11-1 旅先でたくさん学ぶといっても限度は考えましょう。
ぼくは女の子にしか興味がない。
恋愛とか、ただのエロでもいいけど、そのあたりだけはもっと知りたい。
ゲームやマンガも楽しいけど、拷問みたいに退屈な授業をがまんする役には立たない。
期待しすぎな母さんとか担任をあしらうのはしんどいけど、別にあの人たちを嫌っているわけじゃない。
でも自分を壊せるくらいに好きになれるものがほしい。
なりたい職業、やりとげたい仕事なんかない。
もし自分があと一年とか一ヶ月で死ぬとしたら、とことん好きになれる人がほしい……結局は母さんと似ているのかも。
母さんが恋をした相手は、すでにほかの女性と結婚していた父さんで、ひとりでぼくを産み育てて、迷ったことはないらしい。
『ドウシタイ?』
この島はいろいろすごい……けど、ぼくがほしいものとは関係が薄そうだ。
価値があるのは、みんなと仲良くなれた時間だけ。
トモちゃんとさっちゃんとキョンちゃんと……もちろん案内人さんやタコくんたちや、ついでに男子どもを含めて。
『管理スル』
舞島さんを管理人にもどしてから帰る……それまでは、このちょっと変わった遠足を楽しんでいく。
『管理スル』『管理スル』
石像は作るのも戦うのも、ゲームとしてはおもしろいけど……
『管理スル』『管理スル』『管理スル』
……石像は作るのも戦うのも、ゲームとして最高だよね。
『管理スル』『管理スル』『管理スル』『管理スル』
目がさめると、太陽はもう地平近くに出ていた。
ゾンビ三体はタコくんたちが仕上げてくれていた。
これだけたくさんいると、さすがに早いな。
人間も共同で修復作業をできたら、さっちゃんやキョンちゃんとより親密なスキンシップをはかれるのだけど、二兎を追う者は一兎も得ずだ。
修復は修復で、ふたまたはふたまたで集中したほうがいい。
……管理?
そうだ……新型ゾンビを急がないと、舞島さんのとどめに間に合わない。
慎重に……という建前で戦力増強しまくって、派手に石像をくりだして最終決戦を盛り上げないと。
「正人さん、おはようございます。強さんが明けがたに岬の神殿へ向かいました」
「えっ、強くんはまた、なんだっていきなり……」
昨日の総力戦も、あの暑苦しい脳筋が独走したせいでギリギリになって……好勝負になったのはいいけど、ぼくの見せ場はなかったからなあ。
昨日、管理塔へ向かったこちらの布陣はドラゴン、カワンチャ、ビースト、ペガサス、ユニコーン、ローパー、それと予備にただのゾンビも一体だけ引きずっていた。
ぼくのローパーはすぐに壊される予定で、さっちゃんのペガサスはツバキさんとアヤメさんを乗せた救助班だ。
実質で攻撃できるのは四体だから、慎重に各個撃破しようと配置を考えている最中だったのに強くんが消えて、トモちゃんの『仲間はずれアレルギー』を考えると、冒険バカを置き去りに撤退することもできなかった。
左側の小山で強くんのビーストが交戦をはじめ、反対側からも敵が姿を現す。
そしてやっぱり、両方とも大型でミサイル持ちのワイバーンだった。
中身がタコくんでも、なかなかやっかいな相手になる。
「強くんは放置して……いや、強くんが一匹を抑えているうちに、こっちを集中的に速攻しよう!」
舞島さんの戦力はまだまだいるはずなので、一体でも大型をつぶせたら手早く逃げたかった。
こちらのミサイルはドラゴンの一発きりしか残ってない。
ぼくはローパーでトモちゃんドラゴンをかばって先行し、ワイバーンへつっこむ。
ユッキーのカワンチャもまわりこむ位置へ。
でもさすがに、それほど予定どおりにはいかない。
舞島さんはそこで全戦力を出してきた。
「正人! 変なのきてる!」
正面方向から現れた巨人は胴体がタイタンに似ているけど、腕と脚は先が大きく広がって、頭が帽子のように長い。
ドラセナさんが予測していた切り札のミサイル巨人『スルト』だ。
「火炎巨人にふさわしく、ミサイルはドラゴンと互角な威力と回数という高性能機体……でも中途半端に北欧神話を混ぜておきながら、伝承に反して剣もなく、黒い体ですらないってどういうことですか舞島さん!?」
ツッコミは入れたもののローパーはすでにワイバーンにかみ殺されていて、誰にも聞こえてなかった。
そのワイバーンもトモちゃんドラゴンになぐり倒され、ユッキーのカワンチャがとどめを刺す。
スルトのミサイルは大きくて、トモちゃんはかわしたつもりでも尾に当てられ、バランスを崩してしまう。
「おい正人! 後ろからも来てる!」
ローパーから出ると、後方の左右からヘルハウンド二匹とワイバーン一匹がせまっていた。
挟まれてしまった……この数のミサイル持ちはさすがにまずい。
最初に動いたのはキョンちゃんのユニコーンで、後方を横切るように駆ける。
ぼくを迎えに飛び出したツバキさんとアヤメさんをミサイルから守るためか……その動きがヒントをくれた。
「さっちゃんも後ろを走って、ミサイルをばらけさせて! トモちゃんとユッキーは巨人!」
砲撃が一発かすって、キョンちゃんユニコーンはよろめきながらも走り続ける。
さっちゃんペガサスが加わっても倒すのはきつい相手だけど、よけ続けて足どめくらいはできる。
その間にダメージ覚悟でスルトを速攻する!
かたまっていたらじわじわと戦力不足になるところだった。
ぼくはゾンビに乗り換え、カワンチャといっしょにドラゴンをかばいつつ、最初に突撃する。
残り三発の巨人ミサイルをぼくらで受けきれば、あとはトモちゃんの腕力に頼れる!
……震動が二回ひびいて、スルトの前に倒れこんだのはビーストだった。
消えた時と同様、突然に現われた暴走勇者は勝手に火炎巨人へつっこみ、すばらしい捨てゴマぶりを発揮する。
ぼくは最後の一発を喜んであびて倒れ、ドラゴンとカワンチャがみごとなコンビネーションでスルトへたたみかける絶景を観賞する。
後ろを見ると一角馬がヘルハウンドをめった刺しにして笑っていた。
今日子ちゃん、ユニコーンは癒しの力を持つ聖獣だよ。
さっちゃんペガサスはその近くでキョロキョロしている。
ワイバーンともう一匹のヘルハウンドは……あれ? いない?
「正人、やられた! スルトの中身までタコだ!」
「ワイバーンのほうに乗っていたか……まあ、それでも主力の大型を三機もつぶせたから、あとはとどめのさしかただけが問題だね」
……そう、昨日でほとんど勝負はついてしまった。
舞島さんは修復が遅いし、残りのタコはいてもせいぜい二、三体なので、もう豪勢な一斉衝突とかは期待できない。
だからせいぜい逃げまわらせて、派手な奇襲でも工夫してもらわないと。
……管理?
ゾンビ集団で追い詰めて、ドラゴン・タイタン・カワンチャの一斉射撃でフィナーレにしよう。
それにぼくが新開発したミサイル持ちゾンビの新型『ガスト』も花をそえる。
『ホーント』は一発屋で、ミサイルを撃ったあとはスライムなみの動きとゾンビ以下の耐久力しかなかったけど『ガスト』ならミサイルが二発で、しかもゾンビなみになぐり合えるから、かなり使い勝手がいいバランスの自信作だ。
ドラセナさんに頼んで、ゾンビ三体にはタコプリンを入れてもらってある。
昨日の戦闘で得られた豊富な残骸でガスト二体を作る予定だったけど、実はひそかにもう一体、さらに強力な新型を作りはじめてしまい、みごとに材料不足だ。
そんなわけで、ゾンビ三体で作りかけの三体をひきずって、墓地へ材料をとりに向かう。
「正人さん、ほかのかたと相談してからのほうがよくありませんか?」
「アヤメさんとトモちゃんドラゴンがいれば、ここはだいじょうぶだろうから……ツバキさんとドラセナさんがぼくといっしょに来てもらえますか?」
……管理?
「……案内は『鈴木正人を最優先』に指定で……ぼくはカワンチャを借りていこうかな」
みんなはいまだによく眠っている。
なぜだかもうしばらくは寝ている気がする。