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10-2 人の話はよく聞いてよく考えましょう。


 ワシなんで、ユッキーたちにケンカ売ったんじゃあ? 遭難中にふざけすぎもいいとこじゃあ……えらい楽しかったが……


「やたっ! 強くん治った!」


 友恵ちゃん? もしかしてワシ……みんなで今日子嬢に勝って、もう帰れるってところから、とちくるっておったんか?

 いや、舞島さんもおったぞ? あの人もおかしいのか? いや、あのオッサンは正気でもちとわからんが。


 ユッキーと正人が石像を降りて駆けつけてくる。

 正人はそのままワシのビーストに乗りこみおったが。


「ビーストもまだ歩ける。とりあえず研究書庫に行こうか。ペガサスはさっちゃんがお願い」


 しかもさっさと出発しおった。えらい心配げなユッキーとは大ちがいじゃ。


「落ちつけよ強。考えるのは少しずつでいいからな?」


「す、すまんユッキー。しかしそうもいかん。舞島さんはおかしいんか?」


「ん? どっちの意味で……いや、どっちの意味でも合ってるけど」


「そうか。そいじゃあ、まだ舞島さんにミサイルぶっこまんといかんのじゃな……」


 ようやく帰れるっちゅう時に、ワシはなんちゅう下手こいたんじゃ!?


「だから、そんな落ちこむなって。オマエが悪いわけじゃねえ」


 と言われても、なにがどう悪くないのか、さっぱりわからん。

 はしゃいで迷惑かけたんはどう考えてもワシじゃ。


「いや、すまん……!」


「むしろ強でなけりゃ、もっとひどいことになっていた。オマエ本当に『強すぎ』なんだよ。敵になったらよくわかった」


 ユッキー、きさんのふところは深いのお。



 ほんにすまん。ユッキーらの親御さんにどうわびりゃいいんじゃ。

 馬石像の背でアヤメさんの柔らかさに抱えられてフワフワしとる場合じゃなかろう日賀強。

 正人のビーストが行き倒れのタイタンやらを回収しとるが、あれを素手で運びきりたいくらいじゃ。


「強はいつ消えたっけ? 今日子のファントムを倒した時にはいただろ? アレだよアレ」


 今日子ちゃんが負けて落ちこんでおって、まわりはなんかごちゃごちゃ言っておったが……


「オバケのせいでどうこう言っておったか?」


「おいおい、いくらなんでも……オマエどこから聞いてなかったんだ? そういや今日子との戦いは、最後のほうしかいっしょにいなかったか……いや待て、フヨウさんはアヤメさんから情報をもらっているから、ぜんぶ伝えただろ?」


「オバケはこわいとか、ユッキーらもとりつかれて大変だったみたいなことは話しとったが……」


「みたいじゃなくて、もう少しちゃんと人の話を聞けよオマエは!?」


 ユッキー、きさんまで担任のキヨ子おばちゃんと同じこと言うか。

 田舎のリキばあちゃんにもキツく言われとったことじゃが。

 ちゅうか、去年のバレンタインで大敗した原因も『強くんていい人だけど、ぜんぜん話を聞いてくれないから』じゃったのう……


「わ、わりい、言いすぎたか? とにかく気にすんな。ファントムの操作は時間がたてばわかるから……いや、本人がまったくなにも考えていないと、さすがに厳しいか?」


「操作ゆうても、なんかゴニャゴニャ言われとっただけじゃ。それで気が変わったといえば変わったんじゃが……」


「ツヨポン、ファントムにどう操作されていたか、おぼえているの!?」


 ポンてなんじゃポンて。今のワシはそんなに情けないか今日子ちゃん。でもなにをおどろいとんじゃ?


「緑のファントムは細かな操作を苦手とし、日賀強の思考も論理性に乏しく、操作されにくい。互いに脈絡の無い意識の引っぱり合いをして、制御は不安定だった可能性が高い」


 なんかボロクソ言われとる気もするが、頭の良さげな美人さんには言いかえさんでおこう。というか誰じゃこの人。フヨウさんが研究書庫へ会いに行ったというドラセナさんかのう?


「もうちょいくわしく聞かせて。ツヨポン脳ミソで記憶が溶かされちゃう前に情報を引き出しておかねーと」


 今日子ちゃんはスカッとようしゃないのう。



 研究書庫が見えても舞島さんの気配はない。

 管理塔まで今すぐ突っこむかどうかで話し合いになったが、石像を頭数だけでもそろえたいと言う正人の計算と、ワシを休ませたいという友恵ちゃんの優しーい心づかいで修復大会に決まる。


 ありがたいが、ワシはもうだいじょうぶじゃ。

 こまい作業よりは派手に暴れたい気分じゃが……ここはこらえて合わせておくべきじゃと、天国のヨシゾウじいちゃんもささやいとる気がする。

 六十年以上もリキばあちゃんの尻にしかれ続けた賢い人じゃ。

 帰ったら田舎でまともな森をみたいのう。

 こんな植物園と農業試験場をごたまぜにしたような島、キャンプしとっても他人様の庭みたいで居心地が悪いんじゃ。

 平気でいられるなんぞ人形かヘンタイくらいかのう。

 まったく、サバイバル生活中に旅行したくなるとは皮肉なもんじゃ。


「強は休まないでだいじょうぶなのか?」


「勉強は苦手じゃが、根性だけはあるんじゃ。ぼちぼちやっとるが、もうビーストは一時間もかからん」


 幸代ちゃんの手際は相変わらずみごとじゃあ。

 それになにやら、気合の入ったいい顔になっとる……オヤツ食わせ係になりきっとる友恵ちゃんもいさぎよいが。


「くらぁトモチン! 馬の仕上げくらいは済ませなさい!」


 チンてなんじゃあ!? 女子が女子にチンはないじゃろがあ!?

 じゃがワシはここでは新参。むやみに口出しはせんでおこう。

 今日子ちゃんに逆らえばろくな目に合わん気もする。


 正人は……またなんかみょうな石像を作っとるな。

 爪ゾンビの『グール』に包帯ゾンビの『マミー』といろいろ作っておったが、あの『ローパー』ちゅうバケモノ生け花はもう、珍妙芸術の境地じゃな。


「こっちにドラゴンがいるなら、なおさらむだ撃ちさせる防壁が勝負を分ける。舞島さんは戦闘の指示をほとんどださないから、手持ちのタコプリンをペガサスみたいに運動性の高いものや、スケルトンみたいに使いかたしだいなものに分散すると無駄が多い。そうなると修復を優先して出してくる機体は、たぶん大型でミサイル持ちの……」


「あの状態の正人にも逆らっちゃいかんのう。まるで舞島さんみたいじゃ」


「舞島と話したのか?」


「戦場墓地の近くに塩水の川があったじゃろ? あそこで用足しをしておったら石像が近づいてきおったから、ビーストに乗ってみがまえたんじゃが、言葉づかいのていねいなオッサンが話しかけてきたから、フヨウさんがなんか言っておったが礼儀として顔を出してあいさつして……そういえば墓に入るときには、もうマリボウがいっしょじゃったな」


「……強、お前はフヨウさんに何回か謝っておけ」


「ん? お、いかん。そういえばフヨウさんは、岬の神殿に行かせたきりじゃ。早く迎えにいかんとな……まあともかく、戦場墓地で石柱の話になって、模様のことを聞いたら説明が長々と何十分も続いて、ワシが旅先で見た遺跡とのちがいとかも聞かれて大変だったんじゃ。本業は学会をはぶられた考古学者とかなんとか」


 そういえば母ちゃんは来週に帰国のはずじゃが、予定をおかしくさせてしまったかのう?

 書き置きすれば何日か家をあけて山へ行っても気にされんが、呼べば標高七千メートルからでも駆けつけてしまう情の深さじゃ……家をなぐり壊してもケガはせんでほしいのう。



 まだ日暮れまでは少し時間があるころにビーストが治り、ローパーもできて、いちおうは六人分の石像がそろう。

 タイタンは壊れかたがひどくて明日までかかるようじゃが……


「管理塔まではたいした距離でもないし、友恵ちゃんのドラゴンは無傷なんじゃ。この戦力で一気にしかけたほうがよくないかのう?」


 正人は予備のゾンビまでウジャウジャ作りはじめていて、新型のゾンビはちょうどタイタンと同じくらいには完成できるようじゃが……慎重すぎやせんか?


「みんな朝からドタバタ続きだから、少し休んだほうがいいよ~」


 友恵ちゃんは笑って言いよるが……


「外泊なれしとらんもんは、長引くほうがしんどくならんか?」


「それは別に。今までもわたしたちはだいじょうぶだったし」


 友恵ちゃん、ワシは今までだいじょうぶでも、そろそろまずそうじゃと……まあ、優しい意見にいちいち口をはさんでも男がすたるの。


「おい正人、追い詰めているかもしんねえのに、わざわざ相手の戦力が整うまで待つのかよ?」


 おう、ユッキーはわかっとるのう。正人も少し考えなおしとる様子じゃ。


「うーん。それならいちおう、様子見に攻めてみて、なるべく慎重に引き返そう。補給場所から遠いほうが不利なのは確かだし」


 今日子ちゃんはずっと考えこんどる様子で、みんなを見比べておったが……黙ったままじゃのう?



 研究書庫から南の湿地をぬけた先には荒原が続いて、ちょうど石像が隠れやすそうな小山もそこかしこに見えよる。

 その向こうにはバカでかい柱がのびとった。


「あの『管理塔』は岬の神殿くらいに広くて、高さは何十メートルもあるんだって。二十階ぶんくらいだったような……あ、ドラさんによるとこの辺から待ちぶせあるかもだって」


 今日子ちゃんはすでに舞島さんを襲いに立ち寄っておったからくわしい。


「言われてみると、ちょうど左右の小山が怪しいかな? じゃあ、くれぐれも慎重に配置を……」


 正人がなんかごちゃごちゃ言いはじめたんじゃが、ワシは小さいほうの山がより怪しいと見て遠回りに忍び寄る。


「あれ、オイ? 強どこいった!?」


 アホお、大声だしたら気づかれるじゃろが。

 狙いはドンピシャで、ワシはでかいのを一匹しとめ、もどるとほかもなんとかなっておって、舞島さんとの派手な総力戦の勝負はついた。

 これで万事めでたしめでたしじゃな。



「オマエは消える前に、なにか言ってから行け!」


「うまくいったんじゃし、どならんでもよかろうが。兵は神速を尊ぶ、善は急げ、先手必勝、後悔先立たず……いや、すまん。ユッキーの言うとおりじゃ。ひとこと忘れた」


 どうもワシ、そのへんの気づかいはおぼえが悪いのう。

 しかしドラゴンを倒せそうな戦力は一掃できて、タコを四匹も回収できたんじゃから、舞島さんはもう詰みじゃ。

 ビーストとローパーはグシャグシャにされたし、舞島さん本人は捕まえそこねたようじゃが……


「ん? 管理塔にはいかんのか?」


「慎重にしないと。まだどんなしかけがあるかもわからない。石像修復の競争では勝ちが確定したんだから、ここで深追いする必要はない。研究書庫にもどる時間があるならなおさらだ」


 また正人は、ずいぶんとまだるっこしいのう?



 ワシは研究書庫に入って、おどろきの真実を知る。


「毛布……あったんか!?」


「おいおいおいおい強、オマエ、今までどうやって寝ていたんだよ!?」


「浜辺とか石像の上で……そうか。フヨウさんの言っとった宿泊の準備とか、断ってしまったんじゃが、これのことじゃったかあ」


 なんじゃ? 尊敬のまなざしが集まっておるか?


「いやワシは、親につきあっていろいろキャンプとかしとるから……」


「誰もほめてねえよ……いや、たいしたもんだとは思うが」



 日が暮れて修復も締め切られると、やたら豪勢な食事が出てきよった。


「なんじゃこりゃあ……そうか、フヨウさんの言っとった食事の準備とか、断ってしまったんじゃが、これのことじゃったかあ」


「フヨウさんかわいそう」


 女子三人の口がそろいよった。


「んな……ワシは男子失格かあ? こんなところじゃし、自分でとったもんは自分で食ったほうがいいと、気をつかったつもりだったんじゃが……」


「判断はともかく、理由はやっぱりダンディだねえ」


 友恵ちゃんありがとう。ありがとう。優しい女の子がいるもんじゃなあ。



「なんじゃ、こ、りゃ……!?」


 もはや、うめきもろくに出んが。

 まったくの間近に、男女の毛布が並んでおるぞ……!?


「強くん、変な気を起こしたら後悔じゃすまさないからネ」


 いつの間にか背後へまわっとる正人がドスをきかせてささやきよる。


「お……おう」


 しかし誰よりも変な気を起こしそうなくせに、あつかましいヤツじゃ。


「ツヨポン、これは潜入型ファントムの対策に、案内人さんが見張りやすいようにしているだけだから。そんなあからさまに喜ばないでねー」


「いやっ、すまん今日子ちゃん! たしかにちと、はしゃいどった!」


 って、なにを言っておるんじゃワシは!?

 これでここの女子にも『いい人だけど無理』と思われるんか!?


「……ユッキー、この素直さを少しは見習いなさい。マー坊、この恥じらいを少しは見習いなさい」


「強くん、つくづくダンディだねえ」


 今日子嬢と友恵ちゃんは意外にもいいように思ってくれたようじゃ。幸代さんもうなずいておられる。

 ワシの青春は首の皮一枚でつながったんか!?

 この流され島、こと女性にかけてはまちがいなく楽園じゃ……楽園じゃ!


 ……まさかこれ、ぜんぶ悪霊に化かされとるわけじゃなかろうな?




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