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11-2 具合が悪くなったら早めに連絡しましょう。頼むから。


 戦場墓地への移動中は、ドラセナさんとの会話がはずんだ。


「川森今日子は五体目の『潜入型』ファントムの手がかりとして、今回の遭難者が共通で見た夢に着目している」


「でもまさか夢の世界というか、意識の中へ直接くるんじゃ、対処しようがないよね?」


「五体目のファントムは、案内人の監視にかからない小型、細型、薄型の形状と推測される。これまで観察した分析も合わせると、人体の内部に潜む『潜伏型』の可能性も高くなった」


「それならたしかに、監視にも気がつかれないように布団の下から体をのばして接触できたか……だとしたらとりあえず、遭難者みんなにミサイルを当てれば解決かな?」


「鈴木正人は最も効果的な処理方法を発案できるが、なんらかの意識操作で実行を妨害される可能性が高い」


「でもミサイルは、舞島さんへ先に当てないとまずいような……あれ? そうでもないか?」


「舞島は管理塔ではなく、墓地の先にある古戦場の奥へ向かった可能性が高い。いずれにせよ対処は、五体目のファントムほど急を要しない」


「でもまあ、なにか大逆転がありそうなら、ぼくの新型も完成させがいがあるし、ちょうどいいよ。ドラセナさんもツバキさんも、もう『ファントムのことは言わなくていい』から」


「最優先にしている案内対象からの指示に、案内人は抵抗しがたい。それは人間的な判断を重視する安全装置になっているが、現在は適切な対処を妨げる要因になっている」


 案内人さんは人間を大事にしすぎるせいで、まちがった指示にも逆らいにくいのか……でもそれをなんで今、ぼくに言うんだろ?



 戦場墓地の前で、舞島さんらしきキャンプ跡を見つけた。


「舞島は生活の多くを案内人に頼っていた。なんらかの不調をきたしている可能性が高い」


 舞島さんはすでにいなかったけど、出発はかなりギリギリだったようで、ぼくの接近に気がついてから逃げたらしい。

 でも情けないけど、ぼくのカワンチャ一体では、タコくんゾンビ三体の助けがあっても危ないかも。

 相手はワイバーンとヘルハウンドのほかに、もう一匹くらいは考えておいたほうがよさそうだし。

 無理はしないで、あとからの追跡と包囲を楽しみにしよう。


 墓地の中の残骸を集めて『ガスト』二体を作成して、ツバキさんとドラセナさんにタコくんを入れてもらう。

 ぶっとおしの作業になっているけど、昼食の時間になっても食事をする気にはなれなかった。

 みんなが舞島さんを見つける前に、三体目の本命を完成させないと。



 石像の音がして、様子を見に行くとトモちゃんたちだった。

 ドラゴンとユニコーンだけで、強くんはまだ帰ってないみたいだ。


「舞島さんは川を渡って古戦場の先へ行ったみたい。ボクの新作はもうすぐできるから、カワンチャも連れて先に追いかけていて」


「正人まで……強じゃあるまいし、なにか言っていけ! あせっただろうが!」


「ごめんごめん。でもユニコーンの背でさっちゃんとアヤメさんに密着できた時間には感謝してほしいな」


「じゃあ、わたしは正人くんのお手伝いで修理しているね」


「それは困るなあ。せっかくのサプライズが……なんて、言ってられないか」


 もう修復の手は足りそうだけど、人間がユニコーンの背にいたら邪魔になりそうだ。

 しかたないので、残った残骸でさっちゃん自身が入るゾンビを作ってもらうことにする。



 すでに墓地の中にはガストが二体とゾンビが三体、タコプリン入りで待機させているから護衛は十分だ。


「なんかたくさん……あ、ごめん。サプライズはなるべく見ないでおくね。お邪魔します……」


 しまった。もしや『ガスト二体に自分たちが乗って出ればよかったのに』とか反論しにくいツッコミどころに気がついてる? あのほんわかした性格で、慎重な準備とか思ってくれたらいいのだけど。

 さっちゃんは気のせいかそわそわしていて、ぼくまで少し集中しにくい。


 ステキな男子とふたりきりでドキドキ……という発想は、あまりなさそうかな?

 トモちゃんもだけど、まだ男女交際ぽいことができてはしゃいでいるだけかも。

 もう一歩を踏み出すには、あせらないで時間をかけるしかないかな~?

 でも意外にも、さっちゃんのほうから話しかけてきた。


「今日子ちゃんから聞いたかもしれないけど……わたしずっと、みんながなにか不自然だと思っていたんだけど、昨日の夜、強くんに言われて気がついたの」


「家族への意識が薄れていたってやつ? やっぱりファントムの影響なのかな? 帰る意志を薄めるためとか……管理者を残すには都合がいいよね」


「やっぱりそう思う?」


 そして沈黙……なんだ今の話題?

 楽しい雑談をしたかった様子じゃない……さっちゃんの顔は、なにかおびえている?

 ぼくがファントムにとりつかれていると思っているのかな?

 まあ、みんなも操作されている自覚はなかったみたいだから、ぼくも影響されていない自信はないけど。

 でも自分自身をうたがっている時点でだいじょうぶなのかな……いや、さっちゃんも冷静にファントムを否定していたから、あまりあてにならないか。

 ドラセナさんもやけにファントムの処理を薦めていたし……



 さっちゃんがぼくを疑う根拠ってなんだ?

『家族への意識』がファントムの後遺症で薄れているなら……そうか。

 ファントムにとりつかれたことのあるさっちゃん、キョンちゃん、ユッキー、強くんに症状がでる可能性はあっても、ぼくとトモちゃんには症状が出ないはずなんだ。

 なのに同じ症状が出ていて、生身でミサイルをくらったこともない……そうなると、潜伏型ファントムの寄生主である可能性も高い。


 ……っと、いけない。さっちゃんが心配そうに見ている。

 こういうことを黙って考えているのがまずい兆候かな?


「ぼくはもう何分かで完成だけど、さっちゃんは?」


「うん。あと三分くらい」


 ……でもぼくは、母さんが仕事で半年くらい帰れない時も平気だったし……すごく残念だけど、舞島さんと似た変人のような気はしている。

 でもさすがに、遭難した時に何日も親へ連絡をとろうとしないのは不自然か。

 けっこう黒い灰色だな。


 あとトモちゃんも、あれだけ人なつこくておしゃべりなのに、家族や学校のことは聞いたことがない。

 船で置き去りにされたと言っていたから、ともだちのことはなにかあって話したくないのかもしれないけど、家族のことは……?

 やっぱり黒めの灰色だな。

 疲れているだけかと思っていたけど『仲間はずれアレルギー』もだんだん極端になってきたような……


 ……管理?

 まあ、潜伏型ファントムのことは、舞島さんにとどめを刺したあとでいいか。

 今はまず、新型ゾンビ軍団を活躍させなきゃ。



「すぐ追うから、さっちゃんは先に行ってて」


 さっちゃんゾンビがベタベタと出撃する。

 そのあとからタコゾンビ三体とタコガスト二体も次々とはい出る。

 そして最後に、ぼくの乗る巨大な新型が起き上がる。


「あはは。歩ける……歩ける」


 ゾンビにしては音声もかなりまともに話せた。

 どうにか間に合わせるため、修理できそうなやつまで材料にしたから、サイズのわりにはゾンビくらいの安定感もある。楽しい無駄づかいだ。

 ミサイルは……かなりしょぼくなったけど、使えるだけでもよしとしよう。

 一発きりでも驚かせる役には立つ。

 サイクロプスたちの死体を使った『ジャイアントゾンビ』は成功だ。


 さっちゃんゾンビは川を越えたところで足を止めていた。

 こっちを見上げている……おどろいた顔を見られないのは残念だ。


「舞島さんは今どこにいるか、わかりますか?」


 ぼくが聞く前から、ツバキさんはじっと地面に耳をつけていた。


「数分の距離。浜辺の泉の方向。ワイバーン転倒。舞島転倒。ティーポット大破。戦闘終了」


 えーと、それはつまり……


「この状況で舞島さんは午後のティータイムをとり、その最中にワイバーンとティーポットごとミサイルでふっとばされたのかな?」



 なんてこった。もう少しまじめにやってくれよ舞島さん。

 ぼくが昨日から何時間もタコプリンを頭にひっつけてコツコツ重ねた準備をなんだと思っているんだ。


「あの、正人くん。そんなガッカリしないで。あとまだオバケ退治があるけど、これだけの石像がいてくれたら、囲んですぐだよ」


「そうもいかないよ。もうこの際だからというか、みんなと戦ってみるにはいい機会かも」


「またそんな……えーと……本気じゃないよね?」


「もちろん冗談も三割くらいは。先に行って伝えてきて。ぼくがファントムにとりつかれて暴走してるって」


 ……管理?

 ドラゴンやカワンチャが相手なら、思うぞんぶん性能を試せる。

 勝てたら戦場墓地のほうはあげちゃって、ぼくが管理塔に陣取るかな?

 狭い山道なら、タコくんでも時間稼ぎをできる。

 もっといろいろ石像で遊べる。


「正人くん……?」


「本気にされていないと、不意打ちになっちゃうか。ガストのタコくん、さっちゃんゾンビにファイアー!」


「きゃ!?」


 倒れたゾンビから、さっちゃんがはい出てくる。

 まずい。なんかわりとまじめな顔で見上げている。

 ……ぼくはやっぱり、ファントムの影響を受けているのか?

 それなら、管理する方向に意識が動いているはず……ファントム退治の前に石像を整理して、操縦者によるちがいとかも調べておきたいけど……

 この島にはしばらくいるにしても、ときどきは家に連絡できないとみんな困るよな……家のことを考えているってことは、だいじょうぶなのかな?

 でも万が一にもツバキさんたちを人質に使うとかは勘弁だ。


「ツバキさん、さっちゃんとドラセナさんをトモちゃんのところまで運んでもらえますか? えーと、ふたりとも『ぼくよりさっちゃんの案内を優先』で」


 こう言わないと案内人さんたちは、ぼくが『優先』させていた指示に束縛されたままだ。


「鈴木正人はファントムに意識を操作されている可能性が高い」


 束縛を解かれたドラセナさんの第一声だった。

 ドラセナさんが言うなら確定かな?

 ツバキさんはドラセナさんとさっちゃんをかついで駆けだす。

 さっちゃんは遠ざかる間も、ぼくをじっと見つめていた。


「正人くん、いっしょに帰ろうね」




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