濃い霧雨をたたきつけられたような……ミサイルの直撃って、こんな感じだったのか。

 で……やっぱり別に、変わった感じはしない。

 オバケの死骸も見当たらない。

 ぼくに限っては本当にファントムが関係ない可能性もありそうで気まずい。

 どっちにしろ潜伏型の寄生主はもう、トモちゃんにしぼれそうだから、それよりは先に……ん?

 それって…………あとまわしにしていいわけないだろ!?


 こんな最重要の危険を不自然に見落としていたってことは、ファントムが最優先で隠していた最強の戦力……もうまちがいない!


「みんな、ドラゴンからはなれて!」



 操られていた直後のぼくが言うことなんて信じてもらえるか?

 でもみんな少しずつ、ドラゴンから距離をとってくれた。

 ドラセナさんも『トモちゃんが寄生主』である可能性はさっちゃんに伝えていたのか?

 ともかくも、刺激しないように誘い出そう。


「トモちゃん、念のためにミサイルを受けてくれる? というか、みんなでいっしょに、もう一度だけ……」


 気まずい間が長い。

 小雨がふりはじめて、昼なのに空は薄暗くなってきた。

 キョンちゃんのワイバーンが小さく首をかしげる。


「アタシとさっちゃんもね、ここへ来る前にみんなで一発、ミサイルをあびとこうって言ったんだけどね……かなり強引に『正人に当てて助けるほうが先』と言われちゃって……」


「それならもう、みんなでミサイルのあびっこしてもいいよね?」


 ぼくは笑顔で顔をうかがうけど、ドラゴンの沈黙はかなり長かった。


「やっぱり……わたしひとりだけ、置いていくつもりなの?」


 トモちゃんの暗く沈んだ声。

『船で置き去りにされた』と言った時の、ひどくおびえた表情を思い出す。


「ぼくはそんなつもりなくて……」


「正人だけ置いてかれそうになったから、助けてあげたのに」


 脈絡のない内容。かみあわない受け答え。


「みんな、わたしひとりだけ置いていくんだ?」




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